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第1話:~異世界への旅立ち〜

お待たせしました、第1話です。

異世界突入しましたが、まだまだ異世界ライフには突入しません。

本当に序章です。

変わらずの駄文ではございますが、お楽しみください。

それと、できれば感想がほしいです。

感想、ぜひ書いてください。どんなことでも結構です。

第1話:~異世界への旅立ち〜


-----


辺り一面真っ暗な空間に、自称神様を名乗る爺さんがプカプカと空中を漂っていた。

ここがどこなのかは分からない。

とにかく辺り一面が真っ暗で、地面というものは無いらしい。

かくいう俺と彼女も、目の前で浮いている爺さんと同じように宙をプカプカしていた。


「「・・・」」

互いに顔を見合わせて、ハァーっと溜め息をこぼす。

体にかかる感覚は、何だかよくわからないが皆無である。

これが無重力というものなのだろうか?

体に体験した事のない不思議な感覚 (感覚が何も感じられない為に違和感がある)を

この体に感じながら、目の前で楽しそうにプカプカしている爺さんの方に向き合う。

それを合図と受け取ったのか、爺さんは皺だらけの口を開き始める。


『おぬしらがこれから行く異世界はの、魔法が世界の基盤となっている所じゃ』


『じゃが今まで魔法というものが架空のものでしか存在していなかった世界、』


『そこに住んでいたおぬしらには、魔法がどのようなものなのか分からんじゃろう』


『おまけにこの世界には魔物も多く生息しておる』


『せっかく転生させたというに、即刻死なれてはわしも面白くないのでな…』


『なので、おぬしらにはその世界の誰もがビックリする様な力をやろう』


『何の力なのかは追々おぬしらが自分で理解できる時が来るじゃろうから、それまでの…』


「「それまでの?」」


『いわゆる”お楽しみ”という事で期待しておくがよいぞ。ホッホッホッホッホッ!!』


「「だからその”お楽しみ”の中身が何なんだよ(のッ)ッ!?」」


『・・・、知りたいかの?』


「知りたい知りたくない関わらず、俺たちにとって大事なことだから教えろよ!?」


「そうそう!!」


『しょうがないの~・・・。 よいか、一度しか言わんからの。よく聞くんじゃぞ?』


「「ああ(は~い)」」


『まずおぬしらに与えた”誰もがビックリする様な力”の詳細じゃがな…』


「ビックリする様な力とは?」


『魔法を扱うための素質を、すっばらしいくらいに高レベルにしておいたのじゃ』


「「ふむふむ」」


『次に身体能力の方じゃが、おぬしらの世界であった”あにめ”というものから

 ヒントを得たのじゃがの』


「「ヒントを得て…?」」


『パシュンッッって瞬間的に高速で移動ができたりの・・・』


「おお~~~~~~~ッッッ!!!!!!」

歓声を上げて目をキラキラと光らせたのは、隣でプカプカ浮いている彼女である。


『なんじゃ、娘さん。 そんなに嬉しいのかの?』


「うん! すっごく嬉しいッッ!!」


『何がそんなに嬉しいのかよく分からんのー。 青年よ、おぬしはなにか分かるかの?』


「なんとなく理由は想像つくが、それよりも先を続けてくれ」


『そうかの。 あとはこの世界で魔法を発動するには詠唱が必要なんじゃが、その詠唱を

 おぬしらには必要無いようにしてやったぞい』


「そ、それって・・・ チートじゃない?」


「チートだな。 とんでもなく強い能力だな」


『まあそれ以外に述べる点と言えば、おぬしらの身体能力が強化されておるという事。

 それとおぬしらの魔法使いとしての素質に関しては、面白そうだったからの、

 一般人における魔法の常識からは考えられないほどのモノにしておいたぞい』


「「・・・」」

爺さんから聞いた、俺たちが異世界に転生した際に与えられる能力をまとめてみよう。


1:魔法を扱うための素質がえらく強い

2:瞬間的に”高速で”移動することができる(つまり、すごい速さで動き回る)

3:魔法の詠唱が常人は必要なのに、俺たちは無詠唱で魔法を発動可能

4:身体能力もそれなりに強化されている


いわゆる、「俺TUEEEEE」である。

それもかなり強すぎるというかチート過ぎるというレベルで。


『まあその力をどう扱うかはおぬしら次第じゃ。ただ、あまり世界を壊さんように。

 わしから伝えることは、これだけじゃ』


「なんか強すぎる気がするが、まあいいか」


「そうそう、気にしない気にしない~」


『ではのおぬしら、良い異世界ライフを楽しむとよいぞ』


自称神様を名乗る爺さんのその言葉がこの空間に響くとともに、意識が遠のいていった…


-----


「夢、か…。というか、夢なのか?」

目が覚めた。


上体を起こして周りを見てみると、俺と彼女はだだっ広い草原に大の字になっていた。

周りが暗いことから、恐らくは夜の時間に入っているのだろう。

隣には例によって彼女がスヤスヤと幸せそうな表情で寝息を立てている。

その彼女の反対側には、俺の相棒(L96)もゴルフバッグに包まれて横になっていた。

ただ恐らく、爺さんの言っていた能力が本当にこの体に宿っているのならば、

当分は使わなくなるかもしれないが。



「ここはどこだ? 爺さんと話した場所とは、違うな…」

辺りを見渡してみるが、自称神様を名乗る爺さんとおかしな事を話した、

あの心が晴れ晴れするような空に包まれた緑の美しい草原ではない。

かといって、先ほどまでいた無重力の空間でもない。

辺り一面に広がる景色には、青々と生い茂る背の低い草が延々と生い茂っている。

それだけで言うのならば、ここはだだっ広い草原である。

たった一点を除いて。


その一点に気づき、目が点になるほど驚いた。

空の色合いが、今までこの目で見てきたものと決定的に違うのだ。


「なんだこの空の色は…、初めて見たぞ?」

頭上に広がる空の色合いは、時間的には夜なのだろうが(この世界における正確な時間の

算出の仕方が分からないため、恐らく夜であると仮定)、

この景色を彩る空がなんと濃い緑色をしているのだ。

俺の常識において、空は人間の眼には青く映るという科学的根拠に基づいて出された知識が

あるためか、この目の前に広がる空の色には違和感を感じる。

なにがどのようになってこの色を出しているのか、理解ができない。


「これが爺さんの言っていた”異世界”、なのか・・・?」

たった一つ、しかしかつて生きてきた世界とは決定的に違う部分を見ただけで、

頭の思考と理解が追い付かなくなっている。

考えれば考えるほどドツボにはまっていき、科学的に説明ができなくなってゆく。

住んでいた世界と根本から異なる独自の法則があるのであろうか?

根本から異なる法則によって生み出された世界だから”異世界”なのだろうか?

訳が分からなくなっていく・・・。

ただ、爺さんの話によれば、この異世界には魔法があるというのだから科学的に説明が

できないのは、仕方がないことで当然なのかもしれない。


「う~ん・・・ってなにコレ!?」

隣で眠っていた彼女も起きてきた瞬間、空の色合いをみて驚く。

口をあんぐりと開けてただ茫然としているその恰好は、なんだかおもしろい。


「ここが、爺さんの言っていた”異世界”というやつだろう。あぁ、安心しろ。

 あんたが口をあんぐりと開けて驚いてるように、この空の色の理屈は俺も理解不能だ」

「あ、そうなの? てか異世界でなきゃ、この空の色は説明できないよね・・・」

「ああ・・・、全く頭が痛いよ」

異世界というのは、ここまで俺たちが生きてきた世界と違うものなのか。

空の色といいなにやら、やっぱりこの世界を構成している森羅万象の法則は、生前いた

世界とは根本から異なっているとしか思えない。

だめだ、考えれば考えるほど本気で分からなくなってくる。


「どうすればこの事態を説明できる・・・?」

「どうすればこの事態を理解できる・・・?」

2人して思考のドツボにはまり、頭を抱えて本気で考え込む。


~考える事数分後~


「ダメだよ、情報が少なすぎるって」

彼女が両手で抱えていた頭を不意に上げて、彼女が出した結論を口にする。


「よくよく考えたら私たちってこの世界のこと、ほとんど知らないじゃない。

 それにこの空の色が見たことのないものだってことからも、私たちが前に住んでた

 世界とは、多分なにかが根本から違うんだと思う。

 私たちがいた世界とこの世界とは、世界を作ってる森羅万象システムが違うと思う。

 当てはまらないパズルのピースを無理やりはめたって、はまるはずがないのと同じ…」

「なるほどな、当てはまらない物に無理やり入れても駄目、か・・・」

少し状況を整理してみよう。

彼女の言いたいことをまとめると、要はこうなる。


俺たちの常識は恐らく通じないと彼女は結論付けた。

その根拠は、空の色が俺たちの常識に当てはまる色合いではない事から。

空の色合いは俺たちの常識では”青空”としてこの目に映る。

しかしこの世界の、俺たちの上に広がる空は”深緑色”をしている。

空がそのような色になる理屈は、俺たちの科学の理屈では説明ができない。

だが空がこの色を持つには必ず理屈があるはずで、それが科学では説明できないだけ。

つまりこの世界においての常識を理解すれば、この世界の仕組みも理解できるだろう。

しかしながら、俺たちは転生したばかりであり、この世界の常識を筆頭とするあらゆる

情報が不足している。

情報が不足している中で考え込んだって、何のメリットもない。

だから考えるのはやめて、とりあえずこれからどうするのかを考えよう。


と、言っているのである。


「ふむ、では情報を得るためにはどう動くかだな。

 一番手っ取り早いのは町やら村やら、とにかく人が集まる場所に行くことだが…」

「それの場所も分からないのよねー…」

2人揃って今度はガックリと肩を落としてうなだれる。


辺りをもう一度見まわしてみるが、特に何の変化があるわけでもない。

見まわしてみて分かった事といえば、ここは比較的穏やかな丘陵地帯になってるという事。

ただ草原が向こうまで続いてる中に、茶色っぽい道筋らしきものが見える。

恐らくあれは街道なのだろう・・・


「あんた、あの茶色の道らしきやつが見えるか?」

「うん? あの細長く向こうまで伸びてる線っぽいもの?」

「ああ、それだ」

「どうするの? ってそうか。あれに沿って進んでいけば…」

「そう、人が集まる場所にたどり着くかもしれない!」

「問題はどっちに進んでいくか…ってことだね」

「そうなんだが…、うん? 馬車がこっちに向かってくるぞ?」

「え、どこどこ?」

向こうまでずっと続いている草原にすっと伸びる街道の先から、

馬車がこちらに向かってきている。

手元のゴルフバッグから相棒を取り出し、スコープを覗いて馬車を確認してみる。

馬車を曳いているのは…少女?

その後ろから追いかけている人物が複数人ほど確認できる。

服装は黒の布を肩から羽織って、頭には同じ色合いの布で目以外の顔全体を覆っている。

その手にはナイフや、どこから見ても銃刀法に引っかかりそうなサイズのサーベルを所持し、

馬車を追いかけている。


「盗賊…か?」

「えっ?」

「馬車を曳いているのが10代前半くらいの少女だったんだ、その後ろにナイフやサーベル

 を持って追っかけている連中がいる。恐らく連中は盗賊で、馬車は盗賊に襲われている」

「それって大変じゃない? 早く助けなきゃ!」

「助ける? どうやって?」

「それはもちろん、さっきのあのおじいさんが言ってた能力を試すでしょ」

「・・・マジで?」

「モチのロン」


正直に言おう、こんなに早く力を使うことになるとは思わなかった。

というか何の能力を試すというのだろうか、彼女は。

そんな疑問を感じ取ったのかどうかはわからないが、「フフン」と言って

彼女は自らが試そうと思っているチート能力を口にする。


「もちろん、最初はやっぱり瞬間的に高速で移動するあの技でしょ」

「あの『BL〇〇CH』の『瞬歩』もどきを試したいわけか?」

「うっ、な、なぜそれが分かった…!?」

「いやなんとなくだったが、夢の中でのはしゃぎ方からそれか?っておもった」

「なかなかするどい!? 頭が切れてるね…」


いや、この問題の場合頭が切れてるかどうかは関係ないと思う。

その漫画を読んでいれば誰でもわかるネタだしな…


「で、瞬歩もどきを使ってあの盗賊の一味をぶっ倒すってことをやるのか?」

「そうしなきゃ、貴重な情報源が殺されちゃうもの」

「OK。じゃあ初陣としゃれ込もうか?」

相棒の狙撃銃ライフルが入ったゴルフバックを片肩に担ぐ。

「頑張っていこう~」

お互いに相手の顔を見て確認する。

彼女は、日系の整った顔立ちに日本人離れした色素の薄い真っ白な肌と、青い瞳。

そして腰まで伸びるサラサラのストレートロングの黒髪。

見れば見るほどとても綺麗だと思ってしまう。

ここまでの大和撫子の女性像を体現した女性は中々いない。


「はやく、行こう?」

「あ、ああ・・・。 悪いな。 じゃあ今度こそ、行くぞッ!」

「ええ!!」

その瞬間、俺は瞬間歩行で移動した先、つまり到達するポイントを頭の中で決めて、

地面を思い切り蹴った。



-----


「なっ!?」

地面を思い切り蹴ったその瞬間、周りの世界が一瞬で後ろへと一気に流れた。

体に感じるのは前方から吹き荒れるとてつもない強さの風。

これが飛行機などが感じている空気抵抗そのものなのだろう。

てかこれってもう台風とかのレベルをはるかに超えてる。

チート能力恐るべし。

それだけの空気抵抗を受ける速度で移動しているわけなのだから、見えるものと言えば

流れていく視野の中で唯一はっきりと視認することができる、目の前の

”盗賊たちに追われる馬車”だけ。

「しまったッ!? この速度で突っ込んだら馬車は壊れて俺も死んじまう!」

力を過信した結果、さっそくピンチに陥る。

とにもかくにも急いで俺の体が飛んでいく軌道を変えなければ、馬車へ突っ込む。

そうなれば、俺たちがせっかく助けようとしている馬車を曳く少女を

悲惨な目にあわせてしまう。

「どうする!?」

無我夢中で元々の到達ポイントを無理やり頭の中で変更して、さらに体をねじり回す

ような感じで動かして、必死に体が飛んでいく軌道を変えようと試みる。

するとこのチート能力がどのような仕組みなのかは分からないが、体はきちんと、

頭で再度設定しなおした到達ポイントに立っていた。


「イツツ…、とりあえず馬車に突っ込まなかったから良しとするか」

周りを見てみると、口をポカーンと開けて唖然としている盗賊の一味計5名がいた。

ついでに言うと、馬車を曳いていた少女も同じような表情をしている。

まあ彼達からしてみれば、俺はいきなり目の前にフッと現れたように映っているのだろう。

いわゆる”未知の存在”という認識なのだろうか?

しかしまあ、その場にいる人間全員が同じ表情をしているというのも中々面白い。

そして盗賊たちを殺るのであれば、今が一番のチャンスでもある。


内心では馬車にぶつからなくてよかったと冷や汗をかきながら、表面では

極めて冷静な風を出して盗賊たちに話しかける。



「さて、と。 ボーっとしてる間に悪いが、盗賊さん方には消えてもらうぜ?」

「ッ、て、テメェ、何者だ!?」

自分らに掛けられた言葉を聞いて意識が現実に戻ってきたのだろう、盗賊の内の一人が

俺にサーベルを向けながら答えを返してくる。

しかしその心の内にあるのは、俺への恐怖だろうか、向けられた盗賊のサーベルが

よく見るとカタカタと小刻みに細かく震えている。


「怖いか? 俺が」

少し口元を歪ませて、再度サーベルを向ける盗賊の一人に向けて質問してみる。

「こ、こ、こ、怖いなんて、んなわけ、あるかッ!」

だがその言葉とは裏腹に、サーベルの震えがどんどん大きくなっていく。


「とりあえず、あんたら。 盗賊やってたことを後悔しながらあの世に行きな」

この場をとりあえず丸く収めるために、死刑宣告グッバイを盗賊たちに言い渡す。

「ふ、ふざけんな!! 野郎ども、返り討ちにしてやれッ!!」

「「「「お、おぉーーっ!」」」」

盗賊のリーダーらしき人物を中心に、一味が再度陣形を整える。

先ほどと違うのは、その標的が”馬車ではなく俺”に向かっているという事。

なるほど、図らずも状況はよりこちらが有利になっている。


「そこの馬車! さっさと走れッ!!」

「は、はいッッ!!」

馬車に大声で呼びかけると、少女の声が返ってくるとともに馬車は全速力で進み始める。

「し、しまった!?」

盗賊のリーダーが慌てて後ろを振り返って馬車を見るが、もう遅い。

「よそ見してる場合じゃねぇよな?」

「ッ!?」

盗賊のリーダーが隙を見せた瞬間、到達ポイントをリーダーの頭上に決めて地面を蹴る。

刹那、盗賊の頭上に瞬間歩行した俺はその勢いで頭を蹴り飛ばす。

しかし勢いの割には2m位程という短い距離を飛んでいったその体は、しかしピクリとも

動く気配がない。

「若頭!?」

途端、盗賊の一味が混乱する。

その隙をついて、若頭と呼ばれていたあの男と同じように蹴り飛ばしていく。

最後の盗賊を蹴り飛ばしたその時になって、ようやく彼女が到着した。


「ありゃりゃ、もう終わっちゃった?」

「ポイントの設定を間違えたな?」

「うん・・・、結構難しいね。 よくあそこまでコントロールできるねー」

「ありがとさん、それよりも馬車を逃がしたばかりなんだ。 追うぞ」

「え、ちょっと。 私まだ瞬間歩行できないんだけど・・・」

「俺に掴まれ、急ぐからな」

彼女の腰の辺りを右腕で抱え込むように彼女の体を持って、座標を馬車の後ろへんに

設定したうえで地面を思い切り蹴る。

「ちょ、ちょっと!? って、いぃぃぃぃぃゃぁぁぁぁーーーーーーッッッッ!!!!!」

視界が後ろに高速で流れていくのとともに、彼女の叫び声が木霊していく。


-----


ほんの一瞬の間にあの少女の曳く馬車のすぐ後ろに、瞬間高速歩行を使って

追い付くことができた。

というか馬車は馬車で結構な速度で全力疾走していたせいか、盗賊と俺が乱闘した

所からわずかな時間で結構離れた所を走っていた。

ようするにかなりの距離が開いていたわけだが、その距離を1秒と掛からずに

一気に詰めてしまえたから、この能力は本当にチートだと改めて思う。

自分が停止するポイントを頭の中で決めて、後は地面を勢いよく蹴れば

そのポイントに移動できてしまうのだから。


「おーい、そこの馬車! ちょっと待ってくれ!」

恐ろしく速い速度で馬車に追いつくと、すぐに大声で馬車を曳く少女に呼びかける。

呼びかけられた声に聞き覚えがあったのか、馬車はすぐに動きを止める。

それを確認すると、腕に抱えてる彼女を下ろして馬車の御者席に向かって歩いていく。

すると御者席から馬車を曳いていた少女が下りてこちらに向かってくる。


「ああ! やっぱりあなたはさっき盗賊から助けてくれた方じゃないですか!

 それとそちらの女性の方は…?」

馬車から降りてきた少女は、さっきスコープ越しで見た通り、12~14歳くらいの

亜麻色のセミロングの髪が特徴的な女の子だった。


「ああ、彼女は俺の旅の相棒だ。 それよりも、怪我はないか?」

見たところ少女の体には傷らしきものは見受けられないが、念のために聞いてみる。

「おかげ様で私も運んでいた荷物も無事です! ありがとうございました!」

感謝の言葉を述べた少女は、ぺこりと深くお辞儀をする。

「いやいや~、お礼を言われるほどのことじゃないよ~。お荷物も無事だったのなら、

 なお私たちが助けた甲斐があったってモンだし」

「彼女の言う通りだな。君が何か気にするほどの事でもないよ」

「いえいえ、すっごく気にしますよ! 何かお礼をさせてください!」

顔をズイッと俺に近づけてくる。その表情からは「お礼をさせて!」という

少女の言葉が伝わってくるような感じがする。

チラッと横目で黒髪ロングの相棒を見やると、やれやれといった表情で微笑を浮かべていた。

恐らく俺も彼女と似たような表情をこの少女に向けているだろう。


てか、ちょっと待て。

少女に対して最初は”礼はいらない”と言ったが、そもそもの所、少女を救出したのは

”この世界の情報を得るためのいわば貴重な情報源”だったからである。

おっそろしいほどの速度で歩行するあの技のとんでもスペックやら盗賊騒ぎやらで、

少女を救出する肝心な目的をすっかり忘れてしまっていた。

とはいえ、目的を思い出したのなら、やるべきことは一つだろう。

「そこまで言うなら、お言葉に甘えようかな?」

なので微笑を浮かべたその表情を崩さず、少女に”お礼”をお願いする。

「はい! 是非ともよろこんで!!」

少女の表情がキラキラと輝く笑顔に変わる。


「で、何を私はすればいいのでしょうか?」

馬車の御者席に腰かけて少女はお礼として何をすればいいのかを聞いてくる。

「なに、簡単な話だよ。 俺たち、実は遠い異国の地から旅をしてきていてね。

 この大陸における一般常識というものが全く分からないんだ。

 だから君が知っているこの世界の一般常識を片っ端から教えてほしいんだ。

 あとは近くの町まで案内してくれると、俺たちは大助かりなんだが…」

「わっかりました!! そんなことならお安い御用です!

 なので馬車にでも乗りながらお話ししましょう! 私の目的地もここから一番近くの

 町なので、しばらく一緒にご案内できます!」

「ありがとう。 それと、俺の名前は『シン』だ。彼女は…」

隣で立っている彼女に目配せをして、自分の名前を名乗るように合図する。

というか一緒に旅していたと少女に言ってしまったが、よくよく考えたら俺は黒髪の

彼女の名前を一度も聞いたことがない。

彼女もそれを理解したのだろうか、合図を見て自分の名前を名乗った。

「私は飛鳥あすか優美子ゆみこっていうの。 ユミでいいわよ」

「シンさんにユミさん、よろしくお願いします! 私はエリンです!

 では早速、行きましょう!!」


そんなわけで多分、俺たちの異世界ライフは序盤は順調に流れ始めたと思う。

まだまだ分からんことだらけではあるが…。

次は馬車の中での3人の会話と、この世界の常識を

書いていきたいと思います。

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