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第8話:~冒険者登録からの精密検査?~

本当にお待たせしました。


第8話、お楽しみ下さい。

第8話:~冒険者登録からの精密検査?~

-----


夕方の公園、俺はビルで心中した時と同じ服装で立っていた。

ふと何気なく見てみると、ブランコに座って泣いている少女がいた。

街の風景を見るにヨーロッパの何処かにある公園、

夕刻の公園でただ一人、少女は泣いていた。


夕方になったばかりで周りはまだ明るいのだが、

見渡しても少女以外に子供はいない。

子供だけではなく大人もいない。


どうやら少女は本当に一人ぼっちで泣いているらしい。


少女は体格的に5~8歳位だろうか、白人には決して

見られない綺麗で艶のある黒いショートの髪が特徴的だった。


そんな少女に、真っ白でボサボサの長い髪の少年が

ゆっくりと少女に近付いていく。

その少年の姿に俺は見覚えがあった。何故なら、

(あの少年は紛れもなくガキの頃の俺だ)

真っ白な長髪というのは何処にいっても殆ど見掛けない。

地毛の銀髪ならなおのことだ。

何よりも、顔つきが現代の俺と殆ど変わっていない。

少しばかし幼げな所はあるものの。


泣いている少女に近付いた子供の頃の俺は、やがて

少女の前に立った。

少年は、その口を開いた。


俺は少年が何を言っているのかを聞き取れる程近付いて

いなかった為、その内容を聞くことは出来なかったが、

少年が口を閉じると同時に少女は顔を上げた。


その少女の顔は、何故かモザイクが掛かったように

はっきりと見ることが出来ない。

テレビで見るようなモザイクではなく、霧のような

白いモヤモヤが顔を覆っていたのだ。

見ることが出来たのは精々鼻の下、顔の下半分だったが、

それでも子供の頃の俺に手を引かれて公園の中を一緒に

走り回る少女の表情はとても明るかった。

顔の下半分しか見えなくても、楽しんでいるのが分かる。


(そういえば、こんな事もあった...)

子供の頃の俺と連れられる少女達を見ながら、

視界がホワイトアウトしていった。


ーーーーー


チュンチュンという小鳥の鳴き声で俺は目を覚ました。

しかしどういう事だ、朝のはずなのに周りは真っ暗じゃ・・・

「そうだ…。ここは異世界の永夜域じゃないか」

理解は出来ても、今までと大きく異なる周りの風景にはどうしても違和感を感じる。

まあこれも慣れればそのうち気にならなくなるだろうと位置付けて、

ベッドから体を起こす。


その後はYシャツのボタンを緩めた上で、ポキポキと音を

鳴らしながらストレッチをして体をほぐしていく。


ストレッチが終わった後はヨガを軽くやり、

最後に禅を組んで精神統一をする。

これが俺の毎朝の日課である。


ちなみに座禅を組むという行為はやってみると意外と落ち着くものだ。


日課を済ませた俺は朝食を作る為、調理場へ向かう。


あと、俺の中では朝の6時過ぎ頃という感覚なのだが、この世界は一体

どうやって正確な時間を出しているのだろうか。

ふと右手首に着けた腕時計を見やる。

”JST-AM 6:00/ CET-PM 10:00/ GMT-PM 9:00/ EST-PM 5:00”

というデジタル表記が順番に画面に出る。

俺の腕時計は一部アナログ式で、長針と短針と秒針が実際に機械仕掛けで

時を刻むのだが、数字の5から7までが時計には書いておらず、その部分に

デジタル時計のような画面が付いているのだ。

今の表示はその部分に表示された内容である。


ちなみにJSTは日本標準時、CETは中央ヨーロッパ(イタリアのローマとかが

用いている時間軸)GMTはイギリスの標準時、ESTはアメリカ東部にある

ニューヨークや首都のワシントンDCとかが用いる時間軸をそれぞれ示している。

なんでこんなに表示するかというのは、俺の隠れ家のある地域の時間軸は

常に把握しておく必要があるからだ。


脱線したが、生前の時間軸と俺の中の時間感覚は大体合っているみたいだ。

問題はこの世界が何時間を一日として周期としているのかや、正確な時間をどのように知るのか等である。


「なんというか、落ち着いてから改めて考えると、知らなければならないのに知らない重要な情報が多いな...」

とはいっても元々この世界の住人ではない以上、俺達がそういった情報を得る為には誰かの協力が不可欠である。


幸いにも、俺たちの身近にセシルという頼れる人物がいるわけなのだから、慣れるまでは遠慮なく頼らせてもらうとしよう。


「さて、現時点で最優先に処理しなきゃならん問題は俺のゴルフバッグだな」

エリンがギルドに来る時間というのが大体何時頃なのかは分からない。セシルが俺を起こしに来るというような事は無かったので(彼女の性格的に多分時間がヤバイ時には起こす等の行動を取るだろう)恐らくはエリンが街を出発するまでにはまだ時間があるのかもしれない。


禅を解き、大きく伸びをしてから自分に割り振られた部屋を出て大広間に行く。


階段を降りていく最中、鼻をとても美味しそうな料理の匂いがくすぐる。

「しまった、セシルにさせてしまった」

取り敢えず調理場の方へと早歩きで行く。


調理場の扉を開けると美味しそうな料理の匂いがより強く鼻をくすぐった。

調理場に包丁で切った際にまな板を叩く音がトントンと響いている。

セシルはギルドにいるときの様にとても手際よく朝食を準備していく。

その手際の良さに見惹れているとセシルの方から声が掛かる。


「シンさん、朝食は私が用意しますからユミコさんを起こしてあげて下さい」

「分かりました。ではお言葉に甘えて、ユミを起こしてきます。

終わったら食事を運ぶ位は手伝います」

「はい、ありがとうございます」


セシルは再び朝食作りへと戻る。

俺は回れ右をして、トイレに寄ったあと大広間の方へとユミをお越しに行く。



大広間は、昨日の夕食の時ほど灯りをともしていないため、かなり暗くなっている。

普通に太陽が顔を見せる地域であるなら天井にある天窓から陽光が降り注ぐのであろうが、ルフェルンは永夜域であるため、その光景を見ることはない。


だがどうも、今までの生活習慣としては朝の時間に太陽の光を見ることが出来ないという事にはやはり違和感を覚える。


そんな事を考えながら大広間へとたどり着く。

この部屋にまでセシルの作る朝食の匂いが充満している。

ユミの寝ている部屋のある二階への階段を登ろうとすると、この臭いに惹かれてきたのかユミがちょうど階段から降りてこようとしているところだった。

ただ、昨日より引き続き表情はどこか不機嫌そうな印象を与えるものだったが。


「おはよう、ユミ」

「...おはよう」

声色にもはっきりと不機嫌な感情を匂わせるほどにどうやら彼女は機嫌が悪いようだ。

「あー、その、昨日のセシルさんの部屋に入っちまったのは、内心結構焦っててな?故意にやったわけではないんだ」

「...でも女の子の部屋に部屋主の許可なく入ったという事実は変わらないじゃん」

「いやまぁそうなんだが...」


確かに彼女の言うことはごもっともである。

異性の部屋に相手の応答を待つことなく無理矢理押し入るという行動は、少なくとも決して誉められるような行為ではない。

しかも男が女の部屋に押し入るというのは常識的に考えても大問題とも言える。

そんな行動をしたのだから、セシルと同姓であるユミが怒るというのも分かる。分かるのだが...


(セシルではなく、なんでユミがここまで不機嫌になるんだ?)

この一言に尽きるわけだ。


ただまあ、それを口に出そうものなら恐らく更に不機嫌度が上昇するのは容易に想像できるため、胸の内にしまっておくが。


「ともかく、セシルさんがわざわざ朝食を作ってくれている。もうそろそろ出来るだろうから、今のうちに用を足すなり顔を洗うなりしておいた方がいいと思うぞ」

「...ねえ」

不機嫌な表情そのままにジト目を向けるユミ。

思わずたじろぐが「なんだ?」と返すと、

「あとできっちり事情の説明という名の尋問をするからね」

というなんとも言えん約束を一方的にされてしまったのであった。


ーーーーー


大部屋でセシルが作ってくれた朝食を食べながら、今日の予定について改めて詰めを進める。

「えっと、この後はギルドに行ってエリンさんを待ちましょう。

それが終わったら今度はユミさんの魔力の調査を行い、最後にAランクのクランの皆さんに協力してもらってお二人の戦闘訓練をします」

「分かりました」


と話を進めながら朝食を片付け、セシルの自宅を出る。

外は朝だというのに真っ暗で、道の端に立っている街頭モドキが仄かに暖かい光を放っているのと、他の家の窓から漏れる部屋の光以外に光源はない。

昨日と変わらず、空は濃い緑色をしている。


「ではお二人とも、ギルドに急ぎましょう」

戸締まりを終えたセシルの先導のもと、冒険者ギルドへと向かう。


細い路地を幾つか抜けて、馬車も通れる大通りに出ると、朝に到着したばかりの商人たちの牽く馬車が通りを進んでいく。


馬車の邪魔にならないよう端を歩きながらギルドに着くと、昨日乗せてもらった見覚えのある馬車が停まっていた。


「エリンさんはもう来ていらっしゃる様ですね」

「まだ出発していなくて本当に良かったです」

「では、ギルドに入りましょう」


ギルドの中は時間帯のせいか、ギルドカウンターへ並ぶ人や、待ち合い用と思われるテーブルが殆ど空いている。

その中の一つに、俺が肩に背負っていたゴルフバッグが乗せられ、その前の椅子にエリンが座っていた。


エリンは俺たちの姿を見付けるとハッとした様な顔をして、重たいであろうゴルフバッグを両手で支え、トテトテと歩いて来た。


「シンさん、コレお忘れ物です!」

「ありがとう、本当に助かったよ」

ゴルフバッグを受け取り、早速肩に掛ける。

するとエリンの方からこんな事を聞かれる。

「ところでその袋?みたいなもの、何だかすっごく重いんですけど、一体何が入っているんですか?」

「うん?この中には俺が使う武器が入ってるんだけどな、あまり人前に晒せない物なんだよ。その..形がさ?」

「あ、そういう事情のある武器でしたか。

確かにあるんですよねぇ、あんまり人前に見せたくない形をしてる武器って。

とにかく、確かにお渡ししました!

じゃあ私はこれでこの街を出ますけど、いつかはシーサヴァイの街に来てくださいね!」

「ああ、いつかきっと行くよ。

それと、ありがとう。お陰で助かった」

「エリンちゃん、元気でね」

そう言うとユミはまたエリンに頬擦りを始める。

「うにゃあぁぁぁぁ、やめてくださいよぉ~」

「これがええんのかぁ?」

「やめてぇぇ...」

「ユミ、止めてやれ」


エリンの目がトローんとしてきたので止めに入る。

少しして気を持ち直したエリンは席を立ち、俺たちに向けて満面の笑顔をして、

「では、またお会いしましょう!」

と言ってギルドを出た。


-----


「では、まずはカウンターの方に来てください」

とセシルに言われて俺たちはカウンターの椅子に腰掛ける。

その時に一瞬、この時間からギルドにいた男性冒険者らしき男達から殺気を向けられたが、殺気を込めて睨み返して黙らせる。


「それでは私は書類を取ってきますので、ここでお待ちくださいね」

「はい、お願いします」

セシルがカウンターの奥に消えると同時にユミが口を開く。


「この後の私の精密検査と訓練、楽しみだねー」

ニコニコの笑顔をして、ワクワクが止まらないといったような表情だ。


「検査の結果がどうなるかはともかくとして、クランの者がどんな人間像なのかが少し不安だな。

下手に絡まれたりするのは厄介だ」

「そういう問題ってやっぱり起こるかなぁ?」

「無いに越したことはないけどな」

苦笑を返すと、セシルが戻ってくる。


「お待たせしました。

こちらの書類の方に署名をお願いします。

それとお二人は事情が事情なので、お二人が書ける文字でご記入頂いて構いません。

お二人が将来もし名の売れた冒険者になられた時、能力が特殊ですから何かにつけて偽物が出るかもしれません。

その時の本物の証明ってことで、お二人にしか書けない文字でご記入ください」

「ラファル語でなくてもいいのですか?」

「はい、お二人の母国語でお願いします」


馴れない文字を書かなくてもよくなったので、俺はアルファベットでこの世界での名前を筆記体で記入した。

ユミはそれを見て、楷書体のアルファベットで自分の名前を記入した。


「これが俺たちの母国語で書いた名前です」

書類をセシルが見易い様に向きを変えて手渡す。


書類を受け取ったセシルは、書かれた文字を静かに見つめて、ふと口を開く。

「シンさん達の世界では、このような形の文字が使われているのですね。

 こんな綺麗に流れるような美しい文字は初めて見ました」


なにやら感心したような表情を浮かべるセシル。

カウンターで書類の端をトントンと揃えると、「では検査の準備をしますので、お二人ともこちらに来てくださいますか?」

と言い、セシルはカウンターの、通路の上に橋渡しのような形になっている部分を上に持ち上げてこちら側に書類を持ったまま来る。


「では、検査を行う場所へ移動するので付いてきてください」

「はい」

そのままセシルの先導でギルドの通路を進んでいく。

途中途中で複数ある階段を何度か下った先に着いた場所は、床全体が砂地になっている訓練場だった。


本来なら冒険者同士での模擬戦などを行うための場所なのだろうが、今は砂地の真ん中に右の手すりに水晶の付いた椅子が一つ置かれ、その周りには複数の机と検査を担当すると思われる受付嬢らしき人物が数人いる。

机の近くには支部長ギルドマスターもいる。


支部長ギルドマスター、被験者を連れてきました」

セシルが少し声を張って支部長ギルドマスターを呼ぶと、その声に気付いた彼はこちらへと足早に向かってくる。

一応言っておくと、姿は普段の姿であるらしい小さいじいさんだ。

「おぉ、ご苦労さん。

 さてそこの黒髪のお前さん、もう分かってると思うが、今からやることを説明するぞい。

 つっても、お前さんは何もする必要はないんじゃ。

 ようはこの椅子に座って、右手の方にある水晶に心を落ち着かせながら手をかざしてくれるだけで良い。

 気分が落ち着いているときの方がより正確な検査結果が出やすいんじゃ。

 という感じじゃが、準備はいいかの?」


支部長ギルドマスターはユミを見上げ、孫を見るような目で見る。

それを見たユミは優しい笑顔を支部長ギルドマスターへと返す。


「はい。じゃあ皆さん、検査の方をよろしくお願いします」

そう言って訓練場に設けられた椅子に座り、右手側にある水晶に手をかざす。


と共に、検査員を務める受付嬢達の動きも慌ただしくなる。


水晶の仕組みは昨日俺たちが手をかざしたものと基本的な原理は同じなのだろう。

手をかざして少しも経たない内に内から光を放つ光源の色はそのままに、光の強さがとても強くなっていく。

それに比例して、受付嬢達の動きが更に慌ただしさを増していく。


そんな状況がしばらく続いていく。

やがて水晶の光の強さが元の強さに戻ると、受付嬢の一人が

「お疲れさまです、検査は終了です」という声を掛ける。


椅子に座っていたユミはふぅーーっと大きく息を吐く。

同時に大きく伸びをする。


「ふぅ、緊張しちゃったよ...」

そう言って立ち上がる。

「気を楽にしろと言われたじゃないか」

「そうは言っても、やっぱり緊張するんだよ」

「へぇ、ユミはそういう感覚の持ち主なんだな」

「ふーん、シンは緊張しないんだ」

「まあ、緊張というほどは気は張らないな」

「なるほどね」


下らない話をしていると、受付嬢の一人がユミに近づいていく。


「ユミコさん、今から貴方の検査結果をお伝えしますね」

「は、はい...」

結果を伝えると言われた瞬間、途端に声がしぼみ気味になるユミ。

そんなに緊張する程のものか?

たかだか自分の能力の検査結果を知らされるというだけなのに。


まあいい。

ユミの魔力性質と魔力総量がそれぞれどれ程のレベルなのか、俺も楽しみだ。


どんな結果が出てくるのやら。

次回、ユミの魔力性質と魔力総量が明らかになります。


それと、前にギルマスが言っていた高ランククランの

面子が初登場と、訓練もいよいよ始まります!

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