第7話:~霊魔術でレッツクッキング!後編~
ようやっと出来ました!!!
お楽しみください!
第6話:~霊魔術でレッツクッキング!後編~
(何が起きているんだ?コレ)
人魂のようにメラメラと燃えながら空中に浮かぶ魔力の球。
それを見た俺が一番に抱いた、率直な感想である。
事の始まりは料理に使う肝心の火が無かった事に端を発する。
これから作る料理の主菜は肉野菜炒めであるため、火が無ければ話にならない。
(ちなみにセシルは主食である米もどきの担当だが、これを炊飯するにも火が
無ければ話にならないので、置かれている状況は同じと思われる。
炊飯する必要のない食べ物なら話は別だが)
どうしたものかと考えている所に、俺がこの体に宿す二大元素を上手く混ぜる事で
炎属性の霊魔術を発動できないかとセシルが考えた。
そこで、霊魔術の発動や魔力の使い方を知っているセシルのアドバイスに従い、
炎属性を構成する比率で二大元素の魔力を込めていった所までは良かったのだ。
所が、ある程度魔力を込めた所で突然魔力の球が小さな爆発を起こしたのだ。
俺もセシルも思わず後ろに避け、魔力の言わば合成から完全に意識を離してしまった
のだが、落ち着いたところで改めて込めていた魔力の球を見やると、そこには
人魂のようにメラメラと燃えている”炎属性”の魔力の球があった訳である。
「あのー、シンさん?」
「はい?」
「これ、ちゃんとした炎ですよ?」
「そう、みたいですね」
しかしまあ何とも、ギルドでセシルの説明を受けた時には「ンな馬鹿な」と思ったが
実践した結果、ちゃんと炎属性の魔力の球を作れてしまったのだから、俺の能力は
本当にチートであると感じる。
おまけに自称神様の爺さんが言っていた、『魔法を扱うための素質をすっばらしい
くらいに高レベルにしておいたのじゃ』という言葉も、しっかり俺の能力として
この体に身についているらしい。
正直な所、俺は魔力を制御できる自信が無かった。
何故って、魔力や魔術を使ったことなんて一度も無いからだ。
なのにぶっつけ本番で魔力の制御を行った結果、暴走も何も起こることなく、
しかも現地の人間であるセシルに絶賛されるほどのコントロールが出来ていた
らしいのだから、そう判断するほかあるまい。
さて話を戻すが、これで料理に使える火は確保できたと考えていいだろう。
ただ、人魂のようにフヨフヨと浮いている様な姿では、とてもじゃないが
炒め物をするのに必要な火力には遠く及ばないだろう。
したがって火力の調整を行う必要があるのともう一つ、今この炎の球が
浮いている場所からコンロらしき場所へと火を移さなければならない。
耐火性がしっかりしているはずのコンロ近く以外で炎を扱うのは危険だしな。
さてそういう訳だが、火力の調整と場所を動かすことは出来るのだろうか?
聞くと「頭の中で意識してみると、どちらもちゃんとその通りに霊魔術は
動きますよ」という事なので、まずは炎の球の場所を動かすことを意識してみる。
(まずは右にゆっくりと動かしてみるか…)
右に動かすように念じてみると、ゆっくりフヨフヨと動く。
今度は逆の方向に動かすように念じてみると、これもまたその通りに動く。
(ふむ、自分の意識通りに動いてくれるんだな)
という事が分かったので、まずはこの炎の球をコンロに移す。
空中を漂わせるようなイメージで念じると、その誘導の通りに
炎の球はコンロの点火する部分(前世のモノと形状がよく似ている)に移す。
コンロもどきの点火部に人魂がメラメラ燃えているのを確認し、次の
火力調整に段階を移す。
とはいえ、これもセシルの話によれば頭の中でより強力な炎を
思い浮かべれば良い(つまり、強く燃えるようにイメージする)らしいので
早速炎が燃え盛るシーンを思い浮かべながら人魂に意識を集中する...
「ゴォォォォォォッッ!!」
「うぉっ!?」
「キャッ!?」
人魂が、水気の残った熱したフライパンに油をのせた時のを遥かに超える
大燃焼|(というか大爆発)を起こした。
どうやらイメージした炎の強さがかなり強力過ぎたらしく、そのあまりの
火力故にセシルは思わず腰を抜かしてしまった。
コンロに点火させていた火は消えてしまっていたが、まずはセシルに
状態を確認するのが先である。
「驚かせてすみません。大丈夫ですか?」
「え、ええ。私は何ともないですが…」
セシルに怪我が無いかどうかを確認しつつ、手を差し出して引っ張り上げてやる。
と、廊下からバタバタという音が調理場に向かって近づいてくる。
音が一際大きくなると同時に調理室の扉がバァーンと開かれる。
「今さっきすごい爆発音が聞こえたけど、二人とも大丈夫!?」
「あ、ああ。今のは俺が霊魔術の調整に失敗したせいで起こった現象だ。
広間にまで届いていたとはな。2人とも、驚かせて申し訳ない」
「そうだったのかぁ~。凄く驚いたけど、二人とも何ともないなら良かった…」
「そう言ってくれると、俺も救われるよ」
ふと思う。
何故、彼女は心が優しいのだろうか。
前世では俺と同じような汚れ仕事をしていたのだろうに。
なのに彼女は何故心から他人を心配できるのだろう。
そんなふと浮かんだ俺の疑問を他所に、ユミは話を進めていく。
「まあ気にしなくていいよ。それよりもシン、霊魔術を早速試してるみたい
だけど、シンの属性って聖と闇じゃなかったっけ?
あ、でも二つの属性を混ぜれば八属性全部使えるんだっけ」
「そうみたいだ。一応、これで火は使えるようになった…と思う」
「んまぁ、最初は誰だって失敗するもんだし。その辺はお互い頑張ろうよ。
それよりもシンの手料理、期待してるんだよ?」
「ああ、任せてくれ。なんならここで見てるか?」
「じゃあ、見せてもらおうかな?」
「ああ」
俺は再びコンロの前に立つ。
そして先ほどと同じように頭の中で体に二大元素をイメージしてみる。
白いオーラと黒いオーラが俺の体を纏っているように発現する。
「これがシンの力なんだ…」
「・・・」
次に両手を手のひらが下になる(籠を持っているような感じ)ようにかざし、
その上で右手には聖の力で出来た球、左手には闇の力で出来た球が浮いている
様子をイメージする。
俺の体を覆う二大元素のオーラはそれぞれがイメージした通りの手に集まり、
手のひらの上に浮かぶ球の形をとった。
(ここまでは何の問題もなく出来た。ここからはイメージに気を付けなければ…)
ここから二つの魔力を半分ずつに混ぜ合わせることで炎が出来るのだが、
先ほどは順調に混ざっているかと思ったらいきなりボッと小爆発が起こった。
さて、一体どのように混ぜ合わせたら小爆発を起こさずに済むのだろうか?
それは俺にはまだ分からんが、とりあえず魔力を混ぜるというイメージに集中
することにしよう。
改めて、両手の上に浮かぶ二つの魔力が半分:半分に混ざり合うように
頭の中でイメージする。
すると二つの球から魔力がまるで川のように二つの球のちょうど真ん中辺りに
流れていき、混ざり合っていく。
そして先ほどと同じように、二つの魔力が混ざり合っていくのがこの体に直接
感覚として感じられた。
(またこの感覚だ。まるで二つの澄んだ水を均等に混ぜ合わせているような感覚、
水の混ざり合いがこの体の中で起こっているような感じだな…)
しばらくその感覚に戸惑いながらも魔力の合成をしていると、今度は
爆発などが起こることもなく無事に炎の球が完成した。
人魂のような形になっているのは変わらずだったが。
とにかく、炎属性の魔力で出来た球は完成したので、ふたたびこの魔力の球を
コンロに移して今度は火力の強化のコントロールをする。
前世で使っていたガスコンロ程の火力をイメージする。
するとやはりイメージ通り、料理をするのに丁度よい程度の火力になった。
「こんなもんか。あとは炎が消えないようにするにはセシルさん、魔力を
どういう風に制御すればいいのでしょうか?」
「頭の片隅で意識していれば、術はその状態を維持しますよ。もっとも、維持できる
時間は術者の魔力総量によって変動するんですけど、シンさんの場合は多分
その心配はいらないんじゃないかと思います」
「分かりました。では火の準備も出来た事ですし、料理に入りましょう」
「はい!頑張りましょう!」
早速調理を始めよう。
露店で仕入れた材料を調理する順に『魔法冷蔵庫』から出して手を加えていく。
セシルはこの世界の米もどきの炊飯に取り掛かる。
ユミはとりあえず出来た料理を大広間に運ぶ役割という事に決定し、作業を進める。
途中、米もどきの炊飯にどれくらいの火力でどの位の時間を要するのかを
確認しながら炊飯をしたり、主菜となる肉野菜炒めの調味料に何を使えば良いのかを
迷ったりしながらも、無事になんとか夕食を作ることが出来た。
料理がテーブルの上に乗っかって、ホクホクと湯気を立てている。
その匂いがリビングであるこの大広間に充満している。
「シン、見た目はおいしそうな料理だね。でもお味はどうなのかな?ね、セシルさん」
「そこで私にふらないで下さいよ、ユミコさん。でも料理する時の手際などは
いたって問題ないように私には見えましたよ。味見も途中途中していましたし」
「言っておくがユミ、俺は味覚障害は患っていないからな。
んじゃあ、冷めないうちに食べてしまいましょう」
「はーい」
「ええ」
「「「いただきます」」」
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「さて、明日の二人の予定なんですが」
料理を食べている中ふとセシルが切り出す。
「明日の朝、朝食と身支度を整えたらすぐにギルドに向かいます。
その後ギルド内の訓練場でユミコさんの魔力性質の精密検査をします」
「精密検査って具体的にはどういったことをするんですか?」
「具体的といっても、被験者であるユミコさんはただ訓練場に用意された椅子に
座って頂くだけです。検査の作業は私たちが動き回って行いますので」
「そうなんですかー。じゃあ明日はお手数掛けますがよろしくお願いします」
「はい!任されました。後はお二人に簡単なラファル語の勉強と、誓約書への
お名前の記入をしていただきます。あの時、私が驚いて受付奥に連れて来てしまった
せいで、お二人はまだギルドの規則上、誓約書に同意したことにはなって
いませんので・・・」
「「あ…」」
そういえばそうだった。
確かあの時は魔力の性質と総量の検査をした後で誓約書に名前を記入するという
ような感じの流れだったのが、俺たちのトンデモ体質が発覚したせいで
その作業を後回しにしてしまったのだな。
「とにかく、誓約書のお名前の記入と、ユミコさんの魔力性質の検査と、
あとはお二人の魔力の使い方を”クラン”の方々に教えて頂くというのが
明日のお二人の予定となります」
「そのクランの方たちは、本当に信頼できる方たちですか?」
「ええ、支部長も深い信頼を寄せているクランですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「なんにしろ、お二人とも明日は頑張って下さいね」
「「ありがとうございます」」
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「ふぅー、美味しかったよシン。セシルさんもありがとうございます」
「いえ、私はただこのレム米を炊き出しただけですから」
レム米とは先ほどセシルが炊飯を行っていた米もどきのこと、
そう、この世界ではあくまでルフェルンで流通しているものだが、レム米と
呼ばれていて、米そのものがちゃんと存在しているのである。
実はこの事実に感動したのは秘密である。
味も悪くはなかった。
アルファ米のような風味ではあったが、慣れれば問題ないだろうと思う。
食事が終わり皆が皆、楽な姿勢でくつろいでいる。
作った料理を盛った皿は、見事に乗っていた具が綺麗に消え去り、料理に
使用した僅かな油分がさらに残っている位である辺り、この二人の胃袋が
実は平均的な男よりも入るんじゃないのか?と思ったのも秘密だ。
女子に対していうべき言葉ではない。
要らん災いを自分からわざわざ招き入れる事もない。
「さあ、料理も綺麗に食べきれたことだし、皿を片づけますか」
「あ、はい」
大広間にあった綺麗に盛り付けられた料理が食べられた皿をまとめ、
皿洗いを行う調理場に持っていく。
今日出した料理というのは、量は多くとも必要な皿の数は少なかった。
なので料理を大広間に持っていくときには分担する必要があったが、その逆の
場合は俺一人でも簡単に持ち運べる。
ちなみにユミは俺たちの中では一番食べていた為か結構苦しそうにしていて、
食休みという事で大広間の椅子で休んでいる。
調理場の流し(使用していないので、水は張っていない)に丁寧に皿を置いて、
後ろからついて来てもらったセシルにこの後のすることを聞く。
するとセシルは「水は私の場合自分で出せるので、霊魔術を使って洗うんです」と
言って、流しの中に水をあっという間に満たす。
その後は慣れた手つきでこれもまたあっという間に皿洗いを終わらせるセシル。
「セシルさん、皿洗いは手際よく出来るのに何故部屋の掃除はダメなのですか?」
「うっ!?」
ふと思ったことをつい聞いてしまった。
「だって、皿洗いと部屋の掃除は全くの別物じゃないですか…」
「綺麗にするという意味では共通していると思うのですが」
「き、規模が違いすぎるんですよぅ!」
「協力しますから部屋を綺麗にしましょう?」
「し、シンさんは私を恥ずかしさで悶え死なせるつもりなんですかぁ!?」
「なんでそんなところにまで話が飛んでしまうんです・・・?」
本当になんでセシルはこんなにズボラなんだろうか…。
さっき部屋割りの話をしたときの彼女の面倒くさがりには思わず引いてしまったが、
こんな彼女の姿を見せたらきっと、テッドとその一味はどう思うのだろうか?
「まあともかく、汚いところで生活していると体にも毒になることもあります。
掃除は手伝いますし、整理のやり方なども教えますから頑張りましょうよ」
「うぅ…、シンさんは隙が無いです…」
セシルと、彼女の部屋の掃除の約束を取り付ける。
「さあ、食器洗いも終わったことですし。ユミコさんをお待たせする訳にも
いかないので、そろそろ部屋に行きましょう。シンさん」
「分かりました」
大部屋に戻り、テーブルに突っ伏しているユミを起こす。
「ユミ、もうすぐベットに寝かせてもらえるそうだ。だからあと少しだけ起きてろ」
「ふにゃぁ、眠い…ムニャ」
「いや、寝るなって」
ペチペチとユミの頬を軽く叩いて彼女の意識を覚醒させようとするが、なんだか
その効果がどうやら薄いらしく、当の本人は少しづつだが意識を手放そうとしている。
「お休みなさい…ムニャぁ」
「いやだから、寝るなって」
彼女にここで眠られてしまうと、彼女の部屋までは俺が運ばなきゃならなくなる。
別に成人女性の体を持ち上げて運ぶという事自体は不可能ではないのだが、
セシルの自宅であるこの豪邸は何度も言っているように恐ろしく広い。
さっきセシルに案内してもらった俺たちが使わせてもらう部屋とこの
大部屋とは、部屋を移動するのになんでこんなに歩かなければならないんだ?と
感じるほどの結構な距離があり、自分を含めた二人分の体重を抱えて歩くのは
身体的には何の問題が無くても精神的につかれるのだ。
ただでさえ、転生した初日からこんなに疲れているのにこれ以上の
精神的疲労を被るのは俺としては避けたい。
なのでとにかくユミを起こし続ける。
「ほら起きろ、寝たければベッドの上で寝ろ」
「う~ん、眠いよシン…」
「少し我慢すれば寝れるんだから、ほら立てって」
「はぁ~い」
続けていた頬をペチペチする作戦がここにきて効果を発揮したのか、ユミは
すんごく眠そうな顔をして目をしょぼつかせながらも立ち上がる。
「それじゃ、部屋の方に行きましょうか」
セシルに導かれ、俺たちは各々に分け与えられた部屋に入った。
-----
「ふぅー、今日は本当に色々なことが沢山あったな」
部屋に入った時に思わず口をついた言葉を一人発しながらベッドへと向かう。
ベッドに向かって歩きながら、”肩に掛けている狙撃銃入りのゴルフバッグ”を
いつものクセで肩から下ろそうとして・・・気付いた。
「・・・は?」
その瞬間、自分でもはっきりと感じられる位に顔から
凄い速さで血が引いていくのが分かった。
「ちょっと待て。銃やスコープにマウントその他もろもろ、この世界において
明らかにオーバーテクノロジーのそれが入ったゴルフバッグを、俺は何処に忘れた?」
整理してみよう。
この世界に来てからの流れは以下の通りだ。
転生する
↓
盗賊たちとエリンの馬車に遭遇、盗賊を撃退して馬車に乗せてもらう
↓
ルフェルン・ミサに入り、冒険者ギルドを探すのに二時間費やす
↓
聞き込みして場所を突き止め、その後エリンの力添えのお蔭でギルドに登録する
↓
魔力の総量と性質を測ったところ、色々とステータスがぶっ飛んでいて、
支部長に直接会って会話をした。
↓
なんやかんやあってセシルの自宅に泊まることになる
その際チンピラに絡まれたりしたが、問題なく撃退する
↓
火を出したり料理を作ったりして、セシルとユミの二人とコミュニケーションをとる
そのあと洗い物などを終わらせて各自の部屋に戻って休む
↓
現在に至る
とまあこんな感じだが…
ゴルフバッグを失くしたのは、間違いなくセシルにギルドの中へ連れて行かれた時だ。
あの時は二時間も探し回った上に、転生早々色々なことが起こっていた為に俺自身の
頭の回転が上手くいっていなかったのだと思う。
となると、あの後に何事も無ければエリンが俺のゴルフバッグを持っていることになる。
あの中に入っているものは本物の兵器であり、下手をすれば暴発する危険性もあるので
一刻も早く彼女からバッグごと回収する必要がある。
しかしここで一つ、大きな問題がある。
俺はエリンがこの街のどこにいるのかといった情報をほとんど知らない。
叔母の自宅に泊まるとは言っていたが、その自宅が街の何処なのかを知らないので、
情報を持っているとはとても言い難い。
おまけに彼女は行商人であるため、このまま会う事もなくこの街を出発するといった
事態が起こる可能性も十二分にあり得る。
もしそうなってしまえば回収するのが難しくなってしまう事は想像に難くない。
「まずいな…、俺としたことが非常に不味い失敗をしてしまった。
とにかく、情報が無いんじゃ何も行動出来ない。ユミとセシルにはこの事態
だけでも知らせる必要があるな…」
一刻を争う事態である。
そのことを再確認するとともに自室を飛び出し、隣のユミの部屋へと向かう。
-----
「そ、それって確かに不味いよね…。あのゴルフバッグが何かに巻き込まれて
いなければ良いんだけど」
「ああ、まったく本当に俺は何をやっているんだ…」
自分のやったことがあまりにも間抜けすぎるため、ただただ頭を抱えるしかない。
場所は変わり、ここはユミに振り分けられた部屋だ。
この世界に来て早速やらかしてしまった失態をどのように解決するかを、
同じ世界から転生した人間のユミに相談しに来たのだ。
「でも今シンが言った通り、エリンが何処にいるのかってことは私にも分からない。
けどだからといってそう悠長にしていられる問題ではないしね…」
「ハァ…、となるとセシルさんにまた迷惑を掛けることになるのか」
「でもセシルさんの力を借りないと、エリンさんに会える確率は極端に減るよ?」
「分かってる。あれの中身は使い方を間違えれば本当に危険だ。
一刻も早く回収しなきゃならない物を回収するのに、手段を選んでる場合じゃない」
「うん、急がないとね!」
ユミとの相談の結果、というかもとよりゴルフバッグを回収するのにはこの方法しか
無いのだが、セシルに相談をするという事で決まった。
善は急げである。
早速セシルの部屋にノックをした後に部屋に入る。
「えっ、ちょ、シンさん!?」
部屋に入らないでほしいとは言われたが事態が事態なだけに四の五の言ってられない
俺は、部屋の中で伸びをしていたセシルに詰め寄る。
「セシルさん、エリンに一刻も会わなければならないんです!
どうすれば彼女に会えますか!?」
「え~っと、シンさん?状況がよく呑み込めないので説明して頂けません?」
「あ…、すみません。少々取り乱してしまいました」
心を落ち着かせて改めて、セシルに俺が焦っている理由を説明する。
もしこの世界の住人であるセシルにも分からないと言われれば、いよいよ
状況は絶望的なものになってしまう。
だが神はどうやら俺の事を見捨てはしなかったようだ。
「でしたら明日の早朝にギルドへ行きましょう」
「早朝にギルドへ、ですか?」
セシルの言う話では、エリンは荷物を運ぶといった仕事や用心棒を雇うといった
ことはルフェルンを出る前にギルドで登録を済ませてから出発するらしい。
その受付はセシルがよくやっていたそうだから間違いなさそうだ。
それに彼女の性格上、俺のゴルフバッグをギルドに預けてから出発しそうといった
ような感じらしいのだが、中に入っているモノがモノなだけに間に誰かを挟むのは
やりたくないという俺の気持ちもセシルはしっかり汲んでくれたらしく、エリンが
ギルドでそういった事務手続きをしている時間に合わせてギルドに出向く、つまり
早朝にギルドに行って直接彼女からゴルフバッグを受け取ろうという訳だ。
「一応確認しますけど、エリンは出発前に必ずギルドに来るんですね?
そしてその時間も必ず大体同じ頃の時間なんですね?」
「ええ、私が彼女を担当していた時はその習慣がズレることはありませんでした」
「そうですか…」
俺は肩の荷が降りたのを感じるとともにフゥーっと大きく息を吐く。
と同時に辺りを見回してみる。
(なんともまぁ、服やら下着やらタオルやら色んな所に散乱…はっ!?)
今気付いた。
状況が状況なだけに仕方がなかったとはいえ(言い訳にしかならないが)俺は
他人の部屋、しかも異性の部屋にいきなり押し入ったのである。
(そういや俺、ノックはしたが返事を待たないでドアを開けて入ったよな…)
その事実に気が付いた以上、ただ何もしないで逃げるという訳にもいかない。
昼間?にエリンを追っかけまわしていた盗賊たちを撃退したあの瞬間歩行を使って
文字通り瞬間的に彼女の部屋の前に移動して土下座を決める。
傍から見ると、いきなりテレポートしたかと思えば土下座をしているのだから
なんともおかしな光景に映る訳だがそんな事を気にはしていられない。
土下座をしたまま(つまり顔は下を向いている)謝罪の言葉を述べる。
「セシルさん、許可もなくいきなり部屋に押し入ってしまって・・・
本ッ当に申し訳ありませんでしたぁぁッッ!!」
「ッ~~~~~~~~~~~~~~!?」
下を見たままでもなんとなくセシルの顔が真っ赤になっているのが分かる。
それを続けること10分程度、セシルが口を開く。
「シンさん、顔を上げてください」
そう言われ顔を上げると、笑顔なのに後ろから禍々しいオーラを放つセシルが。
いやまぁ、別に怖かぁないんだけれどな。あれよりも恐ろしい顔してるやつは
あっちの裏社会にはゴロゴロいたから。
「今回は無かったことにします。もう二度としないで下さいね?」
目が笑っていない笑顔で言われる。
もちろん答えはイェスだ。
「はい、もう二度としません!」
その答えを聞いて、今度は純粋な笑顔になる。
「ではもう寝ましょう、お休みなさい」
「お休みなさい」
ほっと息をつくと、横からなんだか居心地の悪くなる視線を感じた。
振り向くとジト目でこちらを見るユミの姿が。
そして一言。
「女の子の部屋に許可なく飛び入るなんて、最低なんだよ…?」
「ぐふッッ」
それだけ言うと部屋に戻ってしまったユミだが、今の一言は結構キタ。
俺自身もやってしまったという後悔と共に心に傷を作った訳だが、今の彼女の
一言はその傷に実に大量の塩を塗る行為であったのは言うまでもない。
「もう寝よう…、今日は散々だった」
こういう気分が優れん時は早く寝るに限る。
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余談だがその頃、セシルは自室の凄惨な光景を異性であるシンに見られたという事実に
ベッドの上で今までにないとてつもないレベルで悶絶していた。
ユミの方は「シンのバーカ、バーカ、バーカ、バーカ。フンだ、フンだ…」と、かなり
不機嫌になっていたという。
次回は朝の出来事から書いていきます。
なんでユミが不機嫌になったのかはご想像にお任せしますが、
シンは”今のところ”フラグメイカーではありません(笑)。




