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序章:〜そもそものあらすじ〜

~ある男、もとい狙撃者スナイパーの愚痴~



 何だというんだ…

 いきなりこんなのアリか・・・?




 こんな愚痴を吐くような人間じゃないんだがな、俺は。

 でも言わせてもらう。


 今の状況は愚痴を言わなければやってられない。

 そんだけ途轍もなくヤバい状況にある。








 いま俺はここに高らかに宣言する・・・









 これは今度こそは本気で死ぬかもしれん。



-----




~ある日の真夜中突如不幸に巻き込まれてしまった不幸な狙撃者スナイパー



(畜生!! 最悪だッッッ!!)


 結論を言わせてもらうと、俺はどこぞの裏で活躍する組織の戦闘員らしき連中からクソ重いゴルフバッグを肩に引っ提げながら全速力でダッシュしている。後ろからは何かよく知らんが凄く近未来的なボディアーマーを着て、さらに高機能なサブマシンガンを遠慮なく撃ちながら追っかけてくる戦闘員が2人。


(何だってんだ!後ろからサブマシンガンで問答無用で撃たれるような事をしたつもりは全く無いんだが!?)


 嘘だ。全くのウソだ、俺は現役のスナイパー、即ち殺し屋。

 今まで殺ってきた人とかいちいち覚えてないが、とりあえずこのように後ろから銃撃たれながら追っかけられるだけの理由は持っている。したがって「神に誓ってそう言えるか」と聞かれたら多分・・・「誓う」と言う。


 ダメだ、こういう人格上の問題があるから、神は俺を罰しに処刑人を送ったのだな。俺自身も今そう考えてみて我ながらダメ人間だなって思ったもの。既に手を血で汚しまくったやつの今更言えるセリフじゃないけどな。ハハハハハ。



「ってぬうぉぁ!?」


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!


『黙れッッ! さっさと弾に当たって死ね!!』

『待てッッ貴様ッッ!!』

「死ぬの分かってて銃持ってる連中の『待て!』なんて誰が聞けるか!クソッタレ!」


 後ろを追いかけてくるクレイジーからの銃弾が体の横のいろんなところを掠める。しかも運の悪いというのかここに敵に誘導されたのか分からないが、隠れられる場所がない。おまけに目の前には上り階段しかない。


 ちなみに言い忘れたが、いま俺と戦闘員がいるのは真夜中の都会の超高層ビルの中である。階層とかは気にしない。というか見てられない。そんなことに意識持って行ったら殺されてしまう。


 だから部屋、というかビルの中はほぼ全体真っ暗で、場所によっちゃ懐中電灯も必要。”ほぼ”という表現を使ったのは、一応このビルは大手企業が管理する建物で、警備員がミーティングやら仮眠やらをする部屋、いわゆる「警備員室」は当然ある。そこの照明は夜中の数時間はずっと付けっぱなしであるらしい。


 もっとも、そこにいる警備員に関しては、俺がスナイパーとしての任務を実行する際に見られたりすると色々と厄介なので、警備員室で警備員が交代を行う時間に合わせて催眠ガスを中に充満させるという業務妨害を行って来た。


 ドアの物陰に隠れて、警備員達が交代の宣言をしているときに屋内噴射式の害虫撃退用のアレみたいに、部屋中にガスを噴射するものを部屋に投げ入れただけだ。非常にお手軽。気付いたときにはもう手遅れだ。



 話はずれたが、とりあえず今俺たちがいる所も含めて基本的にビルの中は真っ暗。俺はなりふり構わず命からがら逃げてきたわけで、ここがビル内のどこなのかなんてはっきり言って把握している余裕がなかった。


 というか、そもそもなぜ俺は完全武装の戦闘員らに追われてるんだ?心当たりは…人に言える事じゃないがありすぎてわからない。


 つかそもそもなぜこうなった?

 これは、数分前に時は遡る。


-----




~依頼実行数分前~



 俺は黒のストレートロングコートと黒の正装用のズボンという、闇に溶け込みやすい色合いのコーディネートで、ビルの屋上へと来ていた。その肩にはゴルフバッグか提げられているが、この中身は俺の愛用の対人狙撃銃スナイパーライフルだ。


 形式は「L96 AWS」という狙撃銃ライフルだが、俺はなによりこの銃のフォルムが好きだ。説明が少ししにくいので解説は端折るが、とにかく大切な相棒だと俺は思っている。


 ちなみにこの銃は基本的に軍用の銃であり、その社会的には民間人になる俺が、なぜこの銃を持っているのかということについては気にするな。


 さて相棒の紹介も終わったところで、そろそろ仕事に移ろうじゃないか。相棒の姿を画像で見たいというやつは、「L96 AW」とネットで調べればいい。多分出てくると思う。


 肩にかけていたゴルフバッグをゆっくりと床に下ろし、中にある銃本体とオプションと呼ばれるさまざまなパーツを一つ一つ、丁寧にバッグから取り出しては床に置いていく。オプションが何なのかって?大雑把にいうと、銃での射撃を補助するパーツだな。


 たとえば遠くの相手を撃つスナイパーライフルには、遠くを見るためにスコープが必要だろ?そういった射撃をサポートするモノをオプションと呼ぶが、覚えなくてもいい、か?


 ついでに余談だが、銃本体だけでも中々の重さがあるが、オプションも数が多いとそれなりの重さになる。で、それをまとめたゴルフバッグは、まあ結構な重量になる。だから肩は結構凝る。


 てことを考えながらも銃の組み立てを着々と進めていく訳だが、如何いかんせんビルの屋上ということもあって、風が少し強い。あまり風が強いと射撃にも大きな影響が出かねない。でも風は強く吹くときもあれば弱くなる時もある。風が弱い時を狙って撃てばいい。問題なのは、風はいつどのタイミングで弱く吹くか強く吹くかはわからない。まさしく「神のみぞ知る」だ。


「あとはスコープをくっつけて・・・よし、あとは狙って撃つだけだ」


 頭の中で風向きの変化などを予測・判断して、どう射線を修正してターゲットに当てるか?とか考えながら、ターゲットを最も狙いやすいポジションへと銃を持って移動する。(といっても屋上の端へと移動するだけだが)


 射撃ポジションへと移動した俺は、念のためターゲットが依頼主から事前に情報として知らされた場所にいるかどうかを、スコープを覗いて確認する。


「いるいる、年のいった爺さん、確かにターゲットだな」


 その言葉(独り言)を境に、俺はスナイパーとしての仕事(抹殺)に全神経を注ぐ。コッキングをして、弾倉マガジンから弾薬をせり上がらせて、弾薬を発射する為の「薬室」と呼ばれる部分に送る。


 あとは狙いをターゲットに向けて、引き金に人差し指を掛け、射撃の準備を終える。風ができる限り弱くなるのを待ちつつ・・・。


 そして風が今までで一番弱くなったと感じたその瞬間、俺は人差し指を強く引く。

 パシュン!というくぐもった発砲音を聞きながら、スコープを覗いてターゲットに当たったかを調べる。


 だがその確認をする事もなく、後ろから突如迫り来る何者かの気配に気づき、俺は急いで愛用の武器をしまって屋上から退散した。


-----




~リアル鬼ごっこ in ビルの中での銃撃戦ver.なう~



 そんなわけで現在の状況に至るわけである。

 相変わらず後ろからは容赦のない鉄の針の雨が襲い掛かってくるわけだが。正直言って、今まで逃げるのに致命傷となり得る怪我を負ってないのは奇跡に等しい。


 よく対人戦闘のゲームをやりこむヤツは、サブマシンガン食らわせてもあんまり大したダメージを与えられないとか言うが、実際はその逆だ。


 確かに一発一発の弾丸の威力は、弾薬そのもののサイズがライフルと比べて小さいから、そこまで高くないように思えるが…。


 サブマシンガンの最大の武器はその連射速度にある。故に一発一発の弾丸のサイズが小さくたって問題はない。ライフルよりも更に早く弾を撃ち出すことによって、相手に与える総合的なダメージは大きなものとなるのだから。


 というよりそもそも、金属でできた弾丸を一発でも体に貰うだけで相当の痛みがあるということを、に本をはじめとする平和な世界に生きる者たちは知らない。


 つまりだ。連射性能が高いサブマシンガンの弾を一発でも受ければ、あとはそのまま文字通り、凄まじい速さで撃ち出される銃弾によって袋叩きになる。


 そんな悲惨なバッドエンドを迎える気は俺にはさらさら無い。仮に神がそうしろと言っても、従う気なんかありはしない。俺は俺のやりたいように生きる。だからここで死ぬわけにはいかない。


 だがな・・・


(クソッ!身を隠せる遮蔽物が見当たらねえ!)


 結局はこういう問題に俺は直面しているわけだ。銃撃戦において隠れる場所、もとい銃弾から身を守るための

盾となるものがないのは絶望的である。


 そんなものをキョロキョロ探してる暇なんてのは当然なく・・・


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!


「ど畜生!!」


こうやって情けない叫びを出しながら全力疾走するほかない。



(このままじゃジリ貧で俺が終わっちまう。何かいい手はねぇのか?)


 ハァ、ハァ、ハァとだんだん息が上がってくる。だが、足を止めることは許されない。


 後ろからはさすがに少し疲れてきたのだろうか、走るペースが落ちているものの、相も変わらず鉄の針を俺に向けて撃ってくる戦闘員が2人いる。


 なんか声がマイクを通してスピーカーから聞こえてくるような感じがしたが、その声質を聞く限り俺を追っかけてきているのはどうやら2人とも女性らしい。よくもまぁ、仕事とはいえここまで俺を追いかけ続けてられる。自慢じゃないが、体力には俺結構自信がある。


『クソ!あの男は一体どこまで体力があるんだ!?』

『そろそろ私は限界が近いぞ・・・』


 さすがに疲労しているようだが、それでもすぐに立て直し『撃てッッ!!』の掛け声と共にまた鉄の針が襲ってくる。相手はどうやら是が非でも俺を殺したいらしい。でも俺からすりゃもう勘弁していただきたいんだが。


 ちなみに日本のセキュリティというのは結構素晴らしい位の高品質。銃撃戦なんざやったらどこかの窓は確実に割れるわけだが、それをトリガーに警報が施設内のいろんな所で鳴り響く。勿論それだけでなく、ちゃんと警備会社にも通報が行くし、状況によりゃサツも来る。


 だがしかし俺は念には念を入れる男、もとい狙撃者スナイパー


 警備員室にいる警備員を全員眠らせた後、セキュリティ管理用のコンピューターにウイルスを注入。ネットワークで繋がっている警備会社本部のコンピューターにバグを生じさせてから、このビルのコンピューターを電源ごと物理的に回線を切断したのだ。


 本来なら本部のPCとここのPCとのネットワーク接続が切れた場合、直ちに本部に警報が行く仕組みになっているのだが、俺が注入したウイルスは『例え接続が切れていても、接続されていると誤認させる』プログラムである。つまり、本部はまだ俺の手によってこのビルのコンピューターがセキュリティー諸々死んでいることに気付いていないのだ。


 これにより、本来ならばとっくにサツの特殊部隊が来て御用となっているはずの俺たちは、未だに不毛な銃撃戦?をビル内で繰り広げているわけである。実際には完全に一方的な蹂躙だけどな。


 そして俺はこの時ばかりは自分の用意周到さを恨むことになる。これほど厄介な敵が潜んでいるのなら、いっそのことサツの方がまだマシだった。恨んだってどうしようもないが。ただひたすらにゴルフバッグを庇いつつ、全力疾走。


-----




~危機は脱したか? いや、それは幻想であった〜



 後ろを確認することもなくただただ銃弾の嵐から逃げる為に全力疾走してきたが、気が付くと、後ろを追っかけてきていた戦闘員たちはいない。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・ とりあえず危機は脱した...のか?」


 肩で息をしながら壁に寄り掛かる。


 補足すると、今俺がいるのは給湯室と書かれるエリア。要するに、壁に隠れられる場所にいる。

 このビルは75階建てで、今俺がいるのは65階である。


「ハァ、ハァ、ようやくけたのか・・・?」


 周りの警戒も含めて、俺はゴルフバッグからL96を出して壁の外に出る。幸い近くには誰もいないようだが、ライフルを出したゴルフバッグの中身を整理し、再び壁に背中を寄り掛からせる。


 今度はライフルを持って、敵が来た時にいつでも迎撃できるように。時々は顔を少しだけ出して目視での警戒も怠らない。


「おかしいな・・・あれだけ執着して俺のことを追ってきていたのに。何もない位に静かだ・・・いや、静かすぎる?」


 先ほどに増して俺はさらに警戒を強める。そうしている内にさっきまで追っかけてきていた戦闘員たちが突如消えた理由、というよりも戦闘員が戦うことの必要性をなくした全ての原因が自分からやってきた。そしてその登場は、突然かつ神の采配を恨みたくなるものでもあった。



バラララララララララララララララララという、ヘリコプタ-のローターが動く音がすごく間近で聞こえる。


「なんでこんなにヘリの音が近く聞こえる?ん、待てよ? まさか・・・!?」


 といった次の瞬間、俺のいる65階に非常に強力な照明が当てられた。その照明はフロア全体を流すように動いている。ただしそれは地上からのものではない。即ち光源は空中に浮いている。


 それは俺にとっては信じられない光景であった。光源が相手側にあるために俺から見ると逆光ではあるものの、シルエットは明らかに普通のヘリコプターには付いていない装備を付けているのは見た瞬間に分かった。


光源の強力な照明の前に機関銃らしき影が見えた瞬間、俺はこの状況に絶望を感じ得ずにはいられなかった。

”戦闘ヘリ”が明らかに俺を狙ってビルのすぐ近くを飛んでいるのだから・・・!


「クソ...。冗談じゃねえぞ!?ここまでやるのか!」


 まさかの兵器の登場に、俺は驚きしか出てこなかった。そのあまり、ヘリの照明の向きまで気を向ける余裕がなかった。流すように動いていた照明の光は、やがて俺の隠れている給湯室の壁の辺りで動きを止める。


 考えれば当たり前なのだが、ヘリコプターの操縦席からガラス越しに人間1人を瞬時に見つけるのは誰だって困難である。だから先ほどは”流すように”照明をフロアに当てていったのだ。


 だが今その照明は俺のいる給湯室に向けて当てられている。

 もうお分かりだろうか? 俺が置かれている状況を。


 相手のヘリは俺の居場所を”認識している”のである。きっかけは本当に些細なものであった。


 まさかと思って足元から自分の体を壁の線に沿って見てみると、足のほんの僅かな先っちょの部分、つまりはつま先の部分だけ隠れていなかったのである。ほかの部分は全て壁の内、つまりは照明の当たらない壁の向こう側にあったのだが、そのわずかな隙を相手に見つけられてしまったのだ。


「クソッッ!!」


 足を壁の内側へと隠すが時すでに遅し。それを見てか戦闘ヘリは、機体前方の下部に取り付けてある機関銃をこちらに向けたかと思えば一気に撃ってくる。窓ガラスはバリンバリンと次々に割れていき、破壊力抜群の弾が俺に向かって何発も放たれる。


「まずいな・・・、このままじゃおれはどうしようもねぇ。一か八か、あれが機関銃本体の砲身の冷却に入った瞬間を狙って飛び出るか?」


 現状、そうする以外にここを脱出する手段はないと判断できる。


 やがてヘリからの攻撃が止む。


「今だ・・・!!」


 言うか早いか、給湯室の案内札が付いた壁の裏から飛び出してビルからの脱出を図る。しかしヘリは俺が出てきたのを確認するや否や、再び機関銃による銃撃を開始する。


「ぐっ!?しまった!」


 即座にローリングをして機関銃の弾幕を必死こいて避けていく。否、避けていかなければならない。


 人間が手持ちで扱う銃とは威力の桁が違う。機関銃が打ち出す銃弾なんかに一発でも当たってしまったら、その瞬間人間は冗談抜きでミンチになる一歩手前までズタボロになる。それだけ機関銃の威力は凄まじいのだ。


 ともかく急いで階段でもなんでもいいから下のフロアへ行く為の道を探さなければならないのだが、


(まずい・・・! 上り階段しかないだと!?)


 逃げるうえで一番重要となる肝心な逃げ道が無い。より正確に言うならば、逃げたい方向へ続く道が目の前には無い。いわゆる”詰み”状態に陥った俺。


「畜生、逃げることができねぇとかどういうことだよ・・・。このままじゃ屋上に追い詰められて袋の鼠だ、どうする・・・!?」


 目の前には袋の鼠になる”近道”はあるが、命が助かるための”近道”は目の前には無い。というか普通、「上り階段」があるなら「下り階段」も繋がってるはずなのだが、それが無いというまさかの予想し得なかった展開が起こっている現状。


 それらを踏まえて頭の中で自分が助かるための手段をローリングしながら考えているわけだが、はっきり言って今の状況は考えるだけ無駄なのでは?と思えてくる。というか、無駄?今の時点でもうすでに軽く詰んでるわけだし・・・。


「ヘッ・・・。こうなったらいけるとこまで行ってやる・・・!!」


 機関銃から放たれる弾幕が俺を撃ち抜かんと真横からすっ飛んでくる中、俺は目の前にある”袋の鼠になるための近道”へと駆け込んだ…。


-----


~最後は相手に不幸をおすそ分けする最低な狙撃者スナイパー 前編~



「ハァ、ハァ、ハァ、まさかここに戻ってくるたぁな…」


 ゴルフバッグを肩に提げながら大きく肩で息をつく俺。ライフルは外に出してある。その場所は先ほどターゲットを狙撃するために来ていた、ビルの屋上である。


 先ほどと違う点といえば、目の前のヘリポートに (恐らく無断で)着陸した戦闘ヘリの巻き起こす風によって、さらに強い風が屋上を吹き荒れているといったところか。


 その戦闘ヘリ自体は機関銃をこちらに向けて、今すぐにでも撃てるということを俺に強調して伝えているという気がする。というか十中八九その通りなのだろうが。それとどうでも良いというかどうでも良くないというか、ヘリの照明が眩しい。



 だからコックピットに乗ってる相手がどんな行動してるのかの情報が視覚的に掴めない。聴覚の方はもうヘリのローターがうるさくてそもそも役に立たないし。と思ってたら、ヘリの窓が上に開いて中から人が出てきた。


 逆光 (すごく眩しくて本当にシルエットしかわからない)のせいで顔は見えないが…体格的に相手は女性であると認識した。


 服装もさっきの戦闘員らとは全然違う。


 シルエットでしか分からないが、ヘリから降りてきた相手が着ているのは恐らくロングコート。その下に伸びている足は、服を着ているようには見受けられない。すらっとした線の良い脚 (人は恐らくこういうのを美脚というのでは?)が体を支えている。


 ズボンのようなモノは履いておらず、恐らく下半身はスカートかショートパンツを着てると、これもまた勝手に推測する。


 というか、彼女?はなんでヘリを降りた?俺を殺すだけならばヘリに乗ったままいくらでも機関銃を撃てばいい。その理由が解せんな・・・。


 降伏勧告か?それとも最期の一言くらいは聞いてやるってか?どっちにせよ俺が死ぬことに変わりはないと判断し、近づいてくる人物に声をかける。


「なぁ、あんたはなぜわざわざヘリを降りたんだ?俺を殺すだけなら、乗ったままでもできただろう」

「貴方と話がしてみたいと思った、これだけじゃ理由は足りないかしら?」


 声はすこし落ち着きのありそうなイメージでヘリのプロペラ音が鳴り響く中でも、不思議と聞き取りやすい声質だった。


「そもそもあんたらが俺を狙う理由ってなんだ?それとできれば後ろの照明を消してほしい。いい加減目が痛くなってくる・・・」

「あら?それはごめんなさい。今消させるわ」


 彼女が左手を上げると、ヘリから照らされる照明がフッと消える。いきなり周りが暗くなったために最初はほとんど何も見えなかったが、数分で目は慣れて、彼女の姿をはっきりとこの目でとらえることができた。


 はっきり言おう、素晴らしくカワイイ。というか俺のストライクゾーン、いわゆる好みの容姿をした女性である。


 ロングコートも似合うが、ヘリが起こす風になびく黒い長髪がもうたまらない。


 いや、一体俺は何を考えている...。そしたら何のためにここまで登ってきたんだか。とりあえず冷静に話をしよう。


「さっきの質問に戻るが、なぜあんたらは俺を狙う?」

「そうねぇ。大雑把にまとめれば、私が所属している組織があなたが危険だと判断した。ということになるのかしら?」

「俺に聞かれても困るのだが・・・」

「フフ、そうよね。ごめんなさい。他には?」


 彼女が所属している組織、それはいったい何だ?


 少なくとも兵器を持っているのだから、表世界に出てくるような連中ではない。だけど勢力は相当デカいだろうと思われる。とりあえず情報を集めるのが先決か?


「話をしてみたいとあんたは先ほど言ったが、そう思った根拠は何だ?」

「私の組織のスペシャリスト達から大した怪我もなく逃げ切ったから。それだけよ」

「スペシャリスト?」

「そう、スペシャリスト」


 道理でなんだか近未来的な装備をしていると思ったわけだ。


 もし対人戦闘のスペシャリストというならば、俺にあそこまで付いてこられたのも納得だ。殺しのエキスパートなのだから。だがあの人数の少なさは一体?


「ならなぜあんなに少ない人数で?」

「民間人の殺し屋を始末するのに、軍人並みの訓練受けた戦闘のエキスパートを、わざわざ貴方は刺客として送り込むかしら?」

「しないな。そんなことをする意味がない」

「同じことよ。戦闘のエキスパートである彼女たちに、仕留められないものは無い。ましてや相手が民間人なら尚更。でも組織は貴方を彼女らを送り込んででも始末する必要があると判断した。それが失敗したときの為に戦闘ヘリを用意していたんだけど、まさか本当に彼女たちが貴方を仕留め損なうとは思わなかったわ」


 なるほど、そういう経緯があってか・・・。なぜ俺がそんな組織にマークされているのかはよく分からない。さっきも述べた通り、買った恨みや因縁の数が多く、心当たりがありすぎてどれが原因なのか分からないからだ。

 とりあえず、彼女に聞けたいことは大体聞けたから、そろそろお暇するとしようか。要は”こいつらを全員始末すれば良い”んだろう?


「じゃあ、俺はそろそろ行くことにするよ」

「あら、ここまで来て私が貴方を逃がすと思う?」


 彼女の俺を見る瞳に強い殺気が込められる。人によれば卒倒するかもしれない。あくまで彼女は俺を殺す気でいるらしいな。でも俺も引けない、こんなところで死ぬ気は俺にはないのだから。


「逃げ道が無いのなら逃げ道を”作ればいい”とは、昔の文献で見た言葉だ」

「フフ、なるほど。でもね? 悪いけどその”逃げ道”って物を貴方に作られる訳にはいかない」


 俺と彼女との間に、さっきと違って冷たく張りつめた空気が漂う。お互いがお互いに向けて殺気を放っている。


「お互い・・・分かり合えない運命か?」

「そうみたいね。残念だわ。気は合いそうだけど」


 殺気を向けつつも残念そうな表情を見せる彼女だが、その眼は俺一点を捉えている。まるでお前の体を一発で射抜くと言わんばかりに・・・


「お別れの時間、だな」

「そうね、お別れの時間だわ」


”お別れの時間”すなわち、相手を葬る瞬間を意味する単語である。

つまりは文字通り”お別れ”をする。


「じゃあ最後に」

「一言言っとくわ」


 俺も彼女も一呼吸おいて、声を合わせてこう言った。


「「さよなら」」


 その瞬間俺はライフルと拳銃を、彼女は拳銃だけを、お互いの体に向ける。


 そして双方ともに引き金に指を掛け、引く。パンッッ!という乾いた発砲音がビルの屋上に鳴り響く中、俺と彼女は”殺し合い”をビルの屋上にて始めることとなる。


-----



~最後は相手に不幸をおすそ分けする最低な狙撃者スナイパー 後編~



 ビルにて二人の男女の殺し合いが始まってから、はや20分が経過していた。


 お互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げていたが、結論を言えばもうすぐ決着はつくだろう。そのように予測される根拠としては、主に二つの要因があげられる。


 一つ目は、男性が懐から拳銃を出すと同時にライフルも構えていた事。そして彼女が発砲するとほぼ同時に、双方の銃を彼も発射。ライフルは彼女に向け、そして拳銃は”ヘリの操縦士に向けて”それぞれ発砲したのだ。


 彼女は彼がライフルと拳銃を一緒に用いるということを予測していなかった。何故なら、相手にやられない様にするならば真っ先に射撃をする為に”拳銃のみ”を使うと思っていたからだ。しかし彼女の予想は外れることとなる。


 射撃という行動には、弾丸が飛んでいく射線をブラさない為に、基本的には両手を使ったり地面に伏せたりして安定性を向上させるものである。すなわち片手で使用することは、拳銃というカテゴリ以外の銃は基本的に”想定していない”。


 それは彼が構えていたスナイパーライフル「L96 AWS」にも例外なく当てはまる。威力はスナイパーライフルの方が圧倒的だが、発射時の火薬爆発による反動リコイルが大きく、銃身自体も元々がそれなりの重さがあり、両手で構えるならまだしも、片手では非常に射撃時の安定性に欠けると言える。では何故彼はあえて狙撃銃スナイパーライフルを彼女に向けたのか?


 その答えは、”牽制”である。


 想像してみてほしい。もし拳銃で撃ってくると思っていた相手が、いきなりライフルをこちらに向ければ、自分自身は驚いてしまうのではないか?


 拳銃ではなくスナイパーライフルを向けられ、自身の予想を裏切られ動転すれば、射撃の正確性という要素は頭の中には浮かばなくなるのではないか?


 相手の常識からくる予測裏切る、相手の心理を突くことによって生まれた隙を、彼は彼にとって現状最も危険な敵である戦闘ヘリのパイロットの射殺に充てた。


 拳銃程度の反動リコイルであれば、はっきり言って彼にとっては無いようなもの。それほどの反動を制御する力がなければ、スナイパーはやっていけないとは彼曰く。


 反動を制御することによる正確な射撃で、彼はヘリのパイロットの眉間を撃ち抜いた。そうすることにより、上空から彼女の支援攻撃が行われることを事前に防いだのだ。


 もう一つの要因としては、単純に彼女の銃自体が彼のライフルを用いた狙撃により、拳銃を持っていた左手ごと撃ち抜かれているということ。


 元々は彼を最終的には戦闘ヘリの力を借りて抹殺しようと計画していた彼女にとって、ヘリのパイロットを初っ端から殺されるということは、もはや詰みかけの状態と言って過言ではないであろう。


 それに加え、拳銃を左手ごと撃ち抜いてくれるという荒業を見事にやられた為に、正直なところを言えばもう彼女には”一切の打つ手なし”である。


 一方の相手の武器は拳銃に加えライフルも未だ健在。まだやれる状況である。


 どう考えても、彼女に勝ち目など存在しない。そう判断した彼女は、思い切った行動に出る。


「降参よ。まさか拳銃ごと私の手を撃ち抜くなんて、さすがね」

「...正直俺も、まさか生き残れるとは流石に思っていなかったが、俺の勝ちで良いのか?」


 両手をあげて降参の意思を彼に向けて示す彼女。その行為に対しライフルを構えながらゆっくりと彼女に近づいていく彼。変わらず両手をあげながら、静かに彼女は話し始める。


「私はもう何も武器を持っていないわ。下ろしてとは言わないけど、話だけは聞いてほしい」

「話?」

「今日のこの任務の失敗を以って私は間違いなく組織を追われ、貴方と同じ立場になる。加えて言うなれば、私をここまで追い詰めた貴方はさらに組織の最重要抹殺対象者にリストアップされるでしょうね」

「・・・」

「つまり、もうすでにここに応援が来るってことよ」


 彼女の言葉とともに、屋上と屋内を結ぶ唯一のドアから数十人の戦闘員が現れた。さらに、遠くの方からもヘリコプターの音が聞こえる。

(まさか、ここまで根回しが早いとはな...)


 これでは、どう頑張ったって彼が生き残るのは絶望的だ。彼は銃を持っているだけの生身の人間であり、強固な鎧を着ているわけではない。いくら筋力を鍛えて筋肉の鎧を作ったところで、所詮は秒速数百メートルで飛んでくる鉄の針を受け止められるわけもない。


 なにか超能力の一つでもあれば違ったのかもしれないが、ここは科学が全ての技術を支える世界。そんなSFチックなものなんてない。


「状況...ご理解いただけたかしら?私の属する組織は失敗は決して許されない。そこにいる戦闘員たちは間違いなく、私の抹殺も指示されているの。だから...」


 黒い髪の女性...彼女はすぐに壊れてしまいそうな儚い笑顔を浮かべて言葉を紡いだ。


「どうせ殺されるのなら貴方に殺してもらいたい。ダメかしら?」

「・・・、それを言うなら俺も同じだと思うんだが?」

「私と同じ?」

「俺はあんたのいた組織に殺されそうになった。俺はまだその抹殺対象者なんだろう?そこの戦闘員たちはもちろん、さっきから響いてるヘリの音もこちらに近付いてきてるってことは、さっきと同じような戦闘ヘリかあるいは増援なんだろう?どう考えても、俺が生き残るなんてことは絶望的だ」

『さて、死ぬ覚悟は出来たか』


 銃を構えた戦闘員の一人が、フルフェイスのヘルメット越しの電子音声で問い掛けてくる。


「・・・フゥ。どのみちこの状況じゃあ俺もアンタも生きては帰れないだろう。死んだ後の死体漁りをされるのが嫌だってなら、ここから飛び降りるってのが一番楽で簡単な方法だが、あんたはどうする?」

「・・・行くわ、一緒に行かせて」

「フッ、決まりだな。じゃあ、いこうか?」

「ええ・・・」


 彼と彼女は屋上の柵の外へと移動した。

 ちなみに彼の方はゴルフバッグに全ての武器を格納済みである。

 曰く「武器は墓まで持っていく」とのこと。


そしてその夜、後ろから敵組織の者たちの視線に見送られつつ、二人は空を飛び、地へと叩き付けられて、その生涯を静かに終える・・・はずだったのだが・・・。


目が覚めた二人は、そこで驚愕のものを見ることになる。

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