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フレイヤの家族【完結お礼小説】

「うーん。疲れたぁ」

 肩が凝ったなあと思いながら、トントンと肩を叩く。

 魔王様と結婚してから、正式に家庭教師の仕事を終えた私に待っていた次の仕事は、賢者として悩み相談を受けるというものだった。

 目安箱的な役人が各地に設置され、彼らが悩み事を聞き、その場では解決できずこれは相談してみたいものという内容が私の手元まで来るようになっている。聞き取りをする役人は、平民出身者でなおかつ試験を行い突破した優秀な人に行ってもらっている。

 領民の悩み事に対する相談業務は領主も請け負っているので、領主の采配に任せても良かったのだが、貴族と平民では考え方の違いもあり別ルートで悩み相談を聞けるようにした。勿論貴族からの相談も請け負っている。


「おかあさま。おしごと、きゅーけー?」

「うん。そうだよ。おいでラシル」

 部屋の片隅で遊んでいた息子のラシルが私の手紙を書く手が止まったのを目ざとく見つけたようだ。ラシルを手招きすると、おもちゃを放り出し、こちらへ走ってきた。

 黒髪に琥珀色の瞳。魔王様を縮めたような外見だ。ただ少しだけ目元が柔らかい印象があるだろうか。可愛いなぁとグリグリと頭を撫ぜる。サラサラの絹のような髪だ。

 この子が数年前に私のお腹の中にいたとは思えない。

「ちょっとラシルだけずるいわっ!お母様はびょうどうに半分こよっ!」

 どうやって察知したのか分からないが、長女のリーヴスが力強く扉を開いた。こちらは私と同じ赤毛と琥珀色の瞳をしている。気まぐれな子猫のような印象で、やっぱり魔王様の子だなと思う。

 また魔導の申し子のような子で、本来なら教えてもらわなければできない魔法を3歳の時に独自に使ったという逸話をもつ。たぶん将来大物になるのではないだろうか。どうやら勇者の事が好きなようなので、今後どう育つか楽しみだ。

 魔王様似なので、大人になったら本当に勇者と結婚してしまいそうだけど、こればかりはリーヴスの気持ちだけでどうにかなるものではないので、誰にも分からないところ。

「おねーちゃん、さっきまでいなかったのに」

「だって、ここでまどうの練習したらお母様のごめいわくになるもの。でも、へやの中のこえをちゅ、ちゅ、えっと……あ、ちゅうけいをしてかくにんしてたの。ぬけがけはきんしよ」

「ぬけがけじゃないもん。おかあさまがよんでくれんたんだもん」

 唇を尖らせる末息子を私はよしよしと頭を撫ぜる。そして続いてリーヴスの頭を撫ぜる。

 どちらも可愛い娘と息子だ。幸せだなと感じる。


 数年前、正室を迎えて、私はこの国の縁の下の力持ちでいようと思っていた。もしもその計画のまま動いていたら、私はきっとこの子達と出会うことができなかっただろう。

 まあでも、その時はその時で、正室の子供の家庭教師やりますとかって手を上げてそうだけど。結局楽しそうだな私……。本当に能天気な脳みそだ。

 でもどれも、魔王様が私を繋ぎとめてくれたおかげで掴めた幸せだ。

「ありがとうね。生まれてきてくれて」

「お母様?」

「貴方達が生まれてきてくれたおかげで、お母さんは貴方達に会う事ができたの。それからね、まだお父様にも言っていないけれど、実は貴方たちの姉弟がここにいるのよ。この子とも無事に会いたいわね」

 そう言って私はお腹を撫ぜる。

 まだまだ小さくで、周りにもばれていないけれど、主治医の先生からは間違いないと言われていた。安定期になるまで黙っておこうかと思ったが、口に出して歓迎してあげたいと感じたのだ。きっとこの子たちが無事生まれてこれれば、さらに賑やかになるはずである。

 賑やかなのはいい。

 独りでいるよりもずっといい。喧嘩したりもするだろうけれど、仲直りもできるのだから。

「そうしたらラシルもお兄ちゃんよ。ちゃんと面倒見てあげてね」

「おにいちゃん?」

「ラシルもちゃんとしっかりしなさいよっ!弟や妹になめられたらおしまいなんだから」

「うーん。そういうものでもないけどね。でも可愛がってあげて。そうしたらきっとお兄ちゃんと呼んで慕ってくれるから」

 姉弟は結婚したり……悲しい場合は死別だってある。そうやっていつかは分かれてしまうものだけど、でも思い出は残るから。

 思い出があれば縁はずっと繋がっている。


「フレイヤ、本当なのか?!」

「……ラグ? えっと、仕事は?」

 突然魔王様まで部屋の中に入ってきた。それこそ転がり込むような勢いで。

「そんなもの、ルーンに押し付けた」

「いや、駄目でしょ。ルーンさん、怒るよ」

 ルーンさんを怒らせると、大変だと思うのだけど。あの人は仕事の鬼な時がある。仕事さえちゃんとやっていればちょっと厳しい上司なだけだけど、仕事を手抜きをした日には氷像ができるほどのブリザードが……と相談事が上がったことがある。

 私は怖いのでそんな事やったことないけど。ブリザードを吹かせた部下は、ある意味勇気がある。

「怒っているのは俺だ。どうして、君のお腹の中に新しい命が居る事を、俺に教えてくれないんだ。そうと分かったら、こんな仕事なんてしている場合じゃないだろ。安静にしていないとっ!」

「大丈夫よ。子供ができたから、すぐ安静にしないといけないなんてことはないから。大体、これぐらいの時期だと、本人もまだ気がついてもいない人だっているぐらいよ」

 リーヴスの時も、ラシルの時も出産ギリギリまで働いていたのだ。幸いなことに、私は悪阻が酷い方でもなかったのでできただけでもあるけど。

 ユイの知識だと、意外に働いていた方が、良く動くので妊婦にはいいという情報もある。妊娠したからといってだらだらしているとぶくぶく太って出産が大変になるのだ。私の場合、美味しい物が好きだし、その危険性は大いにある。


「駄目だ。2回は上手くいっても、3回目も上手くいくとは限らないだろ? 出産は命がけだ。俺は君が居ないと――」

「大丈夫よ。子供の為に私が死んだら、ラグがこの子を愛しにくくなってしまうし、この子にもいらない宿命を与えてしまうでしょう? 私の所為で母親が死んだとか、重すぎよね。だから絶対死なないよ」

 その為に、万全な態勢で臨む。

 そしてとても安全な状態で子供を産むし、私も元気でまだまだ生きる気満々だ。

「絶対なんてこの世にはないと君も昔言っていなかったか?」

「うん。だから【絶対】になれるよう頑張るよ。生き残ってしまえば、それは絶対でしょ? すでにリーヴスの時もラシル時も絶対死ななかったでしょ?」

 過去は変えられない。だから過去は絶対だ。

「さあ、仕事に戻って下さい、魔王様。ルーンさんに叱られますよ。まあ、途中休憩させた方が能率がいいと思ってOKしたんでしょうけど」

「フレイヤが冷たい」

「ええ。私は氷の宰相であるルーンさんの2番弟子ですから。1番弟子を仕事に戻すのもお仕事なんです。さあ、皆でお父さんを応援しましょう」

 私は仕事の時の口調で子供たちに話しかける。

 魔王様は私の事が好きだが、同じぐらい子供たちの事も好きだ。だから、私たちのお願いごとに弱い。

 魔王が弱いと言うのはいいことではないかもしれないけれど、それでも魔王様が寂しいのは嫌だから、弱さを支えられる家族を増やしてあげたい。

 予定では私の方が魔王様より長生きする気だけど、こればかりは絶対とは私も言ってあげられない。なんといっても前世でうっかり死をしたみたいなものだ。いつどこで何があるかなんてわからない。その時、私が居なくても寂しがりやの魔王様が泣き続けていなくても済むように、家族は多い方がいい。強いだけじゃなくて、強くて寂しくない方がもっといいはずだ。


「お父様、がんばって。私もがんばってべんきょうして、お父様のお力になれるようにするから」

「おとうさまがんばれー!」

「フレイヤは本当に酷い」

「そんな酷い女を嫁に選んだ方が悪いのです」

 私以外にたくさん嫁候補は居た。

 今ではオーディン君とラブラブしているノルンちゃんは正室になれたし、子爵をついで女子爵になったハティーだって、正室はちょっと難しいけど側室なら大丈夫だったと思う。勇者君だって子供は作れないけど、私的にはありだと思うんだよね……両者に全否定されてるけど。

 それに貴族でなくても、魔王様なら色んな子に手を出せる。ある意味、ハーレム勇者並みに相手は選び放題なのだ。

 今からだって、それはできる。

「でも君は君以外いないかなぁ。仕方がない。行ってくる」

 そう言って魔王様は私の右頬にキスを落とす。

 だから私もお返しで頬にキスをする。魔王様が私に幸せをくれたのだから、私もそれを返したい。

「いってらっしゃい。帰ったら、この子達の名前を早速考えようね」

 その時、実は双子だと打ち明けよう。このサプライズはきっと驚くだろうなぁと思うけど、喜んでくれる事はちゃんと分かっているから。

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