勇者の初PT【完結お礼小説】
「ちょっと、先生。このパーティー編成、全然納得いかないんだけどっ!!」
俺は今回組まれた、パーティーメンバーに対して抗議をすべく、勇者担当の教官を訪ねた。担任教師は別にいるが、このパーディーメンバーの決定権は、勇者担当、魔導士担当、聖職者担当などの職業担当教官となる。
なので俺は、事前アンケートがまったく考慮されていない、このメンバー決めに異を唱えにきたのだ。学校を卒業すれば拒否権も与えられるが、学生の身分のうちは、拒否権なんて与えられない。なので嫌なら先生に直談判しかないのだ。
「トールは私の決めたメンバーが不服だというのか」
勇者担当の教官は、現役の女勇者である。ただしまるで軍人のような人で、女らしい柔らかさなんて欠片もなく、いつでも抜身の刃のような人だ。はっきり言って、この学校でも恐れられている。
なので怒っていないというのは分かっているが、普通に聞き返してきただけでも怒られている様な心境になってしまう。超怖い。フレイについてきてもらえば良かっただろうかと一瞬頭をよぎったが、フレイに助けてもらってばかりでは駄目だと、俺は頑張ってその目線に耐える。
「それと、目上の者と話す時は敬語を使うようにと私は教えなかっただろうか?」
「すみませんでした!!」
無理です。やっぱり怖いです。
俺は同じ学年の勇者の中で、一番成績がいいと自負しているけれど、どうしてもこの先生だけは怖い。早々に俺は自分の非を認めた。
「よろしい。次からは気を付けるように」
「はい。分かりました」
「それで、トールはメンバーの何が不服だと申し立てに来たんだ?」
青色の冷たい湖を連想させる目で俺を見てくるが、あれは高温の炎の色だと知っている。間違えれば、即座に燃え上がらせ、張り倒されるのだ。
「お、俺の意見がまったく反映してないと思います!酷過ぎます」
それでも何のために来たんだ俺。頑張れ俺と逃げ出したい心に言い聞かせ、先生に訴える。だって、それは本当の事だから。今回のパーティー編成は俺のアンケートの結果を総無視している。
「ふむ。確かにそれは言えるな。では、トール。貴様は何の為にこの学校に通っている? ちなみに、勇者になる為というのは当たり前だから、その先を問おう」
何の為?
そんなの決まっている。
「立派な勇者になって、可愛いお嫁さんをゲットするためですっ!!」
次の瞬間俺は、強烈な右ストレートを教官から頂いた。
◇◆◇◆◇◆◇
「トール、大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。教官も手加減してくれたみたいだし」
「えっ?! ……これで手加減?」
俺の赤く腫れた頬と自分の歯で切った口の中をバルドルは治療しながらギョッとした顔をした。聖職者はあまり勇者教官と関わる事はないので、あの怖さを知らない。幸せな奴め。
「まあ、ある意味馬鹿正直に言ったからね。あの教官、正直者にはそれなりに手加減してくれるし。手加減なしだったら、しばらくトールは脳震盪で目を覚まさなかったと思うよ」
その隣で、本を読みながら、フレイが俺の代わりに話す。まるで見てきたみたいに――。
「って、何で正直に言った事を知ってるんだよ。あの時フレイはいなかっただろ?!」
「魔導士教官から言われたんだよ。ちゃんと従兄弟の面倒をみておけって」
従兄弟のフレイは、同い年だがすごく頭がいいため、先生からの信頼も厚かった。その為兄のように俺の面倒をみてくれている。悔しくないかと言われれば、若干悔しいが、フレイが特別頭がいいのは俺が一番知っているので、まあ仕方がないとも言える。
フレイは俺の村でも、神童と呼ばれて、なおかつ努力家でもあった。
「まあさ。俺のパーティーメンバーにフレイが居るのは正直ありがたいけどさ。でも、1人ぐらい女の子がいたっていいじゃないか。何で全部野郎なんだよ」
そう、今回発表された俺のパーティーメンバーは、魔導士、剣士、聖職者、武闘家、弓使いの全員が男だった。確かにこういう危険な職業を目指すのは男が多いけれど、女の子がいないわけではない。特に魔導士や聖職者、それから弓使いなんかは男女同じぐらいいる。なのに揃いも揃って男。
「男だらけに巻き込まれたのはお前だけじゃない事は肝に銘じとけ」
「僕はトール達と一緒になれてうれしいけど……」
フレイが厭味ったらしく言い、バルドルがフォローに回る。
「でも今回の人選を見る限り、教官たちの思惑も分からなくはないんだけどね」
「思惑って何だよ」
「勇者がトール、魔導士が俺、剣士がオーディン、聖職者がバルドル、武闘家がテュール、弓使いがウル。全員、この学校でも群を抜いて優れている人材だろ。普通なら、もっと周りのバランスも重視するはずだと思わないか?」
確かに。
明らかに、このメンバー構成は偏っている。男ばかりという意味じゃなくて、能力的な意味でだ。
俺は勇者の中では一番の成績だし、フレイは頭が良く魔導士としても優秀だ。剣技は同世代でオーディンに勝てる奴はおらず、バルドルは聖職者の申し子と呼ばれている。テュールはこの間武術大会で優勝していたし、ウル先輩は弓の使い方もさることながら、エルフの血を引いているからか、異様に勘が鋭い。
学校の授業では、パーティー同士で競い合ったりもするので、普通ならばらされそうなメンバーだ。
「言われてみるとそうだけどさ」
「考えたんだけど、たぶんお前、魔族領に数年後行く事になるぞ」
「はっ?! 魔族領?! 何で?」
魔族領って、あの、魔族が住んでいる所だよな。
何で今、そんな話が出るのか分からない。魔族と戦争していたころならば、勇者が魔族領に行く事はあったが、今は戦争もないので、あまり魔族領とは交流がないというのが現状だ。
「魔族領は今、多国が集合してできたアース国になっている。ブァン国とは比べ物にならないぐらい大きい国だ」
「へぇ。そうなんだ。魔族って良く分かんないからさ」
フレイほど勉強熱心でなければ魔族領の国名だって知らないのではないだろうか。というか、俺は知らなかった。
地図だって曖昧だ。人族領と魔族領の境目は詳しく書かれているけれど、その先は途切れている。はっきり言って未知の領域なのだ。
とりあえず知っているのは、魔族領は人族ではなく魔族が住んでいるという事ぐらいか。
「そういうこと。分からないから、知る為におまえが行く事になるんだよ。確かそんな話があるって前、オーディン経由で聞いたし」
「何で、俺が?」
「今年魔王を継いだ魔王の息子が俺らと同い年なのと、お前の勇者の能力が並みはずれているからだよ。この国の代表とするにはちょうどいい。そしてブァン国はアース国という市場を増やしたい。うちの国は貿易が盛んな方だけど、魔族領からくるものに対しては、関税を普通より多くかけている。でももっと交流をしていきたいというのが、この国の本音だと思うんだ」
市場を増やしたいと言われてもピンとこない。
でも魔王が俺と同い年だからという部分は何となく理解できる。魔王と人族なんて相容れないのだから、せめて年齢だけでも通った部分がある者が行った方が良いだろう。それに、勇者は女神の祝福を受けたものなので、国の代表となる事もできると授業で言っていた。
「フレイはすごいね。僕は、僕のアンケートを参考にしてくれたのかなぁと思ってただけだったから」
「バルドルのアンケート?」
「うん。僕、一緒に組みたい勇者をトールにしたんだ」
バルドルが純真無垢な笑顔でそう言ってくるので、何でそんな事をしたんだと咎める事ができない。ま、まあ。バルドルは人見知りが激しいし、俺が面倒見てやらないととは思うけどさ。
「あ、ちなみに俺も」
「フレイも?!」
「一番相性はいいし。適当に書いただけだけど」
確かに、俺も魔導士に関しては、フレイがいいなぁと思っていたからいいんだけどさ。とりあえず、教師が仕組んだだけではなく、一応は俺以外のアンケートは参考にされたという事か。
「トール、こんなところにいたのかっ!!」
バーンと教室の扉を開けてオーディンが入ってきた。放課後だし帰ったと思っていたのだが、まだ学校に残っていたらしい。
「何の用だよ」
「俺はお前の永遠のライバルだが、今日から仲間だそうだからな。挨拶に来たんだっ!フレイ、バルドル、よろしく頼むぞ」
「オーディン、律儀だね。こちらこそよろしく。もしかしたら先輩たちにも挨拶に行ったの?」
「当たり前だ!俺様がそのような礼儀に欠くことをするとでも思ったか?!」
ふははははと笑うのは、礼儀を欠いていないのだろうか。というか、俺の事を勝手にライバル扱いしてくるし、コイツの頭の中がどうなっているのか俺には分からない。
「そういえば、オーディンはアンケートにもしかして、トールの名前を書いた?」
「当たり前だ。俺は永遠のライバルだからな」
「お前もかよ!」
「ちなみにフレイの名前も書いたぞ。後は違ったがな」
「そっか。ありがとう」
フレイはすごく冷静にお礼を言っていたけれど、何だこれというのが正直な俺の気持ちだ。ほぼ俺以外のアンケート結果が参考にされているじゃないか。
「もしかして、先輩たちのアンケートも聞いた?」
「ああ、テュール先輩はトールとウル先輩がアンケート通りだったらしいな。ウル先輩はトールとテュール先輩がそうらしい」
「って、何で全員俺の名前書いてるわけ?!」
まさか先輩にまで書かれてるとは思わなくてギョッとする。
なんだこれ。聞かれてないの俺だけじゃん。
「なるほど」
「……なるほどって、何だよ」
フレイが納得顔で頷く。
何がなるほどなのかまったく分からない。
「女神の祝福だよ。前に言っただろ」
「は?」
「たぶんこの学校の多くの男子が勇者の欄にお前の名前を書いたんだな。で、教師はその中から最優秀な者を選んだと」
女神の祝福だと?
そういえば、以前フレイにそんな事を言われた事があった。まさかそんな。大半の男子が俺の名前をアンケートに書くなんて……いや、でもフレイが言っているだけだし――でも、フレイだぞ?
でもでもでもと、俺の頭の中で否定と肯定が繰り返される。一つ言える事は信じたくないという事だけだ。
「国王からの要望があったとしても、早々にこれだけ固めてはもらえるものじゃないとは思ったんだよな。でもアンケート通りなら仕方ないか。……ま、頑張れ。逆ハーレム勇者」
フレイがいい笑顔でぽんと俺の肩を叩いた。いや、違う。その目は哀愁が漂って――。
「い、いやだぁぁぁぁぁっ!!」
俺は放課後の教室で、現実の辛さに叫び声を上げた。




