フレイヤの新婚旅行【完結お礼小説】
青い海、白い砂浜、戯れる恋人達。
それがユイの記憶で何となく持ってる新婚旅行風景だ。一度も体験はしたことないけれど。
私はつい最近成人を迎えたということで、本当の意味で結婚をしたのだが、数年前から浮気なんて一切出来そうもありませんという状態の婚約をしていた為、今更感がある。ダレているわけでもないし、魔王様からの愛が減っているわけでもない。むしろ、もう少し愛を語る量を減らして欲しい気がする今日この頃だ。これではネコまっしぐらではなく、バカップルまっしぐら。世間様に公害をまき散らす感じになってしまうのではないかと最近終始ビクビクしている。
小さい頃は、子供同士のカップル可愛いなだったとしても、大きくなると途端にバカップルうぜーになるのが世の常だ。
それに、私を正室に据えてしまった為、貴族の味方が付きにくいのではないかと、色々政治的な面も不安だったりする。一応、パンがなければお菓子を食べればいいじゃないなんていう革命起こされフラグ的なうっかり発言はしないよう頑張っているが、私の能力の範囲での頑張りでしかない。
という事もあり、私はとりあえず質素倹約な正妃となり、民衆の革命を防ぎつつ、いつでも下剋上できるわよという感じで頑張ってみようと思っている。そのうち私とキャハハ、ウフフな後宮生活をしてくれる側室、いや、真の正室が来るのを信じて。
というわけで、結婚したからといって何かが変わるわけでもないのだが、魔王様がヴァン国国王に遊びに来ないかと誘われたため、急遽私と一緒にヴァン国へ新婚旅行へ行く事が決まった。
そしてたどり着いたのだけど……。
「しろっぽい雲に、白い雪――というか、寒いっ!!」
ユイの記憶は大きく裏切られた現実だ。
結構もこもこに着こんできたのだけど、久々のヴァン国は寒かった。ヴァン国の地を踏むのは何年ぶり? 的状況なので、この寒さも久々だ。アース国も雪が降ったりするし、豪雪地帯もあるのだけど、私が住んでいる地域は比較的温暖な為、ここまでの雪に見舞われる事がない。
「あ、でも、ぎゅーとかしなくても大丈夫だからね」
「遠慮する必要はないぞ?」
すくすくと育ってしまい、私より頭1つ分大きくなってしまった魔王様の次の行動が分かってしまい、私はへらっと笑って誤魔化す。危ないところだった。あと少しで、異国でイチャイチャをしてしまって、周りからうぜーと思われるところだ。
ここは異国。しかも仲良くしなければいけないブァン国。それなのに、空気を読まないイチャつきぶりで、場を白けさせるのは言語道断だ。
「いいですか、魔王様。節度あるおつきあい。2人きりならいざ知らずですが、人目が多い場所では――」
「また敬語になっているが?」
「はうっ」
……じっと見ないで下さい。分かってるから。
私は目を閉じて、魔王様のほっぺにキスをする。
公式の場では敬語だが、間違えて敬語を使ってしまった場合、魔王様にキスをするという約束になっていた。くっ。節度あるおつきあいが大切なのに、本当に面倒な約束をしてしまったものだ。
ちなみに魔王様は、私の所為で予定量の執務がこなせなかった場合は、その日一日私に触らないという約束だ。ちなみに判定はルーンさん。……しかしルーンさんの判定が甘いのか……いや、絶対甘くはないと思うので、魔王様が優秀なだけなのだろうけど、まだその刑を執行したことがない。優秀すぎる魔王様が恨めしい。
「とにかく、必要以上のイチャイチャは不味いと思うの。ブァン国の人達には好印象を持ってもらわないと」
「これは別に公務ではなく、ブァン国国王のご厚意によるプライベートの新婚旅行なんだが?」
「そうなんだけど。でも、印象は良い方がいいと思うの」
もしかしたらブァン国のお姫様とかが、魔王様に嫁いでくれるかもしれないし。
今積極的に仲良くしようとしているブァン国のお姫様なら、貴族達も異を唱える事はないだろう。うんうん。凄く素晴らしい考えだ。
「フレイヤ、ではブァン国国王への挨拶をさっさと済ませてしまおうか」
「はい」
そう言って、私たちは王城へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……まるでベルサイユだ」
「べるさいゆ?」
「あ、ううん。こっちの話」
何というか、ブァン国はいたるところがキラキラしている。いや、もちろんアース国もすごく家具にこだわった造りで甲乙つけがたいんだけど。
ただ薔薇が好きなのか、薔薇をモチーフにした細工が多い気がするし、金を使う量も多い気がする。そういえば、ルーンさんが金の採掘はブァン国が一番だと言っていたので、その辺りが関係するのだろう。
「そういえば、ブァン国国王の王女様、すごく可愛かったね」
私はさりげなく、本当に何の思惑もないですよと言う様子で、王女様の話を振ってみる。ここで可愛いと言葉がでれば、好感度はばっちりだ。
ブァン国の国王様だって、できる事なら娘を嫁がせたいと思っているに違いない。
「これは申し訳なかった。どうやら俺は妻を心配させてしまったようだ。俺が愛しているのは君だけだ」
「って、いや。そんな心配してませんから。いや、えっと。私は魔王様の事を信頼していますからね。だから、あの。近いです。近いですって」
何でこうなる。
私は別に嫉妬したわけではないのに、魔王様が斜め上に受け取って、勝手に私を甘やかそうとする。しかも妙に近い。広い部屋の中で、ソファーも4人ぐらい腰かけれるのではないのかというぐらい大きいのに、私は隅っこに追いやられた状態で、髪の毛を手に取られ口づけを落とされる。
甘い。甘いですから。
ゲロ甘ですから。こんな姿見られた日には、リア充死ねと呪いの藁人形を編まれてしまうレベルだと思う。
「ここは俺と君しかいない。何を恥ずかしがる必要があるんだ?それに、そんなに可愛いやきもちを焼かれたら、慰めたくなるのが夫というものだろう」
「別に傷ついてなんていませんから――あっ。今、ノック。ノックがあったから!!」
ああ。あの可愛かった魔王様は何処へ行ってしまったのか。成長するたびに、テライケメン化していく魔王様を間近で見るのは精神的に色々大変だ。
とりあえずタイミングよく鳴った、扉を開けに私はいそいそと立ち上がった。
そして開けた先には――。
「あ、フレイ君、トール君、それから――」
「バルドルです。ご無沙汰しています」
扉を開けた先には、久々に見た顔が並んでいた。特にバルドル君はずっと昔、アース国へやってきた時以来となるので本当に久々だ。
あの頃は女の子みたいな外見だったが、今は美少年という言葉が似合うような中性的な甘めの顔に成長している。身長も私より数センチ高いようで、目線が少しだけ上だ。
「久しぶり、姉さん」
「フレイヤ、久しぶり。バルドルはここで絵の仕事をしていてさ。俺らさっきまでバルドルの仕事場所で待っていたんだ」
「あ、バルドル君は絵のお仕事につく事ができたんですね。良かったですね」
主に勇者が。
バルドルが絵の関係の仕事へつけないというのが、バルドルがトールに対してヤンデレ化する要因の一つだったはずなので、これで完全回避ができたというわけだ。
可愛らしい外見の2人が並ぶのはとても絵になるので、見た目はおすすめなのだが、内容がなんというか暗い方向に一直線になりやすいので一押しになり切れないカップリングだ。
「いえ。それより、魔王様とご結婚されたとフレイから聞いて。その、おめでとうございます。これ、お祝いに僕が書いた絵なんですけど」
そう言ってバルドルが布を広げて見せてくれた絵は、幼いころの私と魔王様が並んでいる絵だった。写真がない世界なので、記憶を頼りに書いただろうに凄くよく似ている気がする。
「バルドルって、すごく記憶力が良くてさ。一度見た光景なら、すごく細かいところまで描けるんだぜ」
「へえ。凄いですね。魔王様も見て。凄く綺麗に書いてくれてるから」
「本当だな。帰ったら君の部屋に飾っておこう」
「はい」
時折魔王城でも書かれたりするが、こうやって知り合いが書いてくれるのはまた違う嬉しさがある。特に、バルドルの絵は、綺麗な発色をしていて、素人目にも素晴らしい作品だと分かる。
「では、俺とフレイヤはまだこの国についたばかりで疲れている。この辺りで、少し休ませてくれないかな、義弟殿?」
「やだなぁ。俺と魔王との仲じゃないか。義弟なんて呼ぶ必要ないよ。そもそも俺は姉さんが18歳の誕生日を迎えると同時に結婚式を挙げてしまうなんて聞いていなかったし」
「あ、ごめん。私も急に決まった所為でフレイ君に手紙で送るのが遅くなってしまって」
「姉さんの事を責めているわけないよ。ねえ、魔王?」
「急に決まった事だったからな。知らせが遅くなって悪かった」
魔王様とフレイ君がにこにこと笑っているが、空気は寒々しい。
「な、なあ。フレイヤは明日からどういうスケジュールになってるんだ? よかったら、俺らが案内するけど」
巻き込まれたくないと顔に書いてある勇者が、話を変える為に私へ別の話題を振った。明日からの予定かぁ。そういえば、どうなっているんだろう。
「フレイヤは疲れているからな。少しゆっくりさせたい。予定が空いたら早めに連絡しよう。やはり、土地勘がある者に案内してもらった方がありがたいからな」
「そうだね。旅行雑誌があるわけではないし、案内してもらえると嬉しいな。でも私、そんなに疲れてはいないよ?」
魔王様は少し過保護過ぎではないだろうか。私は風邪もあまりひかないし、結構丈夫な方だと思うんだけど。
「別に俺も今日の今日誘ってるわけじゃないし」
「とにかく。この国は、異国から来たばかりの賓客を休ませてもくれないのか?」
「あ、すみません。そうですよね。フレイ、トール。また後日に来よう?」
魔王様と一歩引いた付き合いしかない、バルドルがそうフレイとトールに意見した。魔王様が少し不機嫌なのを感じ取ったらしい。
もしかしたら、私ではなく魔王様の方が疲れているのかもしれない。私よりも、魔王様の方が雪国というのに慣れていないだろう。
それに気が付けないなんて、妻失格だ。
「あの。フレイ君、勇者君、バルドル君。折角来て下さったのにすみません」
「姉さんが謝る必要はないよ。魔王、くれぐれも姉さんを大切にしてよ。それから、明日から3日以内に、1回は案内させて」
「……分かった。それで手を打とう」
良く分からないが、フレイと魔王様の間で取引が成立したらしい。
フレイが部屋から離れると、続いて勇者とバルドルも立ち去った。
「魔王様。疲れているなら、少し横になって。無理は良くないから」
「そうだな。では、一緒に横になろう」
そう言って、魔王様が突然私をお姫様抱っこした。
へ? いや、何で?
「あの、私はまだ大丈夫ですよ。全然元気ですし」
「フレイヤは、またいらない事を考えてるだろう?」
「へ?」
「俺はフレイヤしかいらないし、その為に急いで結婚式を挙げ、心配を払拭しようとしたんだがな」
心配を払拭? 私しかいらない。
その言葉で、私が私以外の正妃を探そうとしていたことがバレバレだった事に気が付く。さ、流石すぎます。
「フレイヤ。何故魔王には正室と側室がいるのか知っているか?」
「いえ……」
「子供が生まれず、その血が絶えるのを防ぐためだ。この血がある限り、昔の取り決め通り、国が分裂するのを防げるからな。だから子供さえいれば、フレイヤ以外を妻に置く必要はない」
……子供さえいれば?
「あ、あの。魔王様?」
「若い方が子供はできやすいそうだ。そして、これは新婚旅行だと言っただろう? 君が、俺以外の男と話していると、つい焼いてしまう」
「わ、私は、魔王様一筋ですよ」
「ああ。知ってる。ただそこに、俺も君一筋だという事をいい加減加えてくれないか?」
そう言って、私はほすっとベッドに落とされ、魔王様の素晴らしい笑顔をまっすぐ見上げる事になった。
それからきっちり3日後。フレイたちとブァン国を回る事になったのだけど、それまでの3日間のできごとは、墓の下まで誰にも言わずに持っていこうと思う。




