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におい
冬太の背が見えなくなると桜子はほうっと息を吐いた。
利発そうな眦。
くっきりとした眉。
物怖じしない態度。
小憎らしくて、ひどく愛しい。
目を閉じると冬太の強い眼差しと彼の人の眼差しが交差する。
気まぐれに匂い袋を渡したのは何も親切心からではない。
このまま獣に食われるには惜しいほど冬太は桜子の待ち人によく似ていた。
顔の造りではない。
桜子を惹きつけたのはその匂いだ。
春の日差しのような温い匂い。
冬の雪のような鼻を刺す清涼な匂い。
それが絶妙に混ざり合ったような、桜子にしか感じない、そして桜子だけが好ましいと思う待ち人の匂いと冬太の匂いはひどく似ている。
また、会えるだろうか。
冬太は桜子にまた会いに来てくれるのだろうか。
一抹の不安と久しく感じなかった甘美な期待。
会いに来て欲しい。
桜子はここを離れられないから。
こうして待つことしかできない。
年端のいかない童にこんな想いを抱くのは滑稽で情けないとは思う。
それでも願わずにはいられなかった。
桜子は、寂しかったのだ。
寂しいと思うことを忘れてしまうほど、寂しかったのだ。