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四章 金魚の箱

「はああぁぁぁあ、うん、こんなもんかな」

言って俺は立ち上がり大きく伸びをした。


あれから一週間が経った。事件の概要ってかまぁ、大まかなところは分かってきてる。例えば、少なくとも宵闇区に彼女――しゅーやくんのお母さんはいないことだとか、まぁ幻影町は割かし広いからまだ聞き込みは終わってないけど、恐らく他の区域にもいないであろう事とか、これは警察から盗んだ情報だけど、パート仲間の証言では失踪当日彼女はなんだかそわそわ?ってか緊張しているような雰囲気で仕事をちょいちょいミスってただとか、あと加賀美氏には他にも異母兄弟がわさわさいることだとか。――うん、お盛んだね加賀美父。あれ?心底どうでもいい?いやでもくだらないことの積み重ねが大事なときもあるってテレビで言ってたよ!(必死)

…まぁ実際のところ人探しの依頼なんて地味なもんで、殺人じゃあるまいし現場検証、なぁんて事もないぶん行方を探して三千里するしかない訳よ。チラッと部屋は見せて貰ったけどこれといって引っかかる物はないし、あとは周りの話が頼りなんだけど、警察みたいにあんまししつこく聞き込むわけにもいかないしね。

だからあちこち歩き回ってて見付けたらすぐ分かるように…あるいは何かヒントになる物はないかとあれから時々しゅーやくんにお母さんのことを色々聞いていた。クセだとか、好みだとか、交友関係だとかね。もちろん何度も聞いている話なんだけど、いろんな角度から話を聞くことで新しく見えてくることもある、…っていうのが俺の持論。


そんなわけでパソコンに向かっていた俺は作成した資料の角をトントン、とやって揃えてから欠伸を漏らす。

…あー、なんかすごい怠い。真面目に考え事してたらそれだけで一気にげんなりした。疲れた。―――こんなときは、気分転換が必要だよね?


「うんうん――ねぇ、しゅーやくん」

「?なんですか?」

こてんと不思議そうに首を傾けるしゅーやくんに、悪戯っぽくニッと笑ってみせる。

「――ちょっと外、出てこない?」


全力で怯えるしゅーやくんを説得するのは意外と骨が折れました。



「ううぅ…」

「もー、テンションひっくいなぁ。大体ぃ、ここまで一人で来たのに今更でなぁい?」

肩を落とすしゅーやくんをずるずると引きずりながら言う。学校になんか行ってられない!とか言って事務所(うち)に居候ってる割に、しゅーやくんは外に全く慣れていない。…と、いうか、事務所限定で平気なのかな?しゅーやくんは……初日の事件のこともあってちょっと申し訳無さそうだったけど、こっちとしては一応加賀美氏に頼まれてるしね。面倒は見れないから住まわせてやってくれ、って。って訳で、ちょっとお外に慣れようぜしゅーやくん、ってのも兼ねてるわけですよ。でもさすがに宵闇区は危険すぎるから黄昏区なんだけどね。まぁどっちにしろ俺にはショッピングひゃっほう!


…あ、ここのお店こっちにも支店出したんだ。勇気あるぅ。そんなことを考えながら久々訪れる――ってもまぁ一ヶ月ぶりくらいだけど――黄昏区の外観に、忙しなくキョロキョロしていると、後ろから悲痛な声がして振り返った。

「来るときは、とにかく切羽詰まってたんですよ!そんな、観光気分じゃ居られないです!!」

…なんだか、ねぇ。ホント、年相応じゃないっつか。危険だとわかっててもワクワクしちゃうのがこの年頃じゃないの?まぁ面白いからいいけどさぁ。

「まぁまぁそう言わずにさ、ね?――あ、あのお店気になる」

「ミカさぁぁぁん!」

相も変わらずずるずると引きずられるのって、割とキツくないのかな。肉体的にも、精神的にも。相変わらず諦めの悪いしゅーやくんを引きずりながら、俺は後方から飛んでくる微かな害意に口元を緩めた。



「いやいや…楽しいねぇ」

「僕は全く楽しくないです」

満身創痍。そんな言葉がぴったり当てはまるしゅーやくんを適当になだめすかして、俺は人気のない路地裏をにこにこと歩いていた。いやだって、こっちのが確実に近いんだけど、しゅーやくんが人気の無いとこビビるんだもん、めんどくさいよね。俺だってそれなり強いんだけど、信用無い?

「にしても…少し買いすぎたかなぁ」

「――明らかに」

マジで?と首を傾げる俺の両手には、アクセやら服やらあと食料品とか色々。何を買うにしても一気買いしちゃうタイプなんだよね、俺って。その方が安いし。てか、今思ったんだけど、もしかして、しゅーやくんてツッコミの言葉のチョイスがおじさん臭いから老けt…大人びて見えんのかな?

むむ、と眉間にしわを寄せる。生暖かい眼差しでこっちを見るしゅーやくんはとりあえず無視していると―――ふと何か違和感を感じて、俺は顔を上げ目を細めた。どこまでも続くような細い道のどこかで、ざあ、と風が鳴る。

ふと横を見ると、目を瞬かせたしゅーやくんと目があって。目を逸らさない俺に困惑したような顔をするしゅーやくんに、そっと口を開いた。

「………、」

「―…しゅーやくん、」


もう一度、風が啼いた。


「――伏せて」

しゅーやくんが不思議そうに目を見開きぼうっとしているのに舌打ちして、仕方なくその頭を掴んで無理矢理に下げさせる。瞬間、ヒュッと頭上を何か質量を持った物が通り過ぎていった気がしたのは、きっと気のせいではない。どころか、多分しゅーやくんだって気付いてるでしょ。

「な、え…!?」

おろおろとしゅーやくんは口をぱくぱくさせる。もー君、そればっかりねー、と苦笑しようとするより、先に。視界から突然少年が消えた。

「あっるぇぇー…」

おっかしいな、と頭を掻いて、ゆっくりと立ち上がる。―――もちろん、首に冷たい感触は感じていたから、両手を静かにあげて。

「――動くな」

「別に元から動いてないし、つーか動く気もないしぃ?…まぁそんなカリカリしないでよぉおにーさん」

「っ動くなと言っているだろう!」

せっせとちまちま逆方向に体を回転させながら喋ると、さらにぐい、と強く冷たいソレ…銃口を突き付けられる。あぁあー怒るだろうなと思ったから、折角頑張って足だけで体の向き変えてたのに。これでも怒られちゃうの?心狭いねさすがモブぞ。

「んっ…んー」

「ミカ…さ、ん」

助けて、という声にならない心の悲鳴的な物が聞こえてきょとんとする。やっぱり皆さんご予想通り、もう一人の―…んー、スーツ?ま、ここはオーソドックスに黒ふk「ミカさん!」…くに拘束されていた。うわぁ本格的に何かの主人公みたいだね。

「なーぁにぃー」

焦ったように叫ぶしゅーやくんに、安心させるためにっこりと微笑む。見るとあなざー☆黒服さんの銃口はさっきより強くしゅーやくんの頭に押し付けられていた。にしてもスゴいね、ここまでしちゃうんだ、無駄なのに。…あ、いや、無駄とか分かってないから、なのかな?

「…僕っ…!」

「いやいやというかしゅーやきゅん俺もそこはかとなくピンチなのだが。寧ろ俺がヒーロー呼びたい勢いさ助けてたそえもーん!」

「混ざってる上に分かりづらい!しかも元ネタこういう殺伐としたシーンで役に立ちますかね!?」

キレのいいツッコミをどうもありがとう。君ならきっと黄昏の後継者になれるよ!いや実際は色んな意味で無理だけどさ。

「おい、少し口を慎めよ?」

言って黒服の男はすうっと目を細め、拘束する手を強めた。ちょ、おいKY。会話ぶったぎるなよ。いやある意味空気読めてるけど。モブとしては。しかも俺を押さえてる人よりかっとならない人みたいで、多少は雰囲気がある。少なくとも小者臭さはないよ良かったね。

「…っ」

「あははぁー…てかさぁ、」

どうにかして!的な目を向けられたので、しょーがなく黒服②に話し掛ける。なんだ、と先を促され、俺は内心、困ったなぁと思いつつ疑問を口にした。

「君ら、何がしたいの?」

首を傾げる。その動きにまで銃口が付いてくるので、俺は普通に笑いそうになってしまった。いやいやいや、律儀すぎるってバカでしょ!これ傍目にはきっとかなり面白い光景だったよ!?…とプルプルしながら笑いを抑えていると、口端をぴくりとも動かさず見下すような目をした黒服②が口を開いた。――え、凄い。

「お前に言われるまでもない。…斎藤修哉、それから解決屋酒月構成員の猫谷三日月、」

この件から手を引け、と言われ、俺は苦笑するしかない。

「そう言われてもねぇ…。もう前払い金は貰っちゃったし、依頼人さんも、ほら」

目を向けたしゅーやくんは青い顔で、でも唇をきっと結んでいて。どう見ても諦める気はなさそうだよ。

「―…負けません」

「だってさー。依頼人さんが続行しろってんなら俺らがやめるわけにはいかないねぇ」

「っ貴様!」

にこにこしていると激昂したのは黒服①さん。今の状況を分かってるのかと言わんばかりに銃口を押し付けてくるので頭が貫通しそうだようわぁい。それを制するように軽く睨んで、今度は黒服②さんが口を開く。うんうん、理性って大事。

「―…さもなくば、と言ってもか」

わぁ脅しとか初めて受けたよ。すげぇ興奮する。

「まず殺される気がしないんだけどぉ…、まぁお金貰ってるし、途中でやめんのはさぁ、ほら、俺のプライドに関わるじゃん?」

「――後で後悔するぞ。我々は目的のために手段を選ばない」

「あは、そん時はそん時だよ。――なんだって受けて立つ」

じっと見つめ合う。いやそんなかわいいもんじゃないね、睨み合う。…よく“一瞬がとても長く感じられた…”とか言うけどさ、あれって頭ん中では全く別のこと考えてるからじゃないかな。実際俺がそうですし。こんなおっさんと見つめ合ったって楽しくねぇんだよバカヤロー!女の子連れてこい出来れば宵闇区に住んでない人で!サプライズの触手さんとかスライムとかなにも楽しくないからさ!とか何とか思いながらぼんやりしていると、黒服②さんが、くっと笑った。…いやあれ笑顔か?すごい歪んでるけども。

「…その選択、命取りにならなければいいな」

「ははは、そうならないことを願ってるよぉ。……てことで、お引き取りくださいな」

シッシッと手を揺らすと、唐突に半ば突き飛ばすようにして解放された。おおぅ、危ないなぁ。よろめきながらしゅーやくんの方を見ると、普通に解放されていた。けど、黒服②さんの視線ぱねぇ。マジ怖ぇ。なんか凄い憎々しげな目でしゅーやくんを見てるけど!子供嫌いなの!?

「にしてもきっつい目だなぁ…。いやねぇ、最近の若い子h「ミカさん?」おっとしゅーやくんいつの間にそんな所に!?」

びっくりしたぁ、と目をぱちくりさせると、俺の目の前に来ていたしゅーやくんは呆れたような怒ってるような眼差しを向けてきた。…て、いやいやなんで怒ってんのよ。

「あの二人は?」

「とっくに帰りましたよ―……はぁ」

おやなんだか怖いぞ?

「えーと、とりあえずしゅーやくん、落ち着いて」

そう言うときょとんとしたので、なんか怒ってるみたいだから、と付け加える。するとしゅーやくんは一瞬顔を引きつらせた後ぼそりと呟いた。

「こわ、かったんです」

「……あ、」

「あんな、あんなことになるなんて思ってなかった…。母さんを探すのをやめろって、一体どういう意味なんですか!?」

あぁそうか。俺は10年近くこの町で暮らしてすっかり慣れかかっていたけど…。“一般人”にとって、あんなのそうそう起こるもんじゃない。ましてや子供には、よほどのこと、か。救いを求めるようなしゅーやくんの視線を捉え、俺は真顔で言った。

「落ち着いてしゅーやくん。今俺にいえることはただ一つ、―――そろそろ腕が限界です」

「……ミカさん、」

またしても呆れたような目を食らった俺に多大なるダメージ☆ズギャン!

「いやだって、ちょ、ホントに超大荷物なんだもん!早く帰ろうぜ!」

うんもう無理なんだ!腕がもげそう!…強さとやせ我慢は別物だよね。とうんうん頷くけど、まだしゅーやくんがもやもやした顔なので渋々再び口を開く。俺ってばシリアス向いてないんだけどなぁ。

「……ていうか、さ。考えてもしょうがないよ。しゅーやくんは何があってもお母さんを探すって、覚悟したんでしょ?じゃあその目的にただ向かってくしか、ないじゃない」

「…はい」

「帰ろっか」

「――あの、ミカさん」

「んー?」

適当に返事をして振り返ると、しゅーやくんはぎこちなく笑みを浮かべていた。

「…ありがとう、ございます」

「――いいえー、俺は何もしてないよぉ」


そう答えて歩き出す。初めてしゅーやくんの笑顔を見たなとふと考えて苦笑した。何なの俺悲しい。


――そう例え向こうがどんなにけしかけて来ようが、


「何も、ね…」


薄く呟いた皮肉めいた言葉は、空気に溶けて消えた。




しゅーやくんの一人称にバラつきがあるかも…!です。


気にしないでください(キラッ

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