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三章 やっつけ仕事

爽やかな朝。ピーチチチ、という小鳥たちの声を聞きながら、俺はコーヒーの入ったカップを傾けた。


「…はっはっは、いやぁ…――焼き鳥食いてぇ」


は、目覚め?最悪ですけど何か。…昨夜。仕事の話を終えた後、黄昏の部屋を少年に貸して、俺は自分の部屋、黄昏はもう一つの部屋で寝たワケ。部屋の並び、奥から黄昏、俺、少年。――うん、殺人音波が俺に直撃だね!死ぬかと思った!ホントあんな攻撃食らったのHAJIMETEだよ。薄い壁のせいで俺に500のダメージ☆だし。てかしゅーやくんはなんなの?人外なの?人害なの?死ぬの?しかもドアが緊急用に防音設備しっかりすぎ分厚すぎて入る前に仕掛けられた罠に気付けなかったし…!てかとりあえず、壁!安アパートか!それかラブホか!ここ結構家賃高い筈なんだけどなあぁ!?…という訳で、寝不足どころか寝付けていない俺です爆発しろ。

「あ"ーあ"ーあ"ー」

頭痛ぇよど畜生、と頭を抱えていると、キィ、とリビングのドアが開く音がした。

「…っせぇな、なに騒いでんd」

「お前理由は聞かずに一発殴らせろ」

弟子を気遣った兄貴の心をぐしゃぐしゃポイするような発言をおしでないよ黄昏きゅん☆キャラ変わってる、とか言わないの、てか言わせなーい!



「とりあえず君は今日から猿轡を嵌めて眠りについて貰うよキラッ」

キャラ崩壊なんて気にしない☆な男前な心境でウィンクした俺を迎え撃ったのは、うろたえ顔のしゅーやくんと呆れ半分罪悪感半分顔の黄昏でした。

「え、…え?」

「…そこまでしなくてもミカが耳栓でもしてりゃ良い話だろ」

「バカかちみは!バカかちみは!はい大事なことなので二回言いましたここテストに出るよ!!」

言いながらゆさゆさと黄昏の襟首引っ付かんで揺らす。しゅーやくんはあわあわしてっけどね、うん、知ったこっちゃねぇwwつうか。

「落ち着け」

「落ち着いてられっかこの粗忽者が!」

「粗忽者…」

眉間をひくひくっとさせる黄昏に、どうしよう吹き出しそうです。いやホント結構さっきまで真面目にイライラしてたんだけどさ、なんか面白くなって来ちゃった。

「あれは人類の仕業じゃないよかの弾道ミサイルテポ○ンも秘密兵器ポセ○ドンも真っ青の大量殺戮兵器だからね!?」

「―前者はともかく後者はフィクションじゃねぇか、じゃなくて…ハァ」

溜め息を吐いて困ったようにぐしゃぐしゃと頭を掻く黄昏。いやはや、まじめくんは真剣にしか捕らえらんなくて困るね、どうも。

「―…とまあ三日月・ザ・ショータイムはここまでにしてぇ」

「……」

「まじめな話、ちょっとこれだと俺と黄昏が一日おきに不眠症な状況になっちゃうんだけどぉ…どうするぅ?」

「そんなにひどいですか」

「うん」

「即答かよ」

「え、っと…、」

しゅーやくんはそう言って困ったように眉尻を下げた。いやまぁ別に悩んで貰わんでも打開策は考えてあるんだけれども。

「…三日月さん、あの、お友達とか…」

「うん謂わんとすることは分かるけど聞き辛そうに言うのヤメテぇ。俺に友達いないみたいじゃなぁい」

あれでしょ、友達のとこに泊めて貰おう作戦でしょ。しゅーやくんを野宿させるわけにもいかないしね。一瞬で八つ裂きにされるよ。でも俺の友達ってか知り合いも、油断したら寝首かかれるような人等ばっかだしねぇ。てかそんな人間兵器送ったとか知れたら俺が寝首かかれちゃうよ。て訳で、

「でもそれはやっぱし君が危ないから却下ねぇ?……んーとりあえず、超高性能耳栓買ってー、俺と黄昏で端の部屋入ってー、後はアレだ、音波吸収剤があったはずだからそれを部屋に設置してっと…」

顎に手を当て、ぶつぶつと呟く。それを見る二人の目が若干冷たいのはもう気にしない。一通り諸々の対処法を列挙し終えた俺は、顔を上げてにっこりと笑った。

「てことで黄昏、GO!」

「俺かよ!」

ナイスツッコミです黄昏くん。



面倒くさいことは全部押しつけやがって…!とギリギリ歯を噛みしめながら出て行った黄昏――あれだよね、黄昏って常に全力で生きてる感じがする、肉体的ってか精神的に――を見送ってから、俺は再び眠りにつきました。眠り姫のごとく。…いやだって、普通に眠いよ?お前同じ状況体験してみろよあぁん?ただ眠れないのとは訳が違ぇんだよ!とは言えいつだって爆睡する訳じゃないから、多少疲れは残るんだけどねー。でも大分楽だよ。ベッドから起き上がりぐるぐると腕を回しながらリビングに行くと、しゅーやくんが紅茶を飲みながらソファでテレビを見ていた。俺が入ってきたのには気付いてないらしい。

「おっはよー、しゅーやくん」

近付いていってがしっとソファの後ろからのしかかると、しゅーやくんは何だか気まずげに、…おはようございます、と呟いて、それからハッとしたようにソファから慌てて立ち上がった。何々、どうしたよ。

「あの…っ勝手に紅茶…あとテレビも!」

「あいや、そんなことぉ?全然へーきだからぁ、そんな遠慮しなくていいよぉ。寧ろ俺にもいれてちょ」

「あ、はい!」

しゅーやくんがパタパタとキッチンに走っていくのを見ながら、ソファに座ってテレビを見ていると、その内紅茶が運ばれてきた。砂糖は、と遠慮がちに聞かれて2本指を立てると角砂糖を入れてくれる。…うわなにこの快適空間。黄昏も入れてくれるっちゃ入れてくれるけど、基本お客さんが来てるときだけだし、自分でいれろとか言うし。しゅーやくんマジ天使。


「あ、そうだしゅーやくん、」

「?はい」

紅茶を飲みながらまったりしているとやることをすっかり忘れそうだったので、先に口に出しておくことにする。

「昨日さー…知り合いの情報屋さんとこ行くっつったじゃぁん?」

「…あぁ…」

「んでそれ、今日行ってくっから。もうすぐ黄昏帰ってくると思うし、大人しく留守番しとってー。あ、俺と黄昏の部屋以外ならいじってだいじょぶだからぁ」

「分かりました、…でもあの、」

ルビー色をした紅茶の水面に一度視線を落として、それから訴えるように俺を見据えるしゅーやくんに瞳を細める。そんな顔してもダメよ。

「――それは無理、かなぁ」

ゴメンねぇ、とヘラヘラ笑いながら視線を下げると、感情を隠しきれない両手が洋服に皺を作っているのに気付く。よっぽどか。いやぁ愛されてんね、お母さん。

「…そう、ですか」

「うん。お母さんのこと、心配なのは分かるけど君が無闇に動いて解決することじゃないよぅ。危ない目に遭うのも本意じゃないしねぇ」

それもホントだし、嘘は言ってない。だけどそれだけじゃないのもやっぱり事実だ。情報屋というもんは、古今東西どうやら厄介な生き物のようで。面倒な交渉を好み、人の好き嫌いは激しい、金だけでは動かない、所謂享楽主義な人間ばかりなのだ。今から会いに行く相手は俺の友人だけれど、俺も向こうもそれとこれとは話が別、という考え方だ。金で動かない連中の筆頭、しかし情報の質も量も超一流。ただ興味を持たせるだけでも大変なのに、三流昼ドラの主人公じみたしゅーやくんを連れて行けばつまんなーい、の一言で交渉決裂しかねない。だから、一緒に来させるわけにはいかないのだ。

「そもそも今日は情報収集の依頼だけして帰る予定だしぃ、」

ねぇ?と頭をぽふぽふ撫でると、しゅーやくんは不服そうながらも小さくはい、と頷いた。

「うんうん、いー子ぉ。――んじゃ行ってくんね」

いってらっしゃいと手を振るしゅーやくんに背を向ける。そして俺は―…内心溜め息を吐きつつも、厄介な友人の許へ向かったのだった。



「……あぁ、そうか、分かった。―…また連絡する」

僅かな逡巡染みた沈黙の後、ピッという音と共に会話の糸が切られる。男は疲労を吐き出すように溜め息をつくと、組んだ指の上に少し後退し始めた額を乗せて唸った。

男は皇国内でそれなりの権力を持っている。故に政府の重要案件に関わることも多く…―しかし、今回の件では詳しいことを殆ど聞かされていない。そんなことは今までに余りなかったことだっただけに、男は戸惑い、同時にいやな予感に苛まれていた。

「何だか、ひどく…―胸騒ぎがするのだ。…杞憂なら良いが」

また深く溜め息を吐いても、動き出してしまった事態は止められないし、上に進言出来るほどの権力はまだ男にはない。どうしようもないかと手元の書類に目を落としたところで、ドアをノックする音が聞こえ、入室の許可を返した。

「先生、会議のお時間です」

「あぁ、今行く」

部屋に入ってきた細身にメガネの秘書の言葉に頷き、先程まで見ていた書類をまとめる。立ち上がろうとして、あ、というつぶやきが聞こえ顔を上げた。

「?…どうした?」

「あ、いえ…―ただ、」

視線の先を辿れば、窓の向こうに暗いというより黒い夜空が広がっている。

「あぁ…満月、だな」

微かに目を眇め、それ以上何の感慨もなくただ秘書のことを意外とロマンチストなのだなと勝手に批評する。ややあって男はくるりときびすを返して部屋を出ていった。


パタンと音を立てて閉まったドアと男の後ろ姿を、青く丸い月が静かに見下ろしていた。



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