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一章 人生は思い通り

「さて、とお…。今回はどのような御用向きで?」


おねーさん、とにっこり笑って首を傾げると…27、8位かな、ギリおねーさんな感じの女性が頬を赤らめて口を開いた。ま、俺ってばイケメソですからねぇ。フフン。


「…リリィを…私のペットを、探して頂きたくて…!」


縋るような必死の視線に、いやいやじゃあ俺に見とれてる場合じゃないでそーと心の中で突っ込みつつ人差し指を唇にあてる。ふむ、と黙り込んだ俺に代わって今度は黄昏が女性に話しかけた。


「失礼ですが、“国”側の方ですよね?」

「え、えぇ…。」

「なるほど、ペットの目撃情報があった…とか?」


でなければこんな危険な場所に来ないだろうと言いたげなニュアンス。対して女性は歯切れが悪い。

「はい、…いえ、というより…」

口を噤み俯いた女性に黄昏は不思議そうだ。こらこら、きちんと意図を汲み取らなきゃダメじゃん。苦笑してとりあえず俺は言った。


「…もしかして、“怪猫”のペットですかぁ?」

「…―!どうして、」


弾かれたように顔を上げ、驚く女性に笑ってみせる。推測するのはそう難しいことでもない。


「ペットの現在地とか、普通はだいたいでもそんなに目星は付かないもんですけどぉ…あなたはわざわざここに来た以上、少なくとも“幻影(まぼろし)町”にいると分かってる訳ですよねぇ。じゃあそれはなんで、…って逆算して考えれば、おのずとねぇ?」


それでもまだ訝しげな表情の女性に俺は更に言葉を重ねた。こんなに頭働かせたのいつぶりでしょう。ていうか、なんで俺こんな言い訳みたいなこと言ってんだろ?


「最近はあんまり、特に“お国”じゃあ怪猫なんて見かけませんし聞きませんよねぇ。つまり、お国で見つかってしまったら恐らく大騒ぎになる。でもそれがないってことは…、無法地帯の幻影町かもしれない、ってとこですかぁ?」

「……はい。」


俯く女性に黄昏が呆れたようなため息を吐く。


「知らなかったならまだしも…、それなら国が使ってる首輪でも調達しておけば良かったのでは?」


口さがないねぇ。まぁ大いに賛成だけど。とニヤニヤ笑っていると、肩を震わせた女性が悲痛な声を上げた。


「首輪なら、してました!でも…いつもなら周期のとき側に付きっきりでいるんですけど、今回はどうしても外せない仕事があって…!それに、いつもよりずっと状態も良かった。なのに、家に帰ったら引きちぎられた首輪が落ちていて…。」


両手で顔を覆った女性にさすがに居たたまれなくなったのか、黄昏は若干居心地悪そうに顔を逸らす。じゃあ最初から言うんじゃないよバカちんめ。


「あの子に、…リリィに何かあったら、私っ…!」

「――落ち着いてください。」


どうやらまた興奮し出した女性の横に回って背中を軽く撫でる。頼りない背中は一瞬ひくりとふるえた後、少しずつ痙攣が引いていった。震えが完全に収まったのを確かめてから、俺はあえてのんきな間延びした声で女性に話しかける。…うんそこKYとか言わないー。


「…原田さん、大体の事情は分かりましたぁ。とにかくこの依頼―…“酒月”はお受けしまぁす。」

「本当ですか!」

ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった女性は良かった、と吐息を零した。お国の危険動物に指定されている怪猫の捜索依頼だ、他の探偵事務所なんかには頼めなかっただろうし、緊張するのも当然かもしれない。


ホントですよぉ、と女性を安心させるように微笑み、けれど直ぐに顔を引き締める。


「まずは、…黄昏、」

「分かってる。」

即座に反応した黄昏は片手に持っていた地図――って呼べるほど立派なもんじゃないけど…―をテーブルの上に広げた。さっすが俺の弟子だけあるよねぇ?


「これは…、」

「――幻影町の全体の地図ですよぉ。」

地図に目線を落とした女性に頷いてから、俺は地図の三区分されたうちの一つを指差した。


「ここが宵闇地区。三地区の配置なんかは…だいじょぶですよねぇ?」

ちらりと目を向けると、女性は小さく首を動かす。もちろん縦にね。そうだろうとは思ってたけど、ここに入るのにきちんと下調べして来たんだろう。


「じゃあ話が早い。…恐らく色々考えるとぉ、一番リリィちゃんが居そうなのはぁ…、」


ここですかねぇ、と俺が指差した場所を上から二つの顔が覗き込んだ。







「―…んー、あれかなぁ?」


現在地、宵闇地区二番街商業エリア。


依頼人の原田さんから貰ったリリィの写真片手に、俺は首を傾げていた。

「グレーに黒の斑、青の瞳…―まず間違いないと思うけど…。」


うぅん、とさっきより更に首を傾けて猫と見つめ合う俺の姿は、まぁかなり珍妙なことだろう。それでも注目なんてされないのがこの町なんだけれど。…ていうか、こんなに近くで見ても逃げないとか、それだけでもこの猫が普通じゃないことの証明にはなる気がするけどねぇ。


「むぅ…読みは合ってたけど、こんなに人…いや猫相が変わるとは。」


ペットとして飼われてた動物にそうそう狩りが出きるとは思えない。だから宵闇唯一の商業エリアであり、露店なんかもあるここに来るだろう、っていう俺予想。でも居なくなってから結構な日数食べてないっぽいリリィ(仮)は、やせ細って写真とかなり変わっていた。

さぁどうすべきか、とまたまた首を傾けて。


「―…あ、そうだ。」


確か原田さんは、リリィは名前を呼ぶと誰でも返事をする…とか言ってたな。うんよし、それで行くしかない。


「…リリィ?」


頼む返事して、もう手掛かりないんだよー、と祈る俺の思いが通じたのか。



「―――…ナァン。」



少し怪しむようにじっとこちらを見ながら、それでもリリィは小さな声を返した。


「うっしゃ!」


良かったと笑ってから原田さんに預かったキャリーを取り出すと、リリィはその中にゆっくりと入っていった。平和的解決万歳。



「うへへ臨時ボーナス…って、黄昏?」

「―…ミカ、」


ニヤニヤしながら呟いていると、五メートル程離れた地点に黄昏の気配を感じて振り返る。どうした、と首を傾げると、黄昏がなんだか滅多にしないもの凄く申し訳無さそうな顔をして立っていた。…あれぇ、なんか凄く嫌な予感。


「―…それ、なあにぃ?」

「…拾った。」


いやそうじゃなくて、と言って顔を引きつらせる。黄昏が手を引くのは、


「――子供だな。」



少年でした。


……いや、意味分かんないからね?



「………依頼人だ。」


渋い顔の黄昏になんだか楽しくなってくる。こんなフツーっぽい少年が依頼人…ねぇ?


「…へぇ?そっか。」


それって、


「楽しそうな臭いすんねぇ。」



もしかしたら棚ぼたかもしれないと俺は静かに目を細めて笑った。


原田さんが名乗ってませんが、まぁそれは事前にアポを取ってたということで(おい)

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