ニュウガクシキ
案の定というか何というか。やはり俺と戸鞠は同じクラスだった。ちなみにクラスは普通科のB組。
戸鞠は俺の方に「ほらね」といった感じに視線をやり、教室の場所が書いてあるプリントを取りに行った。
「…すみませ~ん」
なんだろうか、とても消え入りそうな声が聞こえたような気がする。
「あの~、すみませ~ん」
また聞こえた。しかも、俺の後ろで、少し上あたりから。
俺は音源を確かめるべく振り返ると、そこには俺よりも背が高く薄いフレームのメガネをかけ、俺と同じ真新しい制服をきた生徒が立っていた。
俺、初対面の人間ってあまり得意じゃないんだけどなぁ~。
「どうしたんだ?」
「自分のクラスを探してるんだけど……僕、視力悪くって見えないんだよね。で、君さえよければ探すの手伝ってもらえないかと思って」
「別にいいけど………名前は?」
「ホント? ありがとう。僕はセイト。カネガキ セイトって言うんだ。よろしく!」
「よろしく。俺は木登 琥珀。何科なんだ?」
「普通科だよ~」
えーっと、カネガキって金柿とかでいいのかな?
【金垣 青戸】ならあるけど…あれって読み方はアオトだろうし……。あとセイトって読めそうな漢字は―――。
「うーん。B組のところには無さそうだから、C組のところにあるんじゃね? あとのクラスは特進科と英語科のだし。」
「そっk「あっ、居た琥珀!」
カネガキが何か言おうとしたのを遮って戸鞠の声が飛んできた。
人が話してる時に邪魔しちゃいけません!
「へ? あぁ、ごめんねー。君どうしたのー?」
カネガキの存在に気付いたのか、戸鞠はカネガキに話しかけた。
カネガキは俺にした説明と同じものを戸鞠にもしているようだ。
「そっか。セイトってどんな字で書くの?」
「青に江戸の戸で青戸って読むんだー。ちなみにカネガキは金に垣って書きます」
「へ? あれだったの、お前の名前って?? アオトって読むんだろうなって思ってた」
「まったく琥珀はー。慣れないことするからこんなことになっちゃうんだよー。ごめんね。あっ青戸くんも私たちと同じクラスだね。私は水城 戸鞠です。よろしくね! ていうか今度から青くんって読んでいい?」
「え………あ……うん、いいよ。こちらこそよろしく、水城さん」
「戸鞠でいいよー、もしくは鞠でも♪」
「じゃぁ鞠ちゃんで♪」
金垣の名前は俺の名前の横にあった。ホント、慣れないことはするものじゃない。
戸鞠と金垣は波長が合うらしく、すぐに意気投合し教室に着くまでずーっと話していた。俺はというと、話を振られたら話す程度で、2人の後をついて行く形で歩いていた。
○●○●○
教室に入ってみるとすでに半数くらいの生徒がきているようだった。
まだ初日ということもあり、何人かの生徒は自分に与えられた席につき、本を読んだり、イヤホンを耳に付けて音楽を聞いたり、机に突っ伏して寝ていたり、またはさっそく友達同士になったのか、はたまた同じ中学だったのか、談笑している者もいた。
座席表は黒板の両端に貼ってあった。席は6列あり、左3列が男子で右3列が女子に分けられていた。
席順は名字のアルファベット順に分けられていて、俺と金垣は左から2列目の後ろから1・2番目だった。ちなみに俺の方が順番は早い。戸鞠の席は6列目の一番前のようだ。
俺らは一旦、荷物類を席に置いてくることにした。
もし戸鞠がこちらにきたとしても金垣と話すだろうし、担任が来るだろう時間まであと30分もあることだし俺はそれまで寝るか、と思い机に突っ伏しようとしたが。
「木登く~ん」
後ろから金垣呼びかけてきた。
「…何?」
寝たいがこのまま無視するわけにもいかないので、不承不承という感じに振り向くことにする。
「先生が来るまでまだ時間あるし、せっかく近くの席になれたんだから話そうよ♪」
「そーだそーだ! 付き合い悪いよー琥珀ーwww あと木登くんなんて固い呼び方はやめて琥珀って呼びなよ! 新たにあだ名とか付けちゃってもいいし♪」
「そうさせてもらおうかな♪ じゃぁ改めて、これからよろしく珀くん。あ、僕のことも青戸って呼んでね。もしくは戸鞠ちゃんみたいに青とか」
「………よろしく青戸…」
やっぱりこいつら似てるわ。てか俺の拒否権はどこへ?!
俺はしばらく考えた末、普通に名前を呼んで返答した。
流石に俺は、戸鞠みたいに初っ端からあだ名で相手の名前を呼ぶことはできない。というより抵抗がある。かといってここで再度名字で呼んだら………考えるのさえ嫌になってくる。
「そういえばさ、鞠ちゃんと珀くんって付き合ってるの?」
『へ?』
なぜそう思う。
あまりに突拍子もない青戸からの質問に、俺と戸鞠は同じ反応をしていた。
しかし戸鞠の方がこういったことからへの回復が早いためか―――
「え、そうだったの琥珀?!」
「俺に聞くな! そしてお前も同じ立場だろ。俺に押し付けるな!!!」
「んー、てことは付き合ってないってこと? 仲良さそうだから付き合ってるんだろうなぁ、って思ってたけど」
「断じて違う!!!」
「そうそう。家が隣あってて、母親同士が学生時代から友達だから必然的にその子供同士も仲が良いってだけだよ」
疲れた。精神的な方の体力が底尽きる寸前ってくらいに…。
そのあと俺は極力話に交わらないようにしながら、担任がくるまでの時間を過ごした。
一応、全ての名前の所にルビをつけてみました。