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優二・運命とはかくのごとき

よろしくお願いします!

俺の人生を変えた一枚の絵…。


中学生の頃、父の出張で仙台に来ていた。あまりに退屈で、近くの美術館へ行った。


子供の頃から絵は描いていたが、特別好きと言う訳ではなかった。


続けていたのは、死んだ母が絵を書くのが好きだったからかもしれない。


ちょうど特別展を行なっていた。仙台に住む小学生の作品展だった。


拙く幼稚な絵の中に、その絵はあった。


桜の絵だ。青い桜の。


桃色の靄のなか燦然と光り輝く大輪の青い桜…


これ程美しい光景は見たことがなかった。


周りと愕然とする力量差と迫力が感じられた。

まさか小学生の絵とは思えない…


俺はその時の感動と共に小さな鬼才の名前を刻印した。

その時の感動は、俺の人生を変えた。


俺の祖母は外交官の娘で、戦後来日していた東南アジアの富豪に見初められ結婚した。


しかし、祖父の国に何かの事情でいられなくなり、祖母はアメリカに渡った。

祖母の父が日本への帰国を快く思わなかったそうだ。


その頃、すでに祖母は妊娠しており、アメリカで母を生んだ。


そして留学生だった父と出会い結婚するが、母は10歳の時に死んだ。


その後、父の祖国・日本で暮らすようになった。


父も父方の祖父母もとても優しかったが、俺は混乱していた。


日本はまったくの他人の国だ。しかも、完璧な日本人の血ではない。

しかし、アメリカは祖国と言えるのか…


日本語も話せず、どうしてもこの国を愛せないし愛されないと信じていた。


しかし、だ。

この青い桜の絵を見て、俺は受け入れられたように感じたのだ。


ありえないはずの青い桜は、こんなにも美しい…


型からはみ出した自分に、希望が宿った気がした。


その絵の前で、美術館が閉館するまで立ち尽くしていた。

それから本格的に美術を学びだした。日本語では上手く伝えられない想いを表現できるのが、絵だった。


楽しかった。

絵を通して友人も出来たし、いくつか小さな賞もとった。

高校になると周りには少数だが確かなスポンサーまでできた。


美大に入り、個展も開くようになった。同じ油絵の恋人もできた。


休学してヨーロッパに数年留学もした。


充実していた。


しかし、あの桜を忘れることは一度もなかった。


留学から帰り学年では4年の時、親友の綾部が可愛い新入生の女の子に声をかけたと自慢してきた。


二人で見に行こうとなり、彼女のいる教室に見に行った。


沢山の生徒が実技の授業を受けていたし、遠かった。


しかし、窓辺に座りキャンバスを広げる少女を一瞬でとらえた。


胸が高鳴った。


長く黒く美しい髪にスラッとした、色の白い睫毛の長い少女。


「彼女だ。名前は佐々木三葵っていうんだ。」

言ったのは綾部だった。


しかし、俺はその名前を聞いて彼女があの絵を描いたことを確信していた。


まさに運命的だった。


さらに、彼女は俺の個展のアルバイトに応募してきたのだ。


初めて話す時、どれほど緊張するかと思ったが、出会った時 に杞憂だとわかった。


「はじめまして。佐々木です。よろしくお願いします。」


彼女は大きくけれど、きりっとした印象の目を細めた。


「よろしく。」


やはりそうだ。俺はもうずっと昔に彼女を知っているような気がして、すぐに打ち解けたのだ。


ずっと前から出会っているんだ…



読んでいただきありがとうございます!

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