悪役令嬢に転生した私は王子に婚約破棄宣言して男爵令嬢と愛を育む
「ヤバい、遅刻しちゃう!」
夕波美佐子は生の食パンを口に咥えて、家を飛び出すと、慌てて鍵をかけた。
美佐子は駆け出しながら、腕時計で時刻を確認すると、八時を過ぎていた。八時半までには出社しないといけないのに、これはもう遅刻確定だ。
寝坊した自分を恨めしく思った。
ため息をつきながら、階段を駆け下りる。
「あっ」
出社時刻に間に合わない焦りで、美佐子は段差を踏み外してしまった。勢いよく階段を転げ落ち、美佐子は地面に後頭部を打ち付ける。
「うぅっ」
階段に打ち付けた体の節々の痛みに呻き声を上げ、美佐子はそのまま息絶えた。
☆☆
美佐子はハッと気付くと、瀟洒な佇まいの部屋に立っていた。広々とした空間には高価と思しきインテリアが所狭しと並べられている。天井にはシャンデリアが吊り下がっていた。
「ここはどこ?」
美佐子は眉間に皺を寄せて部屋を見回す。自分は確か階段を転げ落ちたはず。それなのに、どうしてこんなところにいるのだろうか?
美佐子は何気なく視線を落とし、自分が鮮やかな真紅のドレスに身を包んでいることに気付いた。
「え? 何でドレスを着ているの?」
美佐子はドレスなんて一着も持っていなかった。なぜ高価そうなドレスを着ているのかが皆目見当もつかなかった。
美佐子はあらためて部屋を見渡し、隅っこの姿見に気付く。姿見に駆け寄り、自分の身なりを確認する。
「え? エルディス・クラージュ公爵令嬢? どういうこと?」
美佐子は姿見を凝視しながら、両手で自分の顔を触る。どういうわけか、美佐子は大人気乙女ゲーム『悪役令嬢に転生した主婦の大冒険』の主人公――エルディス・クラージュ公爵令嬢になっていた。
「まさか、これっていわゆる異世界転生ってやつ?」
美佐子はエルディス公爵令嬢になった自身の顔を姿見越しに見つめて呟く。
エルディス・クラージュ公爵令嬢は王子を誘惑して情報を引き出して敵国に流す悪役令嬢であり、処刑される運命にあった。そんなエルディス公爵令嬢に転生した主婦が自身の運命を変えるために奔走するストーリーが『悪役令嬢に転生した主婦の大冒険』だった。
「ハッ! もしここが乙女ゲームの世界だとしたら、フラリニア様がいるかも」
美佐子は目を輝かせた。『悪役令嬢に転生した主婦の大冒険』に登場するフラリニア・メフィー男爵令嬢の大ファンであり、給料のほとんどを推し活に注ぎこむほどだった。自宅にはフラリニア男爵令嬢のグッズが大量にある。
「こうしちゃいられないわ」
美佐子は散々やり込んだ乙女ゲームのマップを頭に思い浮かべながら、部屋を出る。
☆☆
「私は他に好きな人が出来たの。王子には申し訳ないけど、婚約破棄させてもらうわ」
美佐子は王子の部屋に入るなり、婚約破棄を宣言した。突然のことに王子は呆けた面を浮かべているが、彼には興味がない。
「さよなら、王子。もう二度と会うことはないでしょう」
「ちょっと待ってくれ! どうしてだ! 理由を話してくれ!」
王子は目尻に涙を浮かべて叫んだ。理由を話してくれって『他に好きな人が出来たの』って言ったはずだけど、聞いていなかったのだろうか。
美佐子は呆れて、足早に王子の部屋を後にする。急ぎ足で城を出ると、フラリニア男爵令嬢が住む屋敷に向かった。
☆☆
美佐子は屋敷に到着すると、門番にフラリニア男爵令嬢に用がある旨を伝えた。門番はいとも簡単に美佐子を屋敷の中に入れてくれた。
エルディス公爵令嬢とフラリニア男爵令嬢は幼馴染みという設定で、門番とも顔見知りだから、警戒心はないのかもしれない。美佐子にしてみれば、ありがたい設定だった。
美佐子はフラリニア男爵令嬢の部屋の前に辿り着くと、生唾を飲み込んでから、扉をノックする。
「はい、どうぞ」
フラリニア男爵令嬢の美しく澄んだ声が聞こえた。ゲーム内で何度も耳にした声を生で聞けるなんて感激だった。
美佐子はゆっくりと扉を開け、部屋の中に足を踏み入れる。
「あら? エルディスじゃない。どうしたの?」
フラリニア男爵令嬢は美佐子を見た途端、表情が明るくなった。外見はエルディス公爵令嬢だけど、中身は全くの別人だし、フラリニア男爵令嬢の態度に美佐子は複雑な気分になった。
美佐子は無言でフラリニア男爵令嬢に近付くと、唇を奪った。柔らかい感触の唇が心地良く、舌で舐め回した。
「え? 何でキスを?」
フラリニア男爵令嬢は視線を彷徨わせ、動揺しているようだった。
「私はフラリニア男爵令嬢のことが好きなの!」
美佐子は推しのフラリニア男爵令嬢を抱き締める。本物のエルディス公爵令嬢は彼女に対してどういう感情を抱いているのかは知らないけれど、美佐子の心は愛で溢れていた。
「……私もエルディスのことが好き。ベッドに行こうか」
フラリニア男爵令嬢は笑みを浮かべると、美佐子の手を引いて、ベッドへと押し倒した。
「今度は私からするね」
フラリニア男爵令嬢は美佐子に口づけし、舌を入れてディープキスしてくる。鼓動が速くなるのを感じた。
熱い口づけを交わしていると、ゆっくりと真紅のドレスを脱がされた。人前で下着姿を曝け出すのは恥ずかしかった。
けれど、現実の自分と違い、エルディス公爵令嬢はスタイル抜群なのが幸いだった。
「綺麗な体をしているわね」
フラリニア男爵令嬢はそう言いながら、紺色のドレスを脱いだ。しなやかな肢体は美しく、純白の下着姿に思わず見惚れる。
「……可愛い」
美佐子がポツリと呟くと、フラリニア男爵令嬢はほんのりと頬を染めた。
「エルディスの方が可愛いよ」
フラリニア男爵令嬢は照れたように囁き、両足を美佐子の下半身に絡ませてくる。互いの肌が密着し、美佐子はドキッとした。
しばし見つめ合った後、フラリニア男爵令嬢は美佐子の耳たぶを甘噛みしてきた。くすぐったいながらも、心地良かった。
美佐子はフラリニア男爵令嬢の腕を取ると、ほっそりとした指を咥えて味わう。指からエキスが溢れ出ているような感じがして興奮した。
「……愛しのフラリニア男爵令嬢。私は今、とても幸せだわ」
「私もすごく幸せよ、エルディス」
フラリニア男爵令嬢は恍惚とした表情で、美佐子の頬をペロリと舐める。
その後も美佐子はベッドの上で、フラリニア男爵令嬢と絡み合い、親密な一日を過ごした。
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