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願いを叶える御札(税込999円・送料無料)  作者: 川北 詩歩


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怪しい通販サイトの御札

主人公が見つけた怪しい通販サイト「damason」

そこで購入したのは、願いを叶える御札だった…。


 大学生の俺、(つよし)は、深夜の自室でどん底の気分に浸っていた。


 画面に映る通帳の残高は、もはや公共料金の引き落としすら怪しい。空腹を紛らわすためにネットサーフィンをしていると、ふと、胡散臭い広告のバナーが目に飛び込んできた。




damason(ダマソン)――あなたの欲望、格安で。』




「なんだこれ、Amaz○nのパチモンか?」




 鼻で笑いながらクリックした先には、令和の時代とは思えないほどチカチカしたデザインのサイトが広がっていた。そこで一番人気として紹介されていたのがこれだ。




【願いを叶える御札(三回限定・返品不可)】


価格:999円(税込・送料無料)




 レビュー欄を覗くと、「人生変わった!」「マジで一等当たった!」という景気のいい言葉と並んで、「絶対に廃棄できない。覚悟しろ」という不気味な忠告が入り混じっている。


 普段の俺ならスルーするはずだったが、空腹と金欠は判断力を狂わせる。俺は半ば自暴自棄になりながら、ポチッと購入ボタンを押した。






 数日後、届いたのはどこで拾ってきたのか疑いたくなるような、シワシワで薄汚れた封筒だった。




 中には、醤油でもこぼしたのかと思うほど黄ばんだ和紙の御札が一枚。そして、殴り書きのような説明書が添えられている。




『三つの願いを叶える。ただし、廃棄不可。燃やしても水没させても、必ず持ち主の元へ戻る。一度願えば、逃げ場はない。』




「……ネタにしては凝ってるな」




 俺は鼻で笑い、試しに一つ目の願いを唱えてみた。




「宝くじで、とりあえず百万円当たりますように!」




 御札を握りしめ、駅前の売り場でスクラッチくじを十枚買った。どうせ当たるわけがない。そう思って銀色の部分を削ると……。





 一等、百万円。





 その文字が、信じられないことに十枚目のクジに刻まれていた。




「マジかよ! damason最高じゃねえか!」






 手にした大金に気が大きくなった俺は、止まらなくなった。金が手に入れば、次に欲しくなるのは「愛」だ。


 俺には、一年の頃からずっと片思いをしている相手がいる。同じ学部のマドンナ的存在、由里ちゃんだ。高嶺の花すぎて、挨拶すら緊張する相手。




「由里ちゃんに、死ぬほど愛されたい!」




 俺は御札を強く握り締め、心臓の鼓動を感じながら二つ目の願いを唱えた。


 翌朝、大学の講義棟の入り口で、奇跡は起きた。




「毅君!」




 前方から、あの由里ちゃんが全力疾走で突進してきたのだ。




「毅君、大好き! もう、一秒も離れたくないの!」




 全学生の視線が集まる中、彼女は俺の首に抱きつき、公衆の面前で愛を叫んだ。俺の顔は沸騰しそうなほど赤くなった。ああ、なんて素晴らしい朝だ。俺の人生、これからバラ色だ。





 ……そう思ったのは、わずか一時間の間だけだった。





 講義中、ふと背後に冷気を感じて振り返ると、由里ちゃんが窓の外から、あるいは隣の席の隙間から、血走ったようなジト目で俺を凝視していた。


 昼休みになると、彼女は俺の口の形に合わせた特大の弁当を突き出してきた。




「毅君、食べて。全部食べて。私が作ったんだよ。私の愛情、全部飲み込んで!」




 彼女の笑顔は、どこか歪んでいた。





 その夜、俺のスマホは爆発寸前だった。一分ごとに通知が鳴り響く。




『毅君、今何してるの?』




『誰と話してたの? 殺したい。浮気したら殺しちゃうからね』




 送られてくる自撮り写真の中の由里ちゃんは、研ぎ澄まされたナイフを手にして、頬を赤らめて微笑んでいた。




「……死ぬほどって、こういう意味かよ!」




 恐怖に震えた俺は、御札をゴミ箱の奥底に放り込み、ガムテープで封をした。だが翌朝、目が覚めると、その黄ばんだ御札は俺の枕元で「ニヤリ」と笑うように鎮座していた。




 トイレに流しても、電子レンジで加熱して消滅させようとしても、御札は瞬時に復活する。




「こいつ、本物の呪いのアイテムじゃねえか!」





 由里ちゃんのストーカー行為は止まらない。


 街中で「毅君の汗、小瓶に詰めていい?」と嗅がれた瞬間、俺は本気で命の危険を感じて逃げ出した。背後からは「逃げないで! 愛してるの!」という絶叫が追いかけてくる。




 願いはあと一つ。




「全部元通りにして、この呪いも消えてくれ!」




 俺は屋上で絶叫した。だが、御札はピクリとも動かない。説明書の裏をよく見ると、極小の文字でこう書かれていた。




『「元通り」の願いは無効。面白みがないため。』




「damason、ふざけんな!」




 俺は頭を抱えた。だが、その絶望の中で、ふと一つの知恵が閃いた。自分のことだけを考えちゃダメだ。この「呪い」の仕組みを逆手に取るしかない。




「由里ちゃんが、ヤンデレじゃなくて『普通に』俺のことを好きになって……そして、この御札が、誰か別の、俺よりも願望の強い奴のところに渡るように!」




 その瞬間、御札が淡い光を放ち、俺の手の中から煙のように消え去った。






 翌朝、恐る恐る大学へ向かうと、校門の前で由里ちゃんが待っていた。




「あ、毅君。おはよう。昨日はちょっと……自分でも変だったみたい。ごめんね」




 彼女は頬を染め、穏やかな、本物のマドンナの笑顔を浮かべていた。ストーカー気質は完全に消え、そこには純粋な好意だけが残っていた。




「ねえ、今日の放課後、どこか行かない?」




「……ああ、喜んで」




 俺は心底ホッとして天を仰いだ。御札は消えた。呪いは解けたんだ。




 だが、その日の昼休み。


 俺の親友、賢治けんじが鼻息を荒くして部室に飛び込んできた。その手には、あの黄ばんだ、忌々しい御札が握られていた。




「おい毅! 見てくれよ、damasonでとんでもねえ掘り出し物を見つけたんだ! これ、三つだけ願いが叶うらしいぜ!」




「……え?」




 俺の顔から血の気が引いた。賢治、お前、何を……。




「やめろ、賢治! それは……!」




「何言ってんだよ、運を逃すなよ! 俺、まずは……憧れのアイドルと、死ぬまで一緒にいたい!」




 賢治が御札を握り締めて叫んだ瞬間、彼のスマホに謎の着信が入った。画面には「非通知」…。


 そして、賢治のSNSのDM欄に、そのアイドルからの一言が届く。




『君の家の場所、わかったよ。今から一生、離さないからね。』




 賢治の歓喜の叫びが、一瞬で絶望の悲鳴へと変わるのを、俺はただ呆然と見守るしかなかった。




「damason、恐ろしい子……!」




 俺は静かに天を仰いだ。


 幸せは、誰かの犠牲の上に成り立っている。


 俺の平穏な日々は、親友の地獄と引き換えに手に入れたものだったのだ。






【終】



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