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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ニュータイプの女の子

作者: 硴里りま
掲載日:2026/03/05

「心停止しています! 誰か、AEDを!」


 私は生まれた時から、身体の構造が少しだけ他人と違っていた。


「……っ!? 呼吸はしています……!」

「なっ……どういうことだ?」


 拍動が、一分間に一回しかないらしい。


「……詳しく調べる必要があるな」


 脳の大きさは標準的だが、心臓は異常。目は細部まで見通せるように進化し、耳は常人には聞こえない周波数の音まで拾い上げる。

 簡単に言えば、新手の「ニュータイプ」だ。

 幸い、成長の過程で研究対象にされることはなかったが、家庭環境は劣悪だった。親に進路を決められ、行動を制限され、何度も怒鳴られ殴られ……そんな日々を過ごしてきた。それでも「普通に幸せな人生」だと思い込もうとしていた。


 けれど、本当は生まれてきたくなんてなかった。贅沢だと言われるかもしれないが、私はみんなと同じでありたかったのだ。

 周りに馴染みたくて、私はずっと友達を助け続けてきた。……でも、十歳の頃。その「助け」のせいで、友達に拒絶された。


「大丈夫? 話、聞──」

「うるさい! どうしていつもそうやって優しくしてくるんや!私が惨めに見えるやろ!?なに、ニュータイプやから余裕だって言いたいん!?」


 その一言で、私はようやく自分が他人を傷つけていたことに気が付いた。

 それからは「こっそり助ける」ことを心掛けた。いじめの噂を聞けば一週間ほど状況を傍観して先生に報告し、「人生に疲れた」という声を聞けば、解決策を提示する。


 沢山の手助けをしているうちにこの日本という国は疲れすぎていると言うことに気が付いた。どう救えばいいのか分からないほど、辛そうな人で溢れていた。


 みんなの苦しそうな姿を見るたびに、「私はなぜこんな進化をして生まれてきたのに、何もできないんだろう」という無力感に苛まれた。

 そんなことを考えているうちに、私は驚くほど無気力な人間になっていた。料理も勉強も手がつかず、家事も放棄する。けれど趣味にだけは没頭し、他人の顔色をうかがう承認欲求モンスター。

 自分でも嫌気がさすような最低の人間として、私は中学三年生になっていた。



 私は如何して他人を助けているんだろう。最近よく浮かぶその疑問に漸く答えが出た。


『もう、あいつが本当にうざくて!』


 スマホに届く友達からの連絡に、「そっかぁ」「それは酷いね」と返してやり過ごす。時には愚痴だけでなく、真剣な相談に乗ることもあった。

 上手く立ち回って、共感して、「辛かったね」と寄り添う。そうやってみんなを助けようとしていた。

 そんな私にも、当然「生活」というものがある。……けれど、その面で私は救いようのないダメ人間だった。


「綺羽!アンタ、また洗濯物をカゴに入れずになにしてんねん!」

「あー、今やりまーす」


 母の怒号が飛んでくる。めんどくさいなぁと思いながら重い腰を上げた。手には当然のようにスマホが握られている。それを見た母が、また火がついたように文句を重ねる。

 あまりに鬱陶しい。これ以上、私に話しかけないでほしい。母の声を聞くことすら嫌になり、イヤホンの音量を最大まで上げた。それでも、その金切り声は容赦なく音楽を貫通してくるけれど。


 私は、いわゆるスマホ依存症……それも「ネッ友依存」に近い状態だった。

 スマホを覗いている間だけは、現実を忘れられた。勉強も、親の顔も、やらなきゃいけない義務のすべて。ダメだと分かっていても、指が止まらない。正直、こうなってしまった人はもう仕方ないと思う。そうするしか、自分を保つ方法がなかったんでしょ?


 スマホに溺れた理由はいくらでもある。大好きな小説が書けて、動画も作れて、絵も描ける。そして、何より友達と繋がれる。これほど楽しい世界が他にあるだろうか。


「綺羽! アンタ、またお弁当箱出してない!」

「……」


 返事をすることさえ疎ましい。今度は無視を決め込んだ。


「綺羽! 返事しなさいって言っとるやろ!?」

「んぇ、あー、……はいはい」


 こんな毎日が続く。面白いよね、このお母さん一日中ずーっと怒ってる。正直頭がおかしいとしか言いようがないと思う。

 不意に、手のひらでスマホが震えた。ネッ友とのグループチャット。そこにはリアルでの愚痴が掃き溜めのように書き込まれていた。

 私はすぐに返信し、親身になって相談に乗った。けれど、そこで返ってきたのは、予想外の一言だった。


『……ねえ、いろちゃんにとって、私ってなんなの?』


 私は迷わず『大切な友達だよ』と答えた。

 けれど、画面の向こうの相手は『それで俺ら助けようとしてるわけ?ただの偽善じゃん』と私を蔑んだ。

 ……確かにそうかもな。

 そう思いながら、私は文字を打つ手を止めた。途中まで打ちかけていた『確かにそうやんやば(笑)』という自虐的な言葉を消す。なんとなく、もう何も言いたくなくなった。


『え、なに? 急に黙るじゃん。おーい、かまってちゃーん?』


 その文字を目にした瞬間、私はようやくスマホから目を離した。

 どうして、こんなことを言われなきゃいけないんだろう。私はただ、みんなの力になりたかっただけなのに。……私の言葉は、誰一人として救えていなかったんだ。

 そう悟った瞬間、私の中で、ぷつりと何かが切れた。


 そうか、私なんかじゃ人は助けられないんや。なんなら邪魔でしかない。それならもう、いいや。


 私はその日から、父や母にとっての『いい子』を演じるようになった。そして同時に、人を助けるということを諦めた。


 そんな私が高校三年生になった頃、ご都合主義のようなタイミングで異世界へ転移した。

 そこで私は、元の世界の父と母に性格まで寸分狂わずそっくりな夫婦に拾われ、養子として生きることになった。図書館を管理する二人は、静謐なその場所でさえ私に怒りをぶつけてくる。私は逃げるように「向かいのマンションに引っ越す」と伝え、一人暮らしを始めた。


 大家さんに「なるべく人が少ない部屋を」と頼み、あてがわれたのは一軒家かと見紛うほど広い部屋。静寂が痛いほどの空間で、私は一人、どう暮らせというのか。

 流石に寂しさに耐えかねた私は、そこでようやく「友達」を作ろうと動き出した。

 いや、それだけじゃない。この少し面白そうな世界に、どうすれば自分という人間がついていけるか、必死に居場所を探していたんだと思う。


 私は、手先だけは器用だった。この世界の『能力』という厨二病を具現化したような力に憧れ、自作のマジックアイテムを「私の能力だ」と偽って振る舞った。

 この力があれば、今度こそ前の世界で救えなかったものを、救えるようになるんじゃないか。

 そんな淡い期待を抱いて、小説家志望の子、作曲家の子、ガリ勉の子……図書館で見かけた多くの人に、焦るように声をかけ続けた。

 ……けれど、大抵は気味悪がられるだけだった。


「今日で最後にしよう」


 そう決めた日、私は数人に本の位置を教えたり荷物を持ったりして、細やかな「人助け」を最後にした。

 そこで偶然仲良くなれたのが、みおちゃんだった。気さくで、私の差し出した手を拒まない人。

 また焦りが出てしまった私は、出会ったばかりの彼女を咄嗟に家に誘った。誘拐やナンパを疑いもせずについてきてくれる彼女を見て、「危ないな」と思う反面その性格に心から感謝してしまった。


 みおちゃんと仲良くなってから、私はあまり図書館に寄らなくなった。

 また誰かに気味悪がられるのが怖くて、あれほど執着していた人助けも最近はできていない。

 ……そういえば、私の住むマンションは個性的な人が多いらしい。図書館にも時々、マンションから変な子が迷い込んでくると聞く。

 みおちゃんと出会った日も、確かにそんな「変わった人」が多い日だった気がする。



「…(頭痛がすごい…)」


 色んな人と少しずつ関わるようになってからずっとこうだった。私が喋りすぎてるのか?それかまた別の要因…。


「…あ、綺羽さんじゃないですか、こんなところで何してるんです?」


 そう聞いてきたのはここの住人。


「…気にせんといて、別になんもしてないから」

「そっか」


 …過去じゃなくて今は、どちらかと言うと原因不明の体調不良に悩まされている。

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