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わたしは平穏に暮らしたいだけなのに、頭のおかしい幼馴染がすべてをぶち壊していく話  作者: 月星 星成


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4/14

意味不明

「席についてくださーい」


 教壇に立った担任の声で、立ち上げっていたクラスメイト達は自分の席に戻って行った。

 朝比奈と成瀬と如月だ。朔月や如月さんとの席は離れていて、これでわたしの求めていた平穏が一時的にやってくる。本当に静かで快適だ。この時間が永遠に続けばいいのに。


(そんなことはどうでもいいや、本を読もう)

 

 本は良い。本を読んでいる時だけは、外界に触れる必要が無く、全て本の中の世界で完結する。だからこそ、わたしの意志は誰にも邪魔をされることは無く、平穏が訪れてくれるのだ。

 どこから「本を読まないでくださーい」と聞こえるが、聞こえないことにしたら問題ない。


「今日から一年間、この一年三組の担任をする有馬祐樹です。よろしくお願いします」


 柔らかい声が教室に広がる。クラスメイト達は拍手をして、わたしたちの担任を祝福する。

 けれど、わたしは本から目を離さない。話は聞いた。だから、そちらに目を向ける理由なんて無く、わたしはわたしの世界に閉じこもる。


「えっと、それなら自己紹介から始めましょうか。出席番号順に始めますので、朝比奈さんから」


 担任の先生がそう言って、自己紹介が始まる。本当にめんどくさいし、ろくなことにならないだろう。

 そもそも、朝比奈という苗字がおかしい、何故、あんな奴が「あ」から始まる苗字なのだろうか。朔月のような奴は「わ」から始まるべきだろう。


(……はぁ。どうせまた騒ぐんだろうな)

 

 名前を呼ばれた瞬間、本を閉じて深呼吸する覚悟をした。

 小学四年生からの付き合いだ。碌な結末にならないことだけは理解している。


 朔月がガタリと音を立てて、椅子から立ち上がる。


「アハハ! みんな、はじめまして。いや、入学式でボクのことは見ていたか。ま、どうでもいいか、そんなこと。ボクの名前は朝比奈朔月。朝比奈でも、朔月でも、比奈朔(ひなさつ)でも、なんとでも呼んでいいよ。ボクの名前は重要じゃない。もう一度言おう、ボクの名前は朝比奈朔月、どこにでもいる普通の女子高生だ」


 また頭がおかしいことを言っている。名前が重要ではないと言いながら、名前のことを強調する。矛盾が着飾って歩いてるような奴だ。

 あと、お前のような奴がどこにでもいるわけないだろ。


「好きな物は自由! 嫌いな物は規則や常識! 座右の銘は、汝の欲することを為せ、それが法の全てとならん! ボクはボクであり続けることが、何よりも大切なことなんだ。――以上、これにて終了。もう言葉は、いらないよね?」


 そうして、朔月は言いたいことを言いたいだけいって、自己紹介を終わらせた。

 凛とした佇まいから放たれた、あまりにも堂々とした宣言に、クラスメイト達はあっけに取られてしまう。次の人はきっと、困っているんだろうな。一番手がこれだったんだ。普通の自己紹介にするのか、自分もふざけるべきなのか迷っているはずだ。

 

「えっと、あたしは――」


 次の人が自己紹介を始める。けれど、その声には明らかに迷いが混ざっていた。ご愁傷様。


(ま、わたしには関係ないことだけど)


 わたしは、他人と関わるつもりが無い。だから、この自己紹介の最中も本を読んでいるし、まともな自己紹介をするつもりもない。

 こんな生き方が一番楽だ。一人で、誰にも邪魔をされることがないんだから。


「次は、私かな? 私の名前は如月綺羅。朝比奈ちゃんからは、きらきらちゃんって呼ばれてるよ。たくさんの人と友達になりたいから、どんどん声を掛けてほしいの」


 如月さんも、自己紹介をしている。相変わらず柔らかい声で、空気を和ませながら話していた。

 朔月とは対照的に、関わりやすそうな印象を周りに与え、クラスの中で頼ることが出来る人物だと、誰が見てもそう思うだろう。


 また、朔月の名前を出したのも得策だ。あれほどの問題児と話せるという実績があるだけで、クラスの誰かが困ったときに、如月さんに相談する可能性が一気に高くなる。

 それは、わたしにとってもありがたいことだ。今までは、朔月の後始末がわたしに回って来ていた。でも、今年こそはわたしじゃなくて他の人が後始末をしてくれるかもしれない。本当に、()()()()()()|。


「……さん……るせさん」


 一応、知っている人物――朔月と如月さんの自己紹介は聞いた。これで文句を言われる筋合いはない。

 前に一度「友達なのに無視するのはひどい」とか訳の分からない難癖をつけられたことがある。それから、わたしは学んだんだ。まぁ、わたしは友達だと思っていなかったけど。


 そんな時、後ろから誰かが背中をさわった。


「さっきから何ですか?」


 振り返ると、後ろの席の気弱そうな女の子が、指をそっと引っ込めながら小さく首をすくめた。短めの前髪に、黒色の髪。声も小さく、いかにも、話しかけるのが苦手ですという雰囲気をまとっている。

 

「あっ……ご、ごめんなさい……。あの、その……呼んでたんだけど……気づかなくて……」

「いいですよ。それより、要件は何ですか?」


 わたしが尋ねると、彼女は恐る恐る言った。


「あの……自己紹介の……出番が……」

「ほんとだ。教えてくださり、ありがとうございます」


 どうやら、読書に集中している間に、いつの間にかわたしの出番になっていたらしい。本当にめんどくさい。自己紹介なんて、他人と関わりたいと思っている人だけですればいいことでしょ。わたしを巻き込まないで。


 とは言え、そんな言い訳が通用しないことも知っている。だから、わたしは嫌々立ち上がり、クラスメイトたちを見渡した。

 クラスメイト達は、わたしのことを変な人でも見るかのように、警戒と興味が混ざった目でじっと見てくる。それは、自分の番が来るまで、ずっと本を読んでいたこともあるし、先生が来る前までは朔月と関わっていたことも理由の一つとしてあるだろう。


 やめてほしい。わたしはわたしだ。朔月と関わっていたという事実だけで、わたしにラベルを貼りつけるな。


「名前、成瀬日和」


 それだけを言って、わたしは席に座った。とても短い自己紹介に、クラスメイト達は動揺の声もあげる。それは先生も同じだったようで、「もうちょっと話せないかな?」と言ってきた。

 でも、これだけでいい。自己紹介とは自分を他人に教えることなんだ。名前だけを伝えれば、それだけでわたしがどのような人間なのか分かるだろう。


「えっと、それなら……次の人」

「は、はい」


 そうして、わたしの自己紹介は終わり、クラスの視線がすぐに別の誰かへ移っていく。それでいい、わたしのことなんて誰も気にせず、ずっと一人でいることが理想なんだ。


「ぼ、僕は……えっと、宮城結(みやぎ ゆう)と言います。あの……好きな物は、植物とか、昆虫とかで……これから、よろしくお願いします」


 わたしの後ろに座っている宮城という人が自己紹介をした。わたしは本を読んでいるため、後ろの宮城さんがどのようにして自己紹介をしたのか見ることが出来なかったのだが、声の震え具合と、言葉を選ぶ間の多さで、どんな雰囲気の子なのかは大体分かる。


「ね、昆虫だって」

「へんなの、女子なのに」


 その自己紹介を聞いて、周りのクラスメイト達は小さな声でひそひそと囁き合う。悪意があるわけではない。ただ、興味本位で、思ったことをそのまま口にしているだけだ。けれど、そういう無自覚な言葉ほど、人を傷つける。

 担任の先生は、「他人の好きな物を悪く言わないように」と注意しているが、宮城のような人には、そのような言葉が一番効くのだ。優しい先生ではあるが、そういう所が分かっていない。


 でも、わたしは何もしなかった。

 わたしには、周りのことを注意する理由も無く、彼女のことを助ける理由もない。だから、わたしの意識はずっと本の中にあり、ページをめくる指だけが静かに動いていた。


 冷たい? それでいい、わたしはそういう人なんだ。仕方がない。


 そうして、自己紹介は終わり、担任の先生がこれからの学校生活について説明し始める。

 身体測定や成績の付け方など、聞いたほうが良いことばかりで、この時だけはわたしは真剣に聞こうと思った。まぁ、本から視線を逸らすことはしなかったけど。


 でも、しっかりと耳は傾けているし、最悪朔月に聞いとけば教えてくれる。……いや、朔月は教えてくれないかもしれないから、如月さんに聞いておこう。朔月は、普通に嘘を言ってくるから。



 「これで、説明を終わります。私は一度職員室に戻りますので、その間は自由時間とします。自由時間の後は、委員長などを決めますので、やりたいものを考えてください」

 

 先生がそう言って教室を出ていくと、扉が閉まると同時に教室の空気が一気に緩んだ。話し声があちこちから漏れ、数人が席を立ち、机の間を歩き始める。

 

(自由時間ね……本を読む時間ってことだよね)

 

 わたしは当然のように、読書に集中しようとした。ようやく静かに読書できる瞬間が来たのだ。誰にも邪魔されず、外界を閉ざして、物語だけに浸れる――そんな幸福な時間。


 ……のはずだった。


「あ、あの……」


 背後から声を掛けられる。それは、朔月の声でも、如月さんの声でも無かった。


「なんですか? 宮城さん」

「あっ……名前覚えてくれていたんですね……。あ、す、すみません、関係ない話をして……」

「そんなことより、要件は何ですか?」


 わたしは、他人と距離を取るため、基本的に敬語を使っている。同級生でも年下でも関係ない。そのおかげで、必要以上に近づいてくる人はほとんどいない。例外は、朔月のような身内と、如月さんのように妙なことを言ってくる人くらいだ。

 だから、宮城さんに対しても、この口調を変えるつもりはない。


「あ、あの……」

「なんですか?」


  宮城さんは、両手をぎゅっと胸の前で握りしめ、小さく震えていた。 口を開きかけては閉じ、開きかけては閉じ……まるで故障した機械のように、言葉が出てこない。

 でも、彼女は勇気を出して、言葉を出した。


「し、弟子にしてください!」


 ……


 ……


 ……


「はぁ!?」


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