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妖の君へ  作者: あえら
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物語の始まりと回顧-1

 父の名は藤吉郎といい、村では随一の腕を持つ狩人だった。

 母は千代といい、私を産んだのち、肥立ちが悪く、床にふすようになった。

 母が寝込みがちになってからも、父は狩りに出た。母に精のあるものを食べさせたかったからだ。


 藤吉郎の捕らえた獣はどれも状態がよく、肉は食用に、毛皮は高値で売買された。しかし、村には医者などおらず、いくら金があっても、十里(約40km)も離れた村へ訪れてくれる医者などいなかった。毛皮を売りに山を下り、そこで医者に薬を処方してもらうぐらいしか、藤吉郎にできることはなかった。


 ある日、いつもと同じように狩りに出た藤吉郎は、いつもと違うモノと遭遇した。

 

 人だ。それも若い、女だ。赤子を連れている。


 よろよろと歩く姿は、今にも獣に襲われてしまいそうで、藤吉郎は迷わず保護することにした。


 その女性の名は絹といった。

 絹は平身低頭に、藤吉郎にお礼をしたが、どこから来たのか、何故、何から逃げるようにして来たのか、何も経緯を語ろうとはしなかった。ただ、彼女の抱える赤子の瞳が青みがかっていたのを見て、藤吉郎は深く訊ねるのを辞め、しばらく我が家に留まるように勧めた。

 彼女は絶えず頭を下げ続け、お礼を言っていたそうだ。そして、泊めてもらう代わりに乳飲み子である藤吉郎の子の世話を申し出たのだ。

 それは願ってもない、と千代は喜んだ。

「私はこんな具合いだからね、手伝ってくれるのはこの上なく有難いことだわ。絹さんは菩薩様の生まれ変わりなのだろう」

千代が絹の手を握りそう言うと、絹は慌てて首を振った。

「いえいえ、そんな、わたくしはできることがそのくらいしか…」

そう言った先は続かなかった。千代は絹の手を握ったまま、じっと絹の顔を見つめ、微笑んだ。絹はそのまま小さく震えながら涙を零した。彼女の纏っていた緊張は夏の夜の帳に解けていった。


話の間も絹は自分の息子と同じ幼齢の私を絶えず気にかけていたそうだ。心から心配してくれていたのだろう。

五人のちぐはぐのようであたたかな生活が始まったのだ。

藤吉郎と千代の子が私こと影山慎久郎で、絹の子がしおんである。

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