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妖の君へ  作者: あえら
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君との再開-2

 宿に入ってすぐ右手に待合があり、私はそこに座らされた。こんな田舎には珍しい、板の間造りで長椅子が三脚、薪ストーブを囲うような形で置かれている。

 私はそのうちの一脚に腰を下ろし、項垂れるように身体を曲げ、大きく息をついた。

 薪ストーブからじんわりと熱を感じ、かじかんだ私の足先を温める。

 足を見ると、白い足袋には泥が付き、足首の辺りまで茶色く染めていた。目線を横に移すと、私が歩いたところには、しっかりと泥の足跡ができてしまっている。

 女将には後で謝っておこう。

 更に顔を上げると、目の前には姿見が立てかけてあり、座り込んだ汚らしい男を写し出していた。私なのだが。走っている間に振り乱した髪は無造作で、着物の前身頃からは股引を履いた足がはみ出している。前身頃も泥まみれだ。


 その姿を見て、落ち着いていた笑いがまた込み上げてくる。今度は本当に可笑しいのだ。目の前のみっともない自身の姿が。

 ひとしきり笑った後、女将が盆に乗せた湯のみを持ってきた。

「影山様、お茶をお持ちしました。お加減はいかがですか?」

 盆から湯のみを取り上げると、女将はその盆を胸に当て抱え込むようにした。

 受け取った湯のみをぐっとあおる。茶葉の香りが鼻を通り、熱いものが喉を通っていく。小さく息をついて、私はようやく口を開いた。

「女将、ありがとうございます。ようやっと生きた心地がいたします」

 小さく笑みを浮かべると、安堵したのか女将は憂い顔をふっと緩めた。

 ああ、やはり美しい方は笑っている方がいい。

「それはそれは、ようございました。お風呂のお時間ではございませんが、ご入浴されてはいかがでしょう?替えの浴衣をご用意いたします」

 この女将は本当に気が利く。いや、私が余りにも正気を失くしているように見えるのか。冷えきった身体を温めるのは、薪ストーブでは少々心許ない。女将の好意に甘えさせてもらおう。

「かたじけない。そうさせていただきます」

「承知いたしました。お部屋に替えの浴衣をお持ちいたします。どうぞご入浴の準備をなさってください」

 私は小さく頷き、立ち上がった。震えこそもう無いが、まだ宙に浮いたような感覚ではある。また女将を心配させてしまわないよう、気取られないようにしっかりと歩く。歩き方を思い出すかのように一歩一歩、ゆっくりと。

 女将に手ぬぐいを返し、手ぬぐいと床を汚してしまったことを謝罪して、私は部屋へ向かった。

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