君との再開-1
私は足早に木々の間をくぐり抜け、宿場へと向かっていた。
木に覆われて日の当たらない地面はぬかるみ、草履に泥じみを作っていたが、そんなことに気を遣る余裕はなかった。とにかく、早く、一刻も早く、この場から離れてしまいたかった。
早足を更に速め、小走り、駆け足と、徐々に速度をあげていく。
なぜ、なぜ、あの子が。
私の頭の中はそれでいっぱいになっている。息があがっているのは、走っているからか、極度の緊張からか。半里(約2km)ほどの距離が、果てしなく遠く感じていた。
無事に宿へ辿り着いたときには、肩で息をしていた程だ。
「まあまあ、影山様、いかがなされたのです?」
そう声をかけてきたのは、朝の掃除に表へ出てきたであろう宿の女将だ。私の様子を案じてか、駆け寄って顔を覗き込んできた。三十代中頃の女将は化粧っ気はないが美しく、こんな山中の小さな宿に置いておくには勿体ないほどだ。その美しい顔を憂慮に歪めさせてしまった。
私はというと、宿に辿り着くや、足が棒のように動かなくなり、立ち尽くすばかりだった。
「影山様、お顔色が優れません。まるで妖にでも出くわしたかのようですわ。何がございましたの?」
女将は竹ぼうきを自身の肩に立てかけ、懐から手ぬぐいを取り出し、私の左手に握らせた。これで汗を拭え、ということだ。
妖。その言葉を聞いて、手ぬぐいを握ったまま膝から崩れ落ちた。そして乾いた笑いが溢れる。
「はは…っ、そうか、妖…。ははは…!」
何が可笑しいのか、笑いが止まらなかった。受け取った手ぬぐいで顔を覆い、目頭を強く押さえた。涙が溢れてきた。安堵からか、恐怖からか、生理的なものか分からないが、次から次へと涙が溢れる。
笑いながら肩を震わせ涙を零す私の背を擦り、女将は優しく声をかける。
「さあ、中へ。昼は暖かくなったとはいえ、この時間はまだ冷えます。温かいお茶をお淹れしますね」
その声に縋るように、私はずるずると身体を引き摺るように宿の中へ入った。その間も、乾いた笑いと涙は止まらなかった。
妖。否、あれはあの子だ。
私の心の澱になっているあの子だ。
私が、私の手で、殺めた、あの子だ。
あのときのままの姿で。
初めまして。
のんびりと書かせていただきます。
どうぞお付き合いください。