第三話 仲間たちと、もう一人の幽霊!?
私立歌川雲雀高等学校の旧校舎。埃っぽい理科室に、ギターの弦を弾く音、ドラムスティックがシンバルを叩く音、そして、新しいベースの音が響く。有坂雪巴と巴夏、新しく仲間になった清水葵と佐々木陽菜の4人は、初めての本格的な音合わせを始めていた。
「じゃあ、この前雪が作ったメロディに合わせて、適当に弾いてみようか」
巴夏がそう言って、ギターでメロディを奏でる。雪巴はそれを追いかけるように、マイクを通して歌い始めた。
「雪、もう少し音量上げて! ベースに負けてるぞ!」
陽菜は自分のベースラインに夢中で、雪巴の歌声が聞こえていない。葵はドラムでリズムを刻むが、どこか遠慮がちだ。
「葵、もっと強く叩いて大丈夫! 遠慮しないで!」
雪巴がそう言うと、葵は申し訳なさそうに頭を下げた。陽菜が楽しそうにベースを弾いている横で、巴夏はクールにギターを奏でながら、それぞれの音のバランスを冷静に調整している。
「みんな、一回休憩しようか」
雪巴の声で、4人はそれぞれの楽器を置いた。初めての音合わせは、思った以上にバラバラだった。
「なんか、全然まとまらないね……」
雪巴がため息をつくと、陽菜が笑いながら言った。
「当たり前だろ! 結成したばかりなんだから! でも、そういう時間も楽しいんだよな!」
陽菜のその言葉に、葵も少しだけ笑顔を見せた。
その時、隣の理科室から、再び謎の音が聞こえてきた。
「カコン……カコン……」
それは、まるで何かが壁に規則的にぶつかるような、不気味な音だった。
「ほら来た! 今度は音だ! これ絶対幽霊の仕業だよ!」
陽菜が目を輝かせ、興奮した様子で立ち上がった。
「いや、でも、前回もガラケーの着信音だったし……」
葵は顔を青ざめさせ、恐る恐る陽菜に尋ねた。
「違うって! これは明らかに壁に何かをぶつけてる音だ! 幽霊、私たちを追い出そうとしてるんだ!」
「もしかして、前回見つけた人体模型が、動いてるのかな?」
雪巴がそう言って、少しだけ楽しそうに笑った。巴夏はクールな表情のまま、音のする方をじっと見つめている。
「よし、こうなったら、今度こそ真相を確かめに行くぞ!」
陽菜がそう言って、隣の理科室の扉に近づいていく。葵はしぶしぶ、彼女の後を追った。雪巴と巴夏も、面白そうについていく。
四人が隣の理科室に入ると、埃っぽい空気と、古びた道具の匂いが鼻をついた。音は、窓の近くにある棚の奥から聞こえてくる。陽菜が棚の扉を勢いよく開けると、そこにあったのは、埃をかぶった古い換気扇だった。
その換気扇の羽が、外から入ってくる風を受けて、ゆっくりと回っている。その羽が、棚の横にある小さな壁に触れるたびに、「カコン」という音が鳴っていたのだ。
「なんだ、換気扇か……」
陽菜はがっかりして、肩を落とした。
「よかった……本当に幽霊じゃなくて……」
葵は心底安堵したように、胸をなでおろした。
「ふふっ、陽菜、残念だったね」
雪巴はそう言って、陽菜の肩をポンと叩いた。
「まさか、換気扇の音だったとはな」
巴夏も、少しだけ口元を緩ませていた。
理科室でのホラー体験(?)を終え、再び部室に戻ってきた四人。時計を見ると、もう練習を終える時間になっていた。
「今日は、みんな音を出すことに慣れるのが目標だったから、これで十分だね」
雪巴がそう言うと、巴夏がそれに続く。
「次回は、それぞれのパートを合わせて、一つの曲を完成させる練習をしよう。学園祭まで時間はあまりないからな」
「うん! 頑張ろう!」
葵と陽菜は、元気よく返事をした。
「それじゃ、また明日ね!」
四人はそれぞれの楽器を持って、部室を後にする。勝屋伊吹駅へ向かう道すがら、雪巴は「みんなで、どんな曲を作ろうかな」とワクワクしていた。
今はまだバラバラな4人の音でも、いつかきっと、一つの美しいハーモニーを奏でることができるはずだ。これは、新しい仲間と歩み始める、4人の物語の始まりだった。




