第二話 清水葵と佐々木陽菜と謎のメロディ
旧校舎の理科室での部室掃除を終えて数日後、有坂雪巴と巴夏は、新校舎の学食にいた。
「ねえ、巴夏、軽音サークルって私たち二人だけなのかな?」
「まあ、まだ設立したばかりだし、仕方ないだろ」
雪巴は期間限定メニューのメロンスムージーを飲みながら、不安そうに眉をひそめた。お嬢様校である私立歌川雲雀高等学校で、ロックバンドのメンバーを見つけるのは至難の業だ。
その時、二人の前に、一人の生徒がはにかみながら立っていた。彼女の制服のスカートには、小さな土の染みがついている。
「あの……もしかして、軽音サークルを立ち上げた、有坂さんですか?」
彼女は、どこか自信なさげに尋ねた。
「はい! 私が有坂雪巴です! こっちは双子の姉の巴夏!」
雪巴が元気よく返事をすると、彼女はホッとしたように微笑んだ。
「よかった……私、同じクラスの清水葵です。実は、ずっとバンドをやってみたくて……ドラム、少しだけ叩けるんです」
「えっ、本当!?」
雪巴は目を輝かせた。ドラマーが見つかるなんて、思ってもみなかったからだ。
二人が清水葵と話していると、さらに一人の生徒が声をかけてきた。
「え、何このメンツ? バンド結成会?」
声をかけてきたのは、少しボーイッシュな雰囲気の生徒、佐々木陽菜だ。彼女は学食のトレイを片手に、二人の前に立つ。
「私、佐々木陽菜。よろしく。ベース弾けるから、仲間に入れてくんない?」
彼女はまるで、昔からの友達であるかのように話しかけてきた。陽菜は、少し不良っぽい雰囲気で、学内でも有名な「ちょっと変わった子」だった。
こうして、雪巴(ボーカル・作詞)、巴夏(ギター・作曲)、葵、陽菜の4人で軽音サークルが本格的に始動した。放課後、4人は旧校舎の理科室に集まり、機材のセッティングを始めた。
「それにしても、この部屋、やっぱりなんか薄暗いよね……」
葵がそう呟く。
「大丈夫だよ! 私たちが音楽で明るくしちゃおう!」
雪巴がそう言って、左手でギターをかき鳴らした。
その時、隣の誰も使っていないはずの理科室から、奇妙な音が聞こえてきた。
「…タラリラリラリ……タラリラリラリ……」
それは、まるで古いオルゴールが奏でるような、不気味で哀しいメロディだった。
「ひゃっ! 今の何!?」
葵が悲鳴をあげ、陽菜の背中に隠れた。
「おいおい、まさか本当に幽霊の仕業か!?」
陽菜は目を輝かせ、ワクワクした様子で隣の理科室の扉に近づいていく。
「巴夏、どうする?」
雪巴が尋ねると、巴夏は冷静に答えた。
「葵の言う通り、音が聞こえる。確認するしかない」
巴夏がそう言って、誰もいないはずの隣の理科室の扉をそっと開けた。
音は、部屋の奥にある、埃まみれの棚から聞こえてくる。4人が棚に近づくと、メロディはさらに大きくなった。
陽菜が棚の扉を開けると、中から聞こえてきたのは、古びたガラケーの着信音だった。振動で棚の中でカタカタと音を立てていたのだ。
「なんだ、幽霊じゃなかったのか……つまんねーの」
陽菜はがっかりしたように呟く。
「よかったー!」
葵は心底ホッとしたように安堵の息を漏らした。
「昔、この部屋を使っていた誰かが忘れていったんだろうな」
巴夏がそう言って、ガラケーを手に取った。液晶画面には、知らない番号からの着信履歴がびっしりと並んでいる。
「じゃあ、気を取り直して、練習始めよう!」
雪巴がそう言って、4人はそれぞれの楽器を構えた。
「これからよろしくね!」
陽菜、葵、そして雪巴と巴夏。4人の音が、旧校舎に鳴り響く。
ここから、彼女たちの物語が、本当に始まるのだ。




