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三十一

 十二月の二十二日。月初めに風邪を引いたこと以外、トラブルなどが起こる事も無く僕達は終業式を迎えていた。この日は終業式を終えた後、少し長いホームルームをして解散である。

 午前中に帰れることなど、そう多いことでも無い。その為、僕は内心少しだけ浮足立っていた。

「やっと二学期も終わりかぁ。長いようで、思い返せばあっという間だったよな……。」

廊下を歩きつつ、武石はそう呟く。

「感傷に浸るのも、良いけど、課題。ちゃんとやらないと……。」

永江さんが武石の隣からそう言うと、武石は苦笑いを浮かべた。

「これは手厳しいな……。まぁ、いざとなったら手伝ってくれるだろう。なぁ親友。」

「僕に話しを振らないでくれよ。そんな事より、冬休みも集まるんでしょ。」

「それは勿論。わたし達は青春真っただ中なんだから、長期休みはお友達と遊ばないと。」

僕の隣から、七咲さんが口を挟む。健全な青春を謳歌できているかは分からないが、彼女の意見には一理あるだろう。

 僕達四人は現在、ホームルームを終えて教室を出た所である。時刻はまだ午前十一時頃だが、廊下は信徒静まり返っている。

 僕達が教室の施錠をしている間に他の生徒は各々自分を待つ場所へと言ってしまったのだろう。

「ねぇねぇ、昼間なのに人の居ない教室ってなんだかいい雰囲気があるよねぇ。」

七咲さんは見慣れた筈の廊下をキョロキョロと見回しながら僕に話し掛けてくる。

「良い雰囲気って、言わんとすることは分かるけど……。」

彼女の言う通り、人の居ない廊下を歩いていると、少しセンチメンタルな気分になる。

「エッチなことしていたらすぐに見つかっちゃいそうだよね。」

「……。」

センチメンタルな気分が台無しである。例えそう言う場面に出くわしたとして、僕ならば見て見ぬ振りをしてしまうだろう。

 僕達が話しながら歩いていると、職員室の前に見知った生徒を見つけた。

「あれ、樹じゃない。七咲ちゃんも永江ちゃんも、ついでに武石君もこんにちは。」

京香は僕達を見るなり、そう言って歩み寄って来た。

「夏妃ちゃん、こんにちは。」

「あ、あの、こんに、ちは……。」

花の女子高校生三人は、手を取り合ってはしゃいでいる。そんな様子を見ながら、武石がポツリと呟いた。

「俺はついでか……。」

「幼馴染じゃなければ僕だって次いでだったさ……。」

僕は彼を背中に優しく触れてそう慰める。

「あ、三人が話している間に教室の鍵を返してくるよ。」

「おう、すまんな。」

僕は教室の鍵を手に持ち、職員室の扉を叩く。強化も教室の鍵を返しに来ていたのだろうか。偶然だが、帰り道で独りになる事は無さそうだ。

 結局五人で固まって校門まで歩いた。道中話した内容は取り留めのない事であり、ここでわざわざ書き記す事でも無いだろう。

「それじゃあ、私はこっちだから。」

「俺と永江はこっち側だな。じゃあ、またな。」

「うん。また今度……。」

手を振りつつ去って行く三人の背を見送り、僕と京香も帰路に着く。

 通学路をゆっくり歩いている途中、強化がおもむろに口を開いた。

「そう言えばさ……。」

彼女の声色からは、少しだけ緊張の色が感じられた。

「明後日、何か予定が入ってたりする?」

明後日と言えば、十二月の二十四日。世間ではクリスマス・イブと呼ばれている日だ。

「うん。その日は一日中暇しているよ。」

僕は歩みを止めずにそう答えた。元々クラスの親友四人で、二十四日に集まろうかとも話ていた。しかし、僕は兎も角他の三人は異性からクリスマスデートのお誘いがあるかも知れない。そう考えて、クリスマス・イブは各々予定を開けておくことのしたのだ。

 その代わりと言っては何だが、二十六日に集まって売れ残ったケーキやらチキンを買い漁ろうと言う話になっていた。

「予定空いているんだ。それならさ……。」

彼女は少し身体をモジモジとさせながら、わざとらしいおどけた口調で口を開いた。

「あのさ……デート、しない?ボクと……さ。」

京香の顔は真っ赤に染まっていた。まだ昼前であり、彼女の紅潮を夕焼けの所為にはできない。

 彼女は真剣な表情をしている。僕も、いつもの様に軽い気持ちで受け答えしてはいけないだろう。

「……。」

「……。」

沈黙が二人の間に流れる。言葉を選び、決意を固める必要があったものの、僕の答えは決まっていた。

「良いよ。」

「えっ?」

京香は驚いた様に目を見開く。そんな彼女に、僕は更に言葉を続ける。

「行こうよ、デート。クリスマスに、少し特別な経験だね。」

「う、うん。楽しみだね。」

京香は眩しい笑みを浮かべて、歩く足を早めた。

「……ありがとう。」

消え入りそうなほど小さな彼女の呟きを、僕は聞こえないフリをして後を追った。

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