三十
土曜日の朝の事。僕は散歩の途中で、偶然にも武石と出くわした。何か予定があるワケでもなかった僕は、彼の誘われて十数分の道のりを進んでいた。
既に商店街を抜けて、住宅地も通り過ぎようとしている。
「ねぇ武石。」
「なんだ?」
「どこまで歩くつもり?」
「もう着くよ。っと、着いたな。ここだよ。」
武石はそう言うと、足を止めて道の隅にある小さな建物を指差した。
彼が指差したのはこじんまりとした店。看板には大きな文字で『武石模型店』と書いてある。看板の日焼け具合から見るに、昔ながらの玩具屋なのだろうか。しかし……。
「あのさ、看板に書いてある武石って……。」
「あぁ、お察しの通り俺の実家だ。」
僕の言葉に被せるように、武石はそう言った。
改めて僕は、親友の実家である模型店をまじまじと見つめる。看板からはやはり少し古い印象を受けるが、入口や店の壁などは新築の様に綺麗だ。日頃から清掃が行き届いているのだろう。武石の両親だろうか、余程几帳面な人なのだと思う。
「外から見てばかりもなんだから、中に入ろうぜ。」
武石は僕の肩を軽く叩き、店の扉を開いた。
「あ、ちょっと待ってよ……。」
僕は慌てて彼の後に続いて入店する。
店内は空調が聞いており、ほのかに暖かい。商品を並べる棚が両側の壁と中に二列取り付けられている。棚に並んでいるのは、僕でも名前を知っている有名なアニメに登場するロボットのプラモデル。それだけではなく、戦車や戦艦、日本の名城と書かれたプラモデルの箱が所狭しと並んでいる。
パッケージを見る限りかなり古い物もあるようだが、埃っぽさは全くない。店の外同様、清掃が行き届いている証拠だろう。
「いいお店だね。」
「そうだろう。俺が言うのも何だが、小さいが立派な店なんだ。」
そんなことを話していると、店の奥から人影が出てきた。
「おやおや、大志。もう帰って来たのかい?横に居るのは、お友達かのう。」。
僕達の前に現れたのは、昔風の話し方に似合わない、若い男性だった。
背筋がピンと張っていて、武石同様筋肉質な男性だ。肌は日焼けして小麦色に輝いている。慎重は、武石と同じか少し高いくらいだろうか。
「紹介するぜ。この人は俺の親父でこの店の店主だ。」
「初めまして。武石太蔵と申します。息子がいつも、世話になっとります。」
「あ、初めまして。雨空樹と言います。こちらこそ大志君には、いつもお世話に……。」
深々と頭を下げる僕を見て、太蔵さんは穏やかに笑う。
「そうかしこまらんでええよ。ここはただの模型店だ。買うにしても買わんにしても、気楽に見て行ったらええ。」
「ありがとうございます。」
僕が礼を言い頭を下げると、太蔵さんはうんと頷いてくるりと振り返る。
「それじゃあ、面白い物があるかも分からんが、ゆっくりしていきんさい。」
そう言って手をひらひらさせながら、奥の方に引っ込んで行ってしまった。
しんと静まり返った店内で、武石が一歩踏み出す。
「ま、親父もあぁ言っている事だし、適当に見ようぜ。」
「そうだね。こうして模型屋さんを見て回るのは、初めてだからワクワクするよ。」
そう話して、僕は店内を散策する。空母の模型など僕は特に何も思わないが、分かる人には分かる魅力があるのだろう。
僕は屈んで足元の棚に置かれたプラモデルの箱を手に取ってみる。アニメに登場する、有名な敵役のロボットだ。今までちゃんと見たことが無かったが、よく見てみると武骨な格好良さがある。
僕はパッケージの絵を眺めつつ、横に立っている親友に声を掛ける。
「ねぇ、武石。」
「なんだ?」
「やっぱり、小さい頃からプラモデルとか作っていたの?」
「そうだな……。」
彼は棚の上に置かれた大きなサイズのプラモデルを見ながら、口を開く。
「確かに、お前や他のクラスメイトと比べれば。、プラモデルは組んでいた方だな。結構な数組み立てたし、塗装なんかにも少し心得がある。まぁ、好きではあるがそれだけだな。」
「好きなだけって、この店の跡継ぎじゃないの?」
「俺は継がんさ。今大学に行っている姉が、この店を継ぐ予定だよ。」
「お姉さんいたんだ。初耳だよ。」
「言ってなかったかな。人見知りで、模型だけが友達みたいな姉がいるんだよ。」
自分の身内だからか、散々な言い草である。
「でも、大学に行っているってことは、結構頭いいんじゃない?きみのお姉さん。」
「あぁ、机に座っての勉強は得意だったらしい。その能力の一部でも、他人とのコミュニケーションに割り振って欲しかったよ。」
「……。」
武石は深刻そうな顔で溜息を吐く。彼の様子からして、余程深刻なのだろう。人見知り具合は永江さん以上だろうか。
それはそうと、僕は一番メジャーなロボットのプラモデルを手に取り、武石に見せる。
「ここに来たのも何かの縁だし、これを買いたいんだけど良いかな?」
「構わないが、別に気を遣わなくても良いぞ。」
彼の言葉に、僕は首を横に振る。
「実はプラモデルを作ったことが無くてね……。折角だから経験しておきたいんだ。」
「分かった。そう言う事なら、少し割引効かせてやるよ。」
「ありがとう。」
僕は新品のプラモデルをひとつ購入して、家に帰った。思わぬ収穫だったが、いい経験になるに違いない。




