二十九
十二月二週目。世間はすっかりクリスマスムードであり、僕の住む街でも至る所からクリスマスソングが聞こえてくる。童心に帰ると言うのだろうか、この時期は特に何かある訳でもないが無性に浮足立ってしまう。
この日は休日であり、僕はひとりで商店街を散策していた。別段、何か予定がある訳でも無かったが、街の楽しそうな雰囲気を味わおうと思い家を出たワケである。
何処からか聞こえてくる音楽に合わせて、華やかな歌をを口ずさむ。無意識に弾むような足運びになっていた事に気が付き、意識的にゆっくりと歩く。しかし、ひとりで散歩をするのは楽しいが、いささか退屈に感じてきた。普段友人に囲まれた恵まれた境遇に居たので、独りの時の過ごし方が分からなくなってしまっているようだ。何とも情けない話である。
時間を持て余していても何だか勿体無いので、本屋で目ぼしい本でも見つけて帰ってしまおうか。そんなことを考えていると、背後から僕の名前を呼ぶ声がした。
「お、雨空じゃん。こんな所で何してるんだ?」
「別に、予定も無くて暇だったから散歩をしてただけだよ。そっちは?」
「俺も似た様なものだな。テストも終えたし、後は安らかな気持ちで冬休みを待つだけさ。」
武石はそう言うと、自然な動作で肩を組んできた。
「ちなみに、この後何かするつもりだったか?」
「本でも探そうかと考えていたよ。でも現状欲しい本も無いから時間潰しでしかないね。」
「そうか。なら、少し俺に付き合ってくれよ。ひとりで遊んでもつまらんからな。」
彼はそう言うと、白い歯を見せて笑った。
話がまとまったところで、武石は組んでいた肩を話し歩き出した。僕は彼の斜め後ろを着いて行く。
「ところで、クリスマスと年末年始は何か予定が入っているか?」
「どうだろうね。万が一、冬休みに入る前に告白でもされた……。あるいは予定が埋まるのかも。そう言うきみはどうなの?まぁ、聞いてくるってことはそう言うことなんだろうけど。」
「概ね予想通りだな。」
彼は足を止めずに答える。
「予定も無いから、何事も無ければひとりでクリスマスを過ごしてゲームでもして年末年始を過ごすだろうな。お前同様、恋人でもできればカレンダーに丸を付けるんだろうがな。」
「そんなこと言って、告白なんてする予定も無いんでしょ。」
「おう。ついでに言えば、そんな勇気も無いぞ。」
誇らしげにに言うことでもないのだが、彼は腰に手を当て胸を張っている。
ちなみに武石は僕と違って、クラスの女子生徒からは好意的にみられている。快活で人当たりも良く、水泳をしていたので筋肉もついている。京君が持つ爽やかさとはまた違う、魅力的な男だと思っている。そんな彼だからこそこうも女っ気が無いとかえって心配になって来る。
「武石さ、本当は彼女とかいらなかったりする?」
僕がそう言うと、彼は大きく首を横に振る。
「いやいや、勿論彼女が出来たら嬉しいなとは思っているさ。まぁただ、俺には一切の交際経験が無いからな。男女が付き合って、具体的に何が変わるのかも分からないんだよ。」
それに。と、彼は照れくさそうに頭を掻く。
「今は深い間柄の相手をひとり作りよりも、お前達と馬鹿言っていた方が殿しいからな。」
「そんなこと言っていると、最後の最後まで売れ残ってしまうよ。親友。」
「そう言うお前はどう……って、お前にはそんな心配ないか。」
「心配ないってどういうことさ。僕にだって、一応そう言う願望はあるんだよ。」
僕は思わず眉を顰めてしまう。
彼から見た僕は、いったいどういうふうに見えているのだろう。こんな冴えない男の、いったいどこを見て大丈夫だと思ったのか。
「いや、別に変な意味は無いんだ。ただ、あんな美人な幼馴染がいたのなら、恋人なんて作れないよなと思ってな……。」
「……京香とは、別にそう言う関係でもないんだけど。」
「そうなのか。アイツ、美人で人当たりも良いから知らない内に誰かと深い関係になるかも知れないぜ。」
「……。」
京香に対して、友情とは違う感情を抱いているのは否定できない。しかしそれは、幼馴染と言うある種の家族愛の様な感情だと、僕はそう考えている。
そんな彼女が、僕の知らない所で誰かと手を繋ぎ歩いている。そんな場面を想像し、胸にチクリとした痛みが走る。
「そう、なんだ。夏妃の奴も今は恋人なんて作る気配も無いし、そんなに深刻そうな顔をしなくてもいいんじゃないか。」
武石は僕の顔を見ずに、明るい口調でそう話す。
「深刻そうな顔、してたかな……。」
「あぁ。まるで、推理ゲームでバッドエンドに直面したような顔だったぞ。」
彼の気遣いに感謝しつつ、僕は冗談めかして言う。
「……武石も推理ゲームとかするんだね。ゲームとかあまり興味ないかと思っていたよ。」
「こう見えて少し嗜んでたんだよ。アクションやシューティングは下手だったがな。」
「僕もその辺りはあんまり……。ところで、今僕達は何処に向かっているのかな。」
「良い所だよ。とってもな……。」
無意識だろうか、彼の進む足が早くなっていた。僕も歩幅を広くして、彼のペースに合わせて進む。
土曜日。時計の針はまだ午前十時を回った頃だった。




