二十七
十二月の初週。ここ数日で気温は急激に冷え込んでおり、気温の変化で免疫が弱まり風邪などを患う人が多くなっていた。
かく言う僕も、そのひとりである。今朝からどうも、身体がダルく喉も痛かった。もしやと思い熱を測ってみれば、中々の高熱。
幸い期末テストも終わっていたので、大人しく学校を休むことにした。
「しかしまぁ……。」
なんの変哲もない、自室の天井を見上げて僕はひとり呟く。
体調が優れない時は、意味もなく不安になって来るものだ。治らないんじゃないか。悪化するんじゃないか。そんなことばかり考えてしまう。
こう言う時、気心の知れた仲間が隣にいてくれたならどんなに心強いか。いくら考えてみた所で、今日は平日。親友たちは学校があるし、両親は仕事だ。風邪を移してしまうと申し訳ないので、お見舞いには来ないようにと言っている。
それにしても頭がボーッとする。考えが纏まらないし、身体も怠い。たっぷり寝ていたので眠気は無いが、他にやることも無い。
考えていても仕方のない事だ。大人しく寝よう。
そう思って毛布を頭から被る。身体の力が抜けていき、あっという間に僕は意識を手放した。
どのくらい寝ていたのだろうか。あいも変わらず身体が怠い。
「あ、樹起きたんだね。調子はどうかな?」
慣れ親しんだ声がする。熱からくる幻聴だろうか。考えるのも面倒くさい。
そんなことより、かなり眠っていたせいか喉が渇いた。
「あ、お水飲むかな?一応湯冷ましコップに入れて来たんだけど。お薬もあるから、一緒に飲んじゃおうよ。」
身体を起こすと、目の前に水の入ったコップを差し出される。まったくよく出来た幻影だ。
幻聴でもまぁいい。頭がふわふわしているウチに頂くことにしよう。
「あぁ、美味しい。」
思わず声が漏れる。乾いた喉を水が通っていくだけで、ここまで心が満たされるものなのか。
「はい、お薬も。」
「ありがとう。」
もはや幻覚か夢なのかも分からないまま、僕は固形の薬を口に入れ水で流した。
プラシーボ効果という奴だろうか。少し楽になった気がする。
「ありがとう。」
僕は幻覚または夢に見る幼馴染に礼を言う。弱っていることもあって、本音から出た言葉だった。
「どういたしまして。」
制服姿の幼馴染はにこやかに笑っている。
「他に何かして欲しいことある?」
僕は回らない頭で少し考える。
どうせ僕が見た都合の良い妄想だ。この機会に甘えておくことにしよう。
「少しだけ、話したいかも。」
「いいね。お喋りしようか。」
ぼんやりと見える幼馴染はそう言ってベッドの上に腰を下ろした。
「僕はどのくらい寝ていたのかな。」
「どうだろうね。ボクが来たのが四時半くらいで起きたのが五時くらい。樹が何時に寝たかじゃない?」
「うーん……。学校に連絡して、みんなにメッセージを送って……。多分すぐに寝た、と思う。」
「それじゃあ九時間くらい寝てたんだね。」
九時間。そりゃあ喉も渇くわけだ。
「あ、お水お代わりいる?」
「お願いします……。」
「食欲は?」
「あんまり無いかも……。お水だけ下さい。」
「はいはい。少し待っていてね。」
幼馴染はそう言うと、スッと立ち上がって部屋を出て行った。
妄想か幻覚かはともかくとして、再びひとりになった僕は、ぼんやりと天井を眺めていた。考え事をしようにも頭が回らない。勉強でもしようかとも思ったが身体を起こすのも面倒くさい。
一息に眠ってしまえば楽なのだろうが、さっきまで寝ていたせいで目が覚めてしまった。さて、どうしたものか……。いや、考えるのも面倒だ。重力に身を任せて、目を閉じておくことにしよう。
「お待たせ、お水持ってきたよ。あれ?寝ちゃったかな。」
「いや、起きてるよ。お水ありがとう。」
「いいよいいよ。樹からはもう、いっぱい貰っているから。」
「……?」
彼女の言葉の意味はよく分からなかったが、考えてもどうせ分からないだろう。
ゆっくりと身体を起こし、彼女から水が並々入ったコップを受け取る。
「本当にありがとうね。京香。」
水を一気に飲み干して、まじまじと呟く。
「どういたしまして。」
彼女はそう言うと、僕の頬におもむろに手を当てて来る。
「うわぁ、あったかいねぇ。明日も学校はお休みかな。」
そう話す彼女の横顔を見ながら、僕は何を話そうか考えてみる。
とりあえず、世話になったお礼は言わなければ。それに、来ないでいいと言っていたはずだが……。家の鍵は開いていたのだろうか。だとしたら不用心な両親だ。
考えている内に、瞼が重くなってきた。僕は再び身体を横にして、ゆっくりと目を閉じた。




