二十五
昼休みが半分終わった頃、永江さんは僕たちの元に駆け足で近づいて来た。
「ごめんね。その、遅くなって。」
「いいよ。時間を指定して待ち合わせなわけでもないし。」
昼休みに勝手に寄り集まっているだけなので、遅れるもなにも無い。と、思う。
「明日からテストだよねって話してたんだけど、永江ちゃん勉強してる?」
彼女が昼休み早々教室を出て行った理由を、七咲さんは聞かなかった。僕たちも彼女に習い、変化のない日常に戻る。
「武石は今日、徹夜らしいよ。」
「嘘でしょ、武石くん。」
「いや、待ってくれ。まずは話を聞いてくれ。」
「うん、聞くよ。テスト期間の土日に、勉強以外、何をしていたのか。」
二人に詰められる親友を観ながら、ゆっくりと茶を飲む。なんて優雅な昼下がりなのだろうと、心の中でそう呟いた。
口に含んだ茶は直ぐには飲み込まず、口の中で遊ばせてから喉に流し込む。
「土日の話をするなら、雨天もそうだぞ。こいつは土曜日、一日デートに行ってたんだからな。」
彼の言葉に、僕は思い切り咳き込んだ。
飲み物を吹き出さないまでは良かったが、気管に入ってしまった。
「な、武石。何を……。」
僕が発した抗議の言葉は、無惨な咳と共に宙に消える。
「えぇ、デート?誰と行ってきたの、どこに行ったの?」
「もしかして、前話してた、幼馴染?」
頭が良いだけあって、こんな時ばかり鋭い。
女の子二人に詰め寄られる僕を横目に、武石は優雅に缶コーヒーを飲んでいる。
「なんとも、優雅な昼下がりだ。」
そう言いたげな表情。つくづく、僕らは似たもの同士のようだ。それはそうと、後で覚えてろよ。
「それで、誰とデートに行ってきたのさ。わたしたちに何も教えないで。」
「金曜日に急遽決まったから、言うタイミングがなかったんだよ。それに、デートじゃないから。ただ二人で駅前のカフェに行っただけだから。」
「ほう、手を繋いでカップルメニューを注文しても、デートじゃないと。お前の中ではそうなんだな。」
弁解途中に、横から口を挟まれた。
ただ出掛けただけと言う事にして誤魔化そうと思っていたのに。まったくこの男は。
「手ぇ繋いだの?どのくらい繋いだ?ギュッて握った?」
武石の言葉を皮切りに、七咲さんからマシンガンの様に質問を浴びせられる。
「軽く繋いだだけだよ。それに、相手はただの幼馴染だよ。」
僕は適当に誤魔化す。
握り具合など、自分で言わなければ分からないものだ。
「ん、幼馴染ってもしかして夏妃ちゃん?」
七咲さんの口から、意外な名前が出てきた。
「あれ、七咲さん知ってるの?」
「うん。わたしがさっきまで話していたのも夏妃ちゃんだし。」
意外なところで交友関係が出来ているようだ。まぁ、京香と武石が話せていたんだから、いつかはこうなっていたのだろう。
にしても、何があって話すようになったのか。
「廊下に出た時にね、偶然声掛けられたんだよ。七咲さんって。話てみたらすごい良い子だったから、すぐに仲良くなっちゃった。」
「ねぇ武石。」
「どうした?親友よ。」
「きょう……夏妃と、この前話したよね。」
「別に名前呼びでも良いと思うぞ。まぁ、話したな。」
「今日は七咲さんと話したみたいだね。」
「そうだな。」
「なんだろうね。この寝取られた感と言いますか。」
「被害妄想が過ぎるぞ。別にお前の女でもあるまい。」
「根暗はそう言う妄想しちゃうんだよ。」
「あ、あの……さ。」
僕らがくだらない話をしていると、永江さんが割って入った。
「私にも、今度、紹介して欲しい、かも。夏妃さん、成績いいし、話してみたい。」
「そう言う事なら、任せておいて。いつでも大丈夫だと思うから。」
気がつくと、武石と七咲さんが僕の顔をじっと見つめている。
「な、なにさ。」
「いやぁ、俺たちと永江とで対応違うなって思っただけだよ。」
「わたしの頭はポコポコ叩くくせにね。」
「七咲さんの方は、叩かれる方も悪いでしょ。武石はまぁ、そうだね。」
永江さんだけを特別扱いしているつもりは無いのだが、関わり方の問題だろうか。
言葉に詰まっていると、武石が何か思い付いたのか悪い顔をしている。
「それはそうと、雨天よ。せっかくだから、デートに行った時の写真を二人に見せてやったらどうだ。」
「絶対に見せない。」
僕は彼を睨みつける。あの写真に、何ら後ろめたい事は無いのだが、どうにも恥ずかしい。
「えぇ、見せてくれないの?」
「見せてあげません。」
「ほんとは、見ても、良いんでしょ?」
「本当に見せません。」
結局昼休みが終わるまで、僕は親友二人からスマホを守り続けなければならなかった。
後日、この話を京香にしたところ、腹を抱えて笑っていた。




