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二十三

 十一月。テスト期間中のとある休日。

 僕は親愛なる幼馴染と手を繋ぎ、駅のそばを歩いていた。

「いやぁ、思っていたより美味しかったね。偏見だけど、ただ甘いだけの物が出てくると思ってたよ。」

京香はそう言い、左手を頬に当てる。

「同感だね。水々しいフルーツが沢山あって、食べ応えあった。少しあり過ぎたね。」

「チラシとメニュー表だけだと分からないものだね。」

僕たちが二人で食べたパフェは、味も量も満足いく物だったが、いささか量が多すぎた。

 パフェひとつを二人で分けたものの、食べ終わった後、暫く立ち上がることが出来なかったほど。

 僕たちは身体に窮屈さを感じつつ、重い足取りで帰路に着いていた。満腹感のせいで、手を繋いでいることも気にならなかった。

「どこかで、休憩しない?」

僕の提案に、京香は頷く。

「通学路の公園で、良いかな。ここは少し、人が多いし。」

「賛成。そこまで頑張ろうか。」

僕たちは手を繋いだまま、駅を横切り、通学路の途中にある小さな公園へと向かった。

 テスト期間中ということで、学生があまり出歩いていないのは幸いだった。こんなところを、もしクラスメイトに見られたら、週明けに僕は吊し上げられることだろう。

 そんな心配をしなければならないほど、僕の幼馴染は人気なのだ。教室にいる時も、密かに彼女を狙うクラスメイトの話し声が耳に入る。また、女子人気もあるらしく、廊下ですれ違う時はいつもニ、三人の女の子を侍らせている。

「いやしかし、十一月ともなると寒いね。」

僕の心配を他所に、京香は空を仰ぐ。雲ひとつない晴天だが風が強く、歩くだけでも凍えてしまいそうだ。

「確かに寒い。手袋でもしてくれば良かったね。」

「いや、手袋は無くて良かったよ。」

彼女は繋いだままの僕の手を、強く握る。

「こうすれば暖かいからね。」

「それもそうか。」

少し照れ臭くて、僕はそれ以上の言葉が出てこなかった。

 話しているうちに、公園に辿り着いた。

「ベンチ、座ろっか。」

「そうだね。」

休日だったが、公園は閑散としている。前に見かけた子供たちは、部屋に篭ってゲームでもしているのだろうか。

「京香、何か飲む?自販機で買ってくるけど。」

「そうだね。温かいカフェオレでも貰おうかな。て言うか、手繋いだままだから一緒に行くね。」

誰がみている訳でもないので、もう手を離しても良いのだろうが、僕たちはそれをしなかった。

 何の後ろめたさも持ちたくないと言うのもあるが、何となく、名残惜しく感じたのだ。

「樹は何飲むの?」

「僕は温かいコーヒーにしようかな。」

「ブラック?」

「ブラック。」

「樹はオトナだねぇ。中学上がったばかりの頃は、カフェラテも飲まなかったのに。何が原因でブラックコーヒーなんて飲むようになったのさ。」

「なんでだったかな。」

とぼけた声ではぐらかす。

 僕がコーヒーを飲むようになった原因は、京香にある。中学生になったばかりの頃、僕はクラス内で何人かの話のできる友人ができていた。彼女も、女の子の友達ができ、学校内で話す機会も少なくなっていた。

 そんな折、休み時間に京香と数人の女子生徒との話し声が聞こえてきた。

「夏妃さんってさ、どんな男がタイプなの?」

「あ、私もそれ気になるぅ。」

学生にはよくある会話なのだが、幼馴染の話という事で少し気になった。僕はその時、近くの席で読書をしていたので、視線を落としつつ、聞き耳をたてた。

 女子生徒が数人で、京香に詰め寄る。

「どんな人が好き?スポーツできる人なの、それとも勉強できる人なの?」

ひとりの言葉が、僕の胸に深く突き刺さる。運動神経は無い方で、成績が良いわけでもない。なんて不出来なのだろうと、努力をしていない自分を恥じた。

「うーん、そうだね。」

京香は唇に指を当てて、考える仕草をする。

 そして、

「やっぱり、一緒にいて安心できる人がいいよね。」

にこやかな表情でそう言った。

 彼女の返答に対して、彼女の友人たちは更に詰め寄る。

「なんかボンヤリしてるよ。もっと具体的にないの?何か特技があるとか。」

「そうだなぁ……。」

京香は腕を組み、天井を仰ぐ。

 十秒に満たない沈黙の後、彼女は口を開いた。

「コーヒーとか、一緒に飲めたらいいよね。」

その言葉は、今でもはっきりと覚えている。

 中学生になったばかりの僕は、彼女の友人でいたい一心でコーヒーを飲む様になった。恋情の類ではなく、ずっと一緒にいた幼馴染が離れていくのが、悲しくなったのだ。

 そんなこと、京香が覚えているハズもないのだが。

 僕たちは手を繋いだまま、片手に飲み物を持って公園のベンチに腰掛ける。

「こうも寒いと、温かい飲み物がありがたいよね。」

コーヒーを一口飲み、僕はそう呟いた。

 飲み物の蓋を開ける時は流石に手を離したが、蓋を開け終えると、どちらからでもなく自然に手を繋ぎ直していた。

 京香はカフェオレを傍に置き、一枚の紙切れをじっと見つめている。それは、今日行ったカフェで撮られた写真だった。

「手、繋いで入店したんだから、必要なかったんじゃない?カップルの証明。」

「まあでも、割引して貰えたから良かったじゃない。ボクは少し恥ずかしかったけど。」

思い出しただけで顔が熱くなる。

 会計前にカメラを持った店員から、「向かい合って。」「もっと顔近づけて。」と指示されて、キスするほどの距離で、写真を撮られた。

 流石にこの写真は、武石には見せられない。

 僕たちは二人して顔を赤らめ、少しの間沈黙していた。少し気まずかったが、手は離さなかった。

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