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二十二

 十一月のとある休日。高校がテスト期間に貼っており、本来であれば机に向かって教科書と睨み合っていなければならないこの日。僕は朝から駅前のベンチに座り、人を待っていた。

 時刻は午前九時前。待ち合わせの時間まで数分。

「少し遅いな。」

誰にも聞こえないような、小さな声でそう呟く。

 待ち人は、普段通りならもう着いている頃だ。何もトラブルが無ければ良いのだが。

「お待たせ。」

京香は駆け足で近づいて来て、息切れ気味にそう言った。

「いや、約束の時間より少し早いね。」

僕の言葉に、彼女は安堵したのか大きく息を吐く。

「本当はもう二十分早く来るつもりだったんだけど、服が決まらなくてね。」

 京香の服装はいつもと違う。普段であれば、シャツにジーンズのような、所謂ボーイッシュな服装を好んでいる。しかし今日の彼女は、コートに洒落たスカートと、何と言うか女の子らしい格好をしている。

 僕の視線に気が付いたのか、幼馴染は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「やっぱりボクには似合ってないかな?」

「いや、とても良く似合ってるよ。とても綺麗で、その、言葉が見つからなかったんだ。」

本心からの言葉なのだが、自分で言っていて照れ臭くなる。

 数分ほどして、僕たちは並んでベンチに座り心を落ち着けていた。

「もうこのまま、普通に遊びに行きたいね。」

「ボクも同意見。」

二人して大きなため息を吐く。

 テスト期間中にも関わらず、僕たちが駅前に来ている理由。それは先日、急遽行われたトランプ勝負の罰ゲームに他ならない。

 そうでもなければ今頃、僕は京香とテスト勉強に励んでいた事だろう。

「昨日、武石からメールが来た。」

「彼はなんて?」

「手を繋ぐのは待ち合わせて別れるまで。駅前のカフェでカップルメニューを頼み、その様子を写真に収めること。だってさ。」

「カップルメニューかぁ……。まぁ、ボクは身から出た鯖なんだけども。」

「僕は完全にとばっちりだけどね。」

まぁ、考え方を変えれば、廊下で武石と腕組みしなくて良かったので助かったのだが。どちらにせよ僕に被害が及ぶのは納得いかない。

 時間は有限。いつまでもダラダラしているワケにも行かないので、覚悟を決めて立ち上がる。

「それじゃ、行こうか。」

僕はそう言って、左手を差し出す。

「ん、あぁ。そうだね。行こう。」

彼女は一瞬、戸惑う仕草を見せたが、直ぐに僕の手を取る。

 季節は冬。空気は冷え込んでおり、彼女の手の温もりが、いっそう強く伝わってきた。

「手、繋ぐのなんて何年振りだろうね。」

「小学校三年生の頃かな。いつも手を繋いで下校してたよね。」

「それでクラスの男の子から揶揄われたんだっけ。樹、顔真っ赤にして震えてたからよく憶えてるよ。」

「できれば忘れて欲しいかな。」

恥ずかしい事を思い出してしまった。

 クラスメイトに揶揄われて、半泣きになった僕を、京香が慰めながら帰ったんだ。今思い出しても、情けない。

 それ以来、恥ずかしい気持ちになって手を繋がなくなった。彼女は何も言わなかったが、僕の気持ちを汲んでくれていたのだろう。

 駅から徒歩数分の場所に、僕の街には不釣り合いなほど洒落たカフェが立っている。派手な看板に、ガラス越しに見える内装も目立っている。明らかに、周囲から浮いている店だ。

 店の壁には、大きく『恋人限定!ラブラブパフェ』と張り出されている。

「甘そうだね。」

「それに高そう。まぁ、今のボクたちなら大丈夫だけど。」

何でも、カップルが注文すると、割引きして貰えるらしい。

 ありがたい話だが、大きなお世話である。

「覚悟を決めようか。」

誰に対してでもなく、ぽつりと呟く。

 僕たちは手を繋いだまま、入店した。

「いらっしゃいませぇ。お二人様ですね、お好きな席にどーぞ。」

若い男性の店員は、愛想よく笑って僕たちを迎え入れてくれる。

「どこに座る?」

「あそこの席で良いんじゃない?」

僕が指差したのは、店の隅にある二人用の狭いテーブル。隣の席も空いているので、そこまで居心地も悪くないだろうと思い、提案した。

「良いね、そうしようか。」

京香も僕の提案に賛同してくれた。

 手を繋いだまま店内を進み、テーブルに向かい合って座る。そこでようやく、互いに手を離すことができた。

 暖房が効いているせいか、顔が熱い。正面を見ると、京香の頬も少し紅い。

「ご注文お決まりでしたら、お申し付け下さい。」

店員の男性は水の入ったグラスをテーブルに置きつつ、にこやかな表情でそう言った。

「もう、さっさと注文しちゃおうか。」

「そうだね。」

「えっと、期間限定の……。」

彼女はそこまで言って、メニュー表をこちらに渡してくる。

「言って。なんだか恥ずかしくなってきた。」

「わかったよ。えっと、ラブラブストロベリーパフェをひとつ。お願いします。」

「かしこまりました。カップルメニューですね。こちら、恋人同士のお客様だと割引きが入るのですが、如何なさいましょう。」

店員は口角を上げて、そう聞いてくる。僕は顔を上げられなかった。

「もう、何でもお願いします。」

「かしこまりました。でしたら、会計前に写真撮影がありますので、よろしくお願いします。」

 早足に過ぎ去っていく店員の背中を、見つめため息を吐く。

「樹。お疲れ様。」

「ありがとう。ちょっとお水飲むね。顔が熱くて仕方がないんだ。」

僕はそう言い、グラスに並々注がれた水を一気に飲み干した。

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