二十二
テスト期間に入った、ある日の放課後。僕は生徒玄関の混雑から逃げる様にして中庭に来ていた。
中庭には、僕の他にクラスメイトと幼馴染。
「ここで会ったのも何かの縁だし、トランプでもやる?」
「中庭で?」
「うん。中庭で。ボク、トランプ持ってるから。」
京香はそう言い、スカートのポケットから透明なケースに入ったトランプを見せてくる。
「ほう、用意周到だな。夏妃は。」
「どうかな、武石くん。ボクとゲームをしないかい?」
生ぬるい風が僕たちの間を吹き抜ける。
京香はトランプを前に突き出し、低い声で武石に語りかける。元々、カッコいい声をしているので、低い声でも様になっている。
「それもただのゲームじゃあ、つまらない。お互いの大切な物を賭けて、勝負をしないかい?」
彼女の提案に、武石は薄ら笑いを浮かべ答える。
「面白い。ただし、覚悟をしておく事だ。」
「臨むところ。さぁ、勝負を始めよう。」
二人の視線が、火花を散らす。
「じゃあ、何しよっか。」
ここからと言った所で、京香がいつもの口調でトランプを混ぜ始める。
「そうだなぁ……。」
武石も首を傾げ、考える仕草を見せる。
緊張感が台無しだ。
「ねぇ樹、何すれば良いかな?」
「そうだな。ここは公平に雨天に選んで貰おう。」
傍観者でいるつもりだったのに、急に僕に責任が投げられた。
「そうだねぇ。」
腕を組み、空を見上げる。もう、生徒玄関も閑散としている頃。今から帰れば良いのではないかとも思ったが、つまらないので提案しないでおく。
「インディアンポーカーとかどうかな?時間もそう掛からないし。」
「良いね、採用。」
「俺も、異論は無いぜ。」
インディアンポーカー。自分が引いたカードを額の上に掲げて、相手の反応を伺う。有名なトランプゲームだ。
自分のカードは見ることが出来ないので、相手の反応を見て賭けるか降りるかを判断する。素人ながら、心理戦に富んだゲームだと思っている。
「それじゃ、ボクと武石くんが闘うから、樹は見ててよ。」
京香はそう言い、トランプの束を渡してくる。
「公平なジャッジを頼むぞ。」
「僕は参加できないんだね……。」
仕方なくトランプをシャッフルし、二人に差し出す。
「どうぞ。好きな方から取って。」
「なら、俺からだ。」
「オーケー。次はボクだ。」
二人は順番にカードを一枚引き、額の上に掲げる。
静かな緊張が二人の間に流れる。
「さて、普通なら相手の反応を見て、自分のカードを予測する所だが……。」
「奇遇だね。ボクたちは二人とも同じ考え方の様だ。」
「この緊張感。俺たちは互いのカードを見ても反応を変えない。」
「何故ならボクたちは互いに、自身の勝利を疑わないから。であれば、ボクたちが見るのはひとつ。」
「そう。俺たちの間で傍観しているこの男。我が親友の反応を見て、勝負を決そうじゃないか。」
二人して僕の方をじっと見る。僕からは二人の数字が見えているのだが、別に教えるつもりもない。
「僕の方を見ても何も分からないんじゃない。」
僕がそう言うと、分かってないなと武石は指を左右に振る。
「今はそうだろうな、今は。」
「どう言うこと?」
「今はまだカードを見せただけ。まだ何も賭けていない。だから、ボクたちの賭けるモノとその度量で、樹の反応を見る。」
「そう言うことだ。とまぁ格好つけたが、何を賭けるかまだ決めていないんだがな。」
カードを掲げたまま、二人は首を傾げる。
このまま時間が過ぎるのもアレなので、僕の方から提案してみる。
「せっかくだし、罰ゲーム形式にすれば?」
パッと思いついた案だったが、二人は顔を見合わせて僕の方に指を差す。
「それだ。」
「天才だ。」
「どうもどうも。」
大して考えた訳でもないので、褒められると妙にむず痒い。
「それじゃ、罰ゲームはどうしようかな。樹、何かある?」
「そこまでは考えていなかったね。」
「俺に良い案があるぞ。」
「お、優秀だね武石くん。」
「思考が早いね親友。」
「いやいや。もっと褒めてもいいんだぞ。」
二方向から称賛され、武石は上機嫌だ。
「それで、きみが考える罰ゲームとは。」
京香の質問に、彼は得意げな笑みを浮かべる。
「俺が勝ったら、次の休日、雨天と手を繋いで一日過ごして貰おうか。」
「はぁ?」
思わぬ要求に声が出た。
「親友よ。それ本気で言ってるの?」
「勿論、俺はいつだって本気だぜ。」
武石の得意げな笑みの理由がわかった。京香だけでなく、僕までターゲットにするとは。
「どうする?嫌なら降りても良いんだぜ。」
「京香、ここは仕切り直して別のゲームをすると言う手もあるけど……。」
「ふっ、愚問だね。」
僕の心配を他所に、京香は悪い笑みを浮かべる。
「それなら、ボクが勝ったら樹と腕組んで廊下を歩いて貰おうか。僕が負けたら、樹と駅前のカフェでカップルメニューを頼んでも良いよ。」
「こっちはこっちで何言ってるんだよ。」
変な緊張感のせいで、親友だけでなく幼馴染も壊れてしまった。
「良いだろう。俺が負けたら、初恋の人にラブレターを書いても良いぜ。」
互いに傷口を広げたところで、五時のチャイムが鳴った。
「時間みたいだね。」
「これ以上、御託を並べても仕方がないな。」
「いざ、勝負。」
二人揃って、カードを振り下ろす。
武石のカードは八、京香のカードは四だった。
「あらら。」
「今回は、俺の勝ちみたいだな。それじゃあ次の休日、楽しみにしているぜ。」
カードを見て苦笑いする彼女と僕に、武石は高らかにそう言った。




