二十
十一月中旬。テスト範囲が発表されて、授業内容もテストの問題について言及する事が増えてきた。
僕もテストに向けて、少しずつだがテスト範囲の内容を頭に入れていた。
テストが来週に迫った、木曜日の昼休み。僕たちはいつものように四人で集まっていた。
「今回のテスト範囲、なんか狭くない?」
七咲さんは水筒の蓋を開けつつ、そう切り出した。
「体育祭やら文化祭やらあったから、その分授業が進まなかったんだろうな。まぁ俺としては、ありがたい限りだがな。」
「多分、次学期の実力テスト、範囲、広いよ。」
「そうか。まぁ、そうだよな。」
永江さんの言葉に、武石はがくりと肩を落とす。
「まぁでも、テスト範囲も狭いし、そこまで難しい所と無いから少し安心だよね。」
「それじゃ、今回の勉強会は無しかな?」
七咲さんは露骨に寂しそうな顔をする。勉強会と言うか、みんなで集まる口実が欲しいのだろう。
「勉強会は無しだけどさ、お疲れ様会やらない?テスト最終日も、どうせ午前授業だし。午後からどう?」
僕の言葉に、七咲さんの表情がパァッと明るくなる。
「良いね。そうしよう、たんしよう。」
「ダジャレか。双子葉、単子葉なんて久々に聞いたよ。」
「小学校の理科だったか?俺も記憶あるぜ。」
「植物の、大まかな分類、だよね。」
寒いダジャレで話が脱線しつつあるので、テスト後の予定について話そう。
「ちょっと雨天くん。誰の洒落た言い回しが寒いって?」
「人のモノローグに口出さないでよ。」
「いいや、口出すね。私の小粋なジョークをダジャレと言い切るその無神経。思慮と言うものをここで学ばせてやろうって痛い。」
人のモノローグに口を突っ込む不届き者の頭に、僕は手刀を振り下ろす。
「何するのさ。何するのさ。人の頭にいつもいつも。」
不届き者は両手で頭を押さえてピィピィ喚いている。
「何が小粋なジョークだ。と言うか双子葉植物とかよく覚えていたね。」
「あれは語感と脊髄反射で喋っただけだから、意味とかあんまり覚えてないかも。」
何が小粋なジョークだったんだ。僕は心の底からそう思った。
話を戻す。
「それで、来週のテスト明けはどうしようか。」
「一旦私服に着替えるか、制服のままどこか行くか。制服のままだと、行ける場所は限られるな。ハメが外せん。」
「いつもの、喫茶店、なら、制服でも、良いかも。」
「確かに。お昼もそこで食べても良いね。七咲さんはどう?」
「わたしは賛成だよ。テスト明けに友達で集まって遊びに行く。青春の一ページだね。」
七咲さんは両手を合わせて、ご満悦だ。
「逐一刻んで行ったら、その青春何ページくらいになるんだろうね。」
「どうだろうな。七咲のことだから、毎日が青春の一ページとか言いそうではあるよな。」
「書籍化したら何巻くらい出るんだろうね。」
「『七咲、青春の一ページ』ってか。一巻で打ち切られそうな気もするよな。」
「ちょっとそこ、誰の青春が打ち切りだって?」
七咲さんはジットリとした目つきで、僕たちを睨みつける。
聞こえない様にと、小声で話していたのだが。
「私の青春は長期連載だよ。」
「心も身体も、大人になる、その日まで。」
「大人になるその日まで。」
七咲さんと永江さんは示し合わせたように、手を取り合う。
大人になるその日まで。少しだけ詩的に感じる。
「大人になったら、輝いていた日々が色褪せて行くんだな。」
武石も流れに乗って、寂しそうな顔をする。
センチメンタルに浸れるほど、僕らは長く生きちゃいない。
「辛くなったら、悲しくなったら、わたしのことを思い出して。わたしはいつでも、みんなと共にある。」
七咲綾の、青春ミュージカルが開演した。
「俺たち、どこ行っても、友達だよな。」
ミュージカルに、ガタイの良い男が参戦した。
「私たち、生まれた日は違えど、死する時は。」
綺麗な女の子まで加わった。と言うか、永江さんのそれは三国志じゃなかろうか。ニワカ知識なので、詳しいことは言えないのたが。
「わたしたちは、言わば義兄弟。今ここに契りを交わさん。」
三国志に引っ張られてしまった。ミュージカルの方向性が迷子である。
放っておくと混沌としたことになりそうだったので、手をパンと鳴らして三人を止める。
「喫茶店もミュージカルもテストが終わってから。そう言う事でここはひとつ。」
「そうだな。」
「ミュージカルは、しなくて、良いけど、ね。」
「テストも来週だし、各自勉強頑張ろ。」
期末テストで赤点を取ると、年末に補修を受けるために登校しなければならない。
僕たちは昼休みが終わるまで、テスト範囲について話し合っていた。




