十七
祝日。なんの気無しに散歩に出てみると、公園で子供たちと戯れる幼馴染を目撃した。幼馴染と子供たちの誘いもあり、僕も参加させてもらうことにした。
その結果。
「いやぁ、朝から身体を動かすと疲れるね。」
「でも、気持ち良かったですね。」
京くんはタオルで顔を拭きつつ、にこりと笑う。
僕たちは息も絶え絶えに、公園のベンチに並んで腰掛けていた。
初めはドッジボールをしていたが、それを終えると僕たちをを鬼にしてケイドロが始まった。子供たちの体力は無尽蔵なのか、追いかけても追いかけても捕まらない。例え、ひとり捕まえたとしても、他の子を追いかけている間にいつの間にか助けられている。
そんなこんなで、約一時間ほど公園内を駆け回る羽目になった。昼前になると、子供たちはお昼を食べると帰ってしまい、残された僕たちは公園で休憩していると言うわけだ。
「ところで樹さん、お昼はどうするんです?」
「そうだねぇ。」
僕は腕を組み、空を見上げる。時刻は午前十一時半頃。身体を動かしていたせいもあり、そこそこお腹が空いている。
「元々気ままに散歩してただけだからね。何処か食べに行こうかな。京くんはどうするの?」
「オレも予定も無いんで、樹さんに着いていこうかな。」
「せっかくだし、ご馳走するよ。何食べたい?」
「それじゃあ、ハンバーガーで。」
「良いね、僕もそんな気分だったよ。セットはどうする?」
「ポテトで。飲み物は、うーん。歩きながら考えます。」
「じゃあ、行こうか。」
「はーい。」
僕たちは二人並んで住宅街を歩く。
今更だが、京くんの服装はフード付きのトレーナーにハーフパンツと、いかにも動きやすそうなファッションだ。その代わり、少し寒そうである。
「京くん、その服寒くないの?」
僕の質問に、彼は首を横に振る。
「寒くないって言えば、嘘になりますね。でもでも、オシャレは我慢って言いますので。」
そう言って勝ち気な笑顔を見せてくる。
「それにしても、京くん体力あるね。一時間以上も子供たちと遊びまわって。」
「あれですね。最低限の動きしかしてないので、そこまで疲れないんですよ。」
「凄いな……。」
さらっと言っているが、凄いことをしている。体力の減らない動き方など、普通は咄嗟に分からない。
「にしてもさ。」
「なんですの?」
「なんか、見られてるね。」
「道行く人の視線が刺さりますねぇ。」
京くんはまだ中学生で背も低いし、中性的で端正な顔立ちなので、側から見れば仲の良い男女が並んで歩いているように見えるかもしれない。
僕はともかく、京くんに変な噂が立たなければは良いのだが。
そんなこんなで、絶妙な気まずさを感じつつ、僕たちは商店街に着いた。祝日ということもあり、商店街はそこそこの人で賑わっていた。
個人経営の電気屋や服屋が並ぶ中、全国チェーンのハンバーガーショップが居心地悪そうに建っている。控えめな配色の看板が並ぶ中、赤を基調にした目を引くその店は、まるで来る場所を間違えたかのように思えた。
「相変わらず、目を引く看板ですね。」
「場違いな感じは否めないよね。とりあえず、入ろっか。」
僕たちは並んで店に入る。祝日だと言うのに、店内は学生の客が何組かあるだけで、ほとんど空席だった。
「少ないね。」
「多過ぎるよりは、良いじゃないですか。ほら、窓際のテーブルとか空いてますよ。」
「確かに、少しお得かもね。」
「そう言えば、京香は?」
「姉さんなら、今日はクラスメイトと遊びに行くって言ってましたよ。」
「そうなんだ。」
僕たちはその店で、ドリンク片手に小一時間ほど雑談した。別に、これと言った話題があるわけでもなかったので、話の方向は二転三転。しかし、それもまた楽しかった。
午後一時を回ると、徐々に客足が多くなってきた。
「そろそろ出ようか。」
「そうですね。」
「この後どうする?」
「とりあえず公園に戻りましょうか。」
「賛成。」
人の波を避けるようにして、僕たちは出口に向かう。
店を出てすぐ、僕たちの足はピタリと止まった。僕たちと向かい合うようにして、一匹の猫が座っている。艶のある毛並みの、黒猫だった。
猫は僕たちを一瞥すると、サッと踵を返してどこかへ行ってしまった。
「今の猫……。」
京くんがポツリと呟く。
「黒でしたね。」
「間違いなく黒だったね。」
「何かの話であったじゃないですか。黒猫が横切るとナントカって。」
「その人に不幸が訪れるってやつだね。」
僕たちは、連休明けから不幸になるのだろうか。
「でもでも、あの猫まっすぐ歩いて行きましたよ。横切ってない。これってどうなるんですかね。」
「明日も平和ってことじゃない?」
「だと良いですね。」
平穏な日々に感謝しつつ、僕たちは商店街を後にした。




