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 九月も折り返しを過ぎたある日。金曜日のこと。

 昼休みにいつものように四人で集まっていると、永江さんが何の脈絡もなく呟いた。

「そう言えば、次の月曜日は秋分の日だね。」

「確かに。月曜日は祝日だったね。せっかくだし、みんなで集まろうか。」

僕の言葉に、七咲さんも頷んだ。

「それじゃあさ、朝から集まって太陽が出てる時間をカウントしてみない?おはぎでも食べながらさ。」

「すまん三人とも。ちょっと良いか?」

盛り上がっていると、武石が申し訳なさそうに口を挟む。

「秋分って、何の日だっけ?」

「武石?」

「あぁいや、多分聞いたことはあるんだがな。ド忘れしちゃったんだよ。」

頭を掻く武石に、七咲さんが意気揚々と説明する。

「秋分はねぇ、太陽の位置がアレコレで昼と夜の時間が同じになる日なんだよ。」

「それと、ご先祖様を敬ったり、秋の味覚を、楽しんだりする日。」

「いわゆるお彼岸だねぇ。」

「あぁ、昼夜が同じ日か。三連休だったから、何かの日だとは思ってたんだが。」

「武石くんってさ、結構アホだったりする?」

ハハハと笑う武石に、七咲さんがチラリと問いかける。

「誰がアホだ。確かに理解はあまり得意じゃあないが、それなりに知識はあるつもりだぞ。」

「祝日も、知らなかった、みたいだけど。」

「やっぱりアホの子?」

七咲さんはここぞとばかりに畳み掛ける。

 暫定アホの子が仲間を見つけたようだ。

「えいっ。」

「うぐっ。」

失礼なことを考えていると、七咲さんが自然な仕草で僕の鳩尾に肘を入れる。

「ん、雨天どうしたんだ?」

「さぁ?お昼食べて眠たくなったんじゃない?」

「あぅ、け、結構くる……。い、息が……。」

「よし、大丈夫そうだな。」

武石はサッと目を逸らし言う。薄情な男である。

 腹部を押さえて机に突っ伏した僕を尻目に、武石が話を戻す。

「ところで、秋分が昼夜同じなのは聞いたことあったんだけどさ、先祖の供養やら秋の味覚は初耳だったな。」

「お彼岸、だから、お墓のお掃除とかも、すると良いの。」

「それじゃあ、七咲が言ってたおはぎは。秋の味覚って感じでもないだろ?」

彼の問いに、七咲さんは不敵に笑う。

「ふっふっふ。知らないだろうから教えてやろう。小豆にはねぇ、昔から邪気を祓うと言われていたんだよ。」

「だからおはぎって事か。」

「そう。そういうこと。」

七咲さんは得意げに頷く。先程、僕に鋭い肘打ちをお見舞いした女の子とは思えない。

 ようやく回復してきたので、僕も三人の話に加わらせてもらうことにする。

「それで、月曜日はどこか遊びに行く?僕は三連休ずっと暇だけど。」

「俺は賛成だ。三連休だと言うのに、何の予定もないぜ。」

僕の提案に、武石は真っ先に賛同した。やはり良い奴だ。

「わたしも良いよ。土曜日は家族との予定があるけど、日月は暇なんだぁ。」

「あの、私も予定、ない。」

七咲さんも永江さんも賛成してくれる。

 いつもの事なのだが、ただそれだけが無性に喜ばしくて、自分が幸せ者であると実感できた。

「それじゃ、四人集まって何しようか。」

「テストも近いし、あの喫茶店でテスト勉強なんてどうでしょ。やっぱ、こう言うシチュエーションは何度やっても良いからねぇ。」

「う、テスト勉強か……。なぁ、勉強はまた別日にしないか?国民の休日なんだしさ。」

勉強と聞いた瞬間、武石は弱腰になる。良くも悪くも、分かりやすい男だ。

「武石くん、勉強は、しないと。」

「ウス、先生。」

一学期の頃から散々勉強を教えられ、武石の中では永江さんがすっかり先生になっているようだ。もう、何があっても頭は上がらないのだろう。

「それじゃあ、また朝から駅に集合でいいのかな?」

「そうだね。秋分の日らしい事は出来なさそうだけど、有意義な日にしたいね。」

「勉強は無しでさ、喫茶店でのんびりボードゲームと洒落込まないか?娯楽の秋ってことでさ。」

「武石くん、勉強終わったら、だよ。」

「はい。頑張ります……。」

食い下がる武石に、永江さんはピシャリと言う。娯楽の秋は初めて聞いた言葉だ。僕も使わせてもらおう。

 祝日の予定が決まったところで、土日はどうしようか考える。また京香にメールしても良いのだが、せっかくなので一人でテスト勉強をしてみようと思う。

 高校一年生ももう中盤を過ぎたと言う事で、将来に向けて少しくらい成績を気にするのも悪くないだろう。地頭が良いわけではないので、幼馴染や親友たちに置いて行かれないようにしなければ。

 どうせすぐ消えるであろう決意を抱いたところで、昼休みが終わりそうだ。心を新たに授業に取り組むとしよう。

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