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 どうしてこう、週明けと言うのは憂鬱なのだろうか。別段、何か嫌な事がある訳でもないし、やり残した課題もない。大手を振って登校して良いハズだ。

 だと言うのに月曜日の朝というのは、どうしてこうも気怠いのだろう。布団の中でゴロゴロと、答えを探すつもりもない自問自答を繰り返した。

 時刻は午前六時。ゆっくりと布団から起き上がり顔を洗う。僕はあまり機敏では無く、どちらからと言えばノロマな男だ。だから朝から遅れないよう、早起きして支度するようにしている。

 通学路は特に変わったことも無く、普段通りの時間に学校に着いた。玄関で靴を履き替えていると、背中から聞き馴染んだ挨拶が聞こえた。

「雨天くん、おはよ。今日もいい天気だねぇ。」

「おはよう七咲さん。朝から灰色の雲がかかっていていい天気だよ。」

「雨、昼から降るらしいよ。」

「午前中は曇りか。雨が降って、少しでも気温が下がると良いけどね。」

「まだ暑いもんねぇ。もうすぐ衣替えだよ。わたしの夏服も見納めだよ。」

「どうせ来年また見れるでしょ。」

そんなことを話している内に、僕たちは教室にたどり着いた。

 自分の机に座り教科書を出していると、七咲さんが足早に近づいて来た。

「ねぇねぇ。今日も朝から体育だよ。」

「週末が体育祭だもんね。昼から眠くなっちゃうから勘弁して欲しいよ。」

「眠くなるのもそうなんだけどね。ちょっと問題がね。」

「問題?」

僕が聞き返すと、彼女は恥ずかしそうに頰を赤らめた。

「その、まだ暑いからさ。汗かくじゃん。だからね、匂いが気になる言いますか。」

「なあんだそんな事。」

「女の子には大事な問題なのよ。特に、わたしの様なレディにはね。」

「レディねぇ。」

「お、なんだその顔は。」

七咲さんはわざとらしく気取った態度を取る。その仕草には淑やかさなど微塵も感じられない。わんぱくさなら、溢れ出ているのだが。

 しかし、汗の話をしてみて。ひとつ心配事ができた。

「ねぇ七咲さん。」

「なあに?」

「体育の時って男子は教室で、女子は更衣室で着替えるじゃない。」

「そうだね。男子用の更衣室もありはするけど、ほとんど物置みたいなものだもんね。」

「あのさ。」

僕は思い切って、言葉を発する。

「男子が着替えた後の教室ってさ、もしかして臭かったりする?」

「いや、まぁ。」

七咲さんは分かりやすく言葉を濁す。こう言う嘘の付けないところは、素直に好感が持てる。

「少しだけ、酸いと言いますか……。刺激的な香りとでも言いましょうか……。」

「臭いんだね。」

「まぁまぁ、個人の感想なのですけども……。」

「そっか。そっかぁ。」

大きく息を吐いて、机に項垂れる。

「あぁ、そんなに落ち込まないで。別に雨天くんや武石くんが臭い訳じゃないから。」

七咲さんは慌てて僕の背中をさする。優しい友人だ。

「明日から、教室に置く芳香剤でも持ってくるよ。」

「それはそれで先生に回収されそうだけどねぇ。」

七咲さんはそう言いつつ僕の肩を揉む。別に肩は凝っていないのだが、彼女の優しさが身に染みる。

 窓から見える空はどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうだ。

「ヘイ七咲さん。」

「わたしは音声ナビか。で、なに?」

「今日のお天気は?」

「うーんとねぇ、ちょっと待ってて。」

七咲さんは目を瞑り、両手の人差し指を眉間に当てる。どこかで見たような仕草だ。

「むむむ……見えた。朝から少し曇るけど、夕方には晴れるみたいだね。持ってきた傘は、荷物になっちゃうね。」

彼女はにへらと笑ってそう言った。

 さっきの仕草で、いったい何が見えたと言うのか。ひょっとすれば彼女は宇宙人なのかも知れない。

「ん、どうしたのは雨天くん。わたしの可愛いい顔をまじまじと見つめて。惚れた?」

「いや、七咲さんは本当に人間なのかなって思ってね。」

「何を言いますか。正真正銘地球人でしょうが。」

「いや、何か電波受信してたみたいだから。」

「あぁ、これのこと?」

七咲さんは両人差し指を眉間に当てて見せる。

「そうそう、それ。」

「これねぇ実は、眼精疲労のマッサージって痛い。」

久々に、僕の手刀が彼女の頭部を捉えた。

「何するのさ。久々に。ほんっとに久々だけども。」

「紛らわしい事してるからだよ。でもほんと久しぶりにやった気がするね。」

「ねー。」

一瞬の怒った顔はどこへやら、七咲さんはケロッと笑っている。

 それから二十分ほど。他のクラスメイトが来るまで、僕たちは他愛のない話題に花を咲かせていた。

 蛇足。まことに勝手ながら、体育祭や文化祭での出来事は省略されてもらう。何も起こらなかった訳ではないが、特別語るようなことも無かったのだ。

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