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 前回のあらすじ。幼馴染の家にお呼ばれして、夕食をご馳走してもらうことになった。招かれた僕は身を清めて、幼馴染の家のインターホンを押したわけだ。

 何度も足を運んでいるとはいえ、やはり多少なりと緊張する。胸に手を当て深呼吸をしていると、家の扉がおもむろに開いた。

「はいはーい。どちら様って、あらぁ樹くんじゃない。元気にしてた?」

「ご無沙汰してます。おばさん。」

「あらあらおばさんだなんて。昔みたいに祥子しょうこお姉さんって呼んでも良いのよ?」

おばさんもとい祥子さんはそう言いつつ、僕の頭を撫でる。

「相変わらず可愛いわ。うちの子になれば良いのにね。」

「可愛いって、僕はもう高校生ですよ。」

「まぁまぁ。ささ、入った入った。」

祥子さんは僕の背を押し、家に招き入れる。

 玄関に入ると、私服の幼馴染が迎えてくれた。

「樹、さっきぶりだね。」

「京香、さっきぶり。」

「それじゃ、あたしは夕飯の用意してくるから、少し待っててね。」

祥子さんはそう言うと、パタパタと台所に向かって行った。

 玄関に取り残された僕たちは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

「相変わらず、台風みたいな人だね。」

「騒がしいだけよ。今日は樹が来るからって余計に張り切っちゃって。」

「一学期の終業式の日にも、夕飯をご馳走になったよね。」

「あの時もね。帰ってきたら樹がいたものだから。」

一学期の終業式の日、僕は京香の家で課題に取り組み夕飯までご馳走になった。その日は、帰ってきた祥子さんが僕を見つけるなり京くんを買い物に行かせてまで、僕の分の夕飯を出してくれた。

 小中学生の頃も結構お世話になっていたりもしたが、高校生になってからその機会はめっきり減っていた。

「親も滅多に帰って来ないんだから、ウチに頼りなさい。」

祥子さんはそう言ってくれた。彼女の心遣いには感謝しかないが、やはり申し訳なさが勝ってしまう。

「京くんには悪い事したね。」

「あの子はいいよ。樹のためって言わないと働かないもの。取り敢えず上がって。ボクの部屋に行こうよ。」

 京香は自然に僕の手を掴み、引っ張っていく。彼女の手の平からほのかに伝わる体温に、ふいにドキリとしてしまう。

「お邪魔します。」

そう言って入ったのは、ここ最近何度も足を運んだ幼馴染の部屋だった。

「にしても母さん、ほんとに樹のこと気に入ってるね。」

 京香は床に腰を降ろす。彼女は幼い頃から、触る時は正座をするようにしている。僕も小学生の頃から、彼女に倣って正座をしている。今となっては、リラックスできる座り方だ。

「気にかけてもらって、ありがたい限りだよ。」

「そんなものかねぇ。」

京香は首を傾げる。幼馴染とは言え、異性の友達を自分の母親が可愛がっていたら変な気分なのだろう。

 ゆっくり話す暇もなく、勢いよく部屋の扉が開いた。

「ただいま。樹さん、早かったね。」

京くんは僕を見るなり、手に持っていた鞄を投げ捨てて飛び込んできた。

「させるか。」

京香はそう言うと、咄嗟に右腕を伸ばす。彼女の腕は京くんの首を捉え、勢いのままに彼は床に叩きつけられた。

「京くん、大丈夫?」

「うごごごご……。」

「まぁ生きてるでしょ。」

横で悶えている弟に対して、冷たい姉である。

「姉さん何するのさ。可愛くて可愛い弟に。」

「私に可愛くて可愛い弟などおらん。このこの。」

京香は冷たく言い放ち、倒れている弟の背中を踏みつける。

「痛いいたい。背中ぐりぐりしないで。」

僕は立ち上がり、京香の肩に手を掛ける。

「京香、もうその辺で……。」

「まぁ、樹がそう言うなら……。」

彼女も満足したのか、足を離して座り直す。

 京くんはよろよろと身体を起こし、僕の隣にちょこんと座った。

「うぅ……いてて。」

「京くん、災難だったね。」

そう言って彼の背中をさする。首はまぁ、大丈だろう。

 ひとつの部屋に、幼馴染が三人。何かをしに来たわけでもなく。僕たちは完全に時間を持て余してしまった。

「さぁて、何しようか。」

「そうだね。何しようか。」

「何かするのは賛成なんだけどさ、二人ともまず僕から離れてくれないかな?」

二人は僕にベッタリとくっついて離れない。

 はじめは二人とも少し距離を空けて座っていたのに、徐々に幅を詰めてきた。そして気が付くと、二人とも僕の両肩に寄り掛かりスマホを弄っていた。

「んー、離れるけどさぁ、まずは京が離れてからだよね。」

「オレは姉さんが離れたら離れるよ。」

姉弟揃ってこんな調子なので、動くに動けない。

 両脇からいい香りがするが、それを言えば友情にヒビが入るだろう。沈黙は金だ。

「京香、京、ご飯できたからお皿出して……。」

扉を開けた祥子さんは、僕の現状を見て言葉を中断した。

「祥子さん……。これはですね。」

「待って。」

祥子さんは僕の言葉を制止して、ゆっくりと近いて来た。そしてゴロンと寝転がり、僕の膝に頭を置いた。

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