表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/52

 九月上旬。とある金曜日の昼休み。いつもの四人で集まって昼食をとっていた。

「体育疲れたね。」

「四時間目に体育は流石にキツいな。食欲も湧かないし。」

「もう少し真面目に授業を受ける生徒に配慮して欲しいものだよね。」

そんな言葉とは裏腹に武石と七咲さんは平気そうだが、永江さんはグッタリとしている。

「永江さん生きてる?」

「どうだろ?おーい生きてるかい?ほれツンツン」

机に突っ伏して永江さんの頬を突きながら七咲さんはそう声をかける。

「う、うぅ……。」

永江さんは七咲さんのイタズラにも抵抗せず、机に頬をつけて呻いている。

「生きてるってさ。」

「本当かよ。」

武石は困惑した表情を浮かべつつも、話を本題に戻す。

「なんでこう、授業で行進ばっかりやらされるんだろうな。一時間ずっとイッチニーサンシ。腕と喉が疲れたぜ。」

「時間をかけて練習して、完璧に統率の取れた団体なら行進ひとつで感動するんだろうけどね。」

七咲さんはそう言って、スマホの動画を見せてくる。画面には、どこかの大学の集団行動を撮影した映像だ。行進ひとつとっても、僕たちなんかとはレベルが違う。指先の角度まで揃っていて、凄いを通り越して怖いと思ってしまうほどだ。

「なんというか、凄いな。」

「綺麗とか揃ってるとか、そんな次元にいないよね。」

「でしょう。この動画見た時、感動の余り涙出ちゃったんだよねぇ。」

感受性豊かだ。感動系の映画など観たら、涙が止まらなくなるんじゃないだろうか。

「話は変わるんだがな。」

 昼休みも半分を過ぎたくらい。武石が神妙な面持ちで話し始める。ちなみに、永江さんはまだダウンしたままだ。

「体育の後さ、俺先生に呼ばれてたんだよ。」

「あぁ、そうだったね。僕だけ先に戻ったもん。」

「わたしたちはすぐ更衣室に行ったから気が付かなかったよ。それで、何で呼び出されたの?まぁ、大体察しは付くんだけどさ。」

七咲さんの言葉に、武石は溜息混じりに頷く。

「お察しの通りだよ。体育祭の部活対抗リレーに出ないかってな。」

「頑張ってな武石。僕は日陰で応援しているよ。」

親友の晴れ舞台ならば、応援しない手はない。京香もリレーには出ないようだし、武石が出ないなら部活対抗リレーの時間をどうしようかと考えなければならなかったところだ。

「まてまて、俺はリレーには出んぞ。」

「出ないんだ。てっきり、出るものかと。」

ようやく体力が回復したのか、永江さんがむくりと起き上がりそう言う。

「だって面倒だもん。どうせ俺が出んでも、他クラスや他学年にも帰宅部は沢山いるだろ。」

「まぁ、間違いないね。」

体育教師から見れば、僕たちのような量産型帰宅部はいくらでもいるのだろう。

 ここ数日、体育祭の準備などで学校全体が浮き足だった雰囲気だ。クラス内でも、ホームルームの時間を使って「誰がどの競技に出るか」などの議論が交わされている。

「雨天くんって、どの競技に出るんだっけ?ちなみにわたしは百メートルだけだよ。」

「僕も百メートルだけ。僕があれこれ出ちゃうと、足を引っ張るだけだけらね。」

「あんまりにも卑屈すぎないか?俺は二百メートルだけだな。永江はどうだ?」

「私、障害物競争。お昼の前、だね。」

「それじゃあ、俺たちの種目は全部午前中で終わるんだな。午後からどうしようか。」

「応援に決まってるじゃないの。むしろ武石くんは何するつもりなのさ。」

「いや、昼休憩終わりにバレないよう教室に残ってさ、閉会式までサボろうかと思ってな。」

「休憩終わりは良くても、閉会前にどうやって合流するのさ。コソコソ動いてても多分バレるぜ、親友。」

「むぅ。どう考えても分の悪い賭けだな。」

「大人しく、応援、してようよ。」

 武石の計画は草案の時点で終わりを告げた。そして今度は、七咲さんが口を開く。

「ねぇねぇ、今週の日曜日ってさ、みんな空いてるかな?」

「藪から棒にどうしたのさ。僕は空いてるけども。」

「俺も予定はない。」

「私も。」

どこか、遊びに行こうと言うのだろうか。9月に入ってから遊びに出かけていなかったので、渡りに船だ。

「日曜日にさ、みんなで遊ばない?」

予想的中。僕の答えはもちろんイエスだ。

「僕はご一緒させてもらうよ。」

「私も、同じく。」

「同じく同じく。」

僕たちの返答に、七咲さんは目を輝かせた。

「決まりだねぇ。それじゃあどこに行こうか。あの喫茶店でのんびりってのも良いよねぇ。」

「朝から買い物に行って、昼から喫茶店でお茶してってのはどうだ?」

「買い物って、武石なにか欲しいものでもあるの?」

「ん、あぁ。季節が変わる前に、服を買おうと思ってな。」

ファッションに気を遣っていたんだと、そう言いかけて失礼なので辞めておく。

「武石くん。それ採用で。日曜日の朝、いつもの駅前に集合で。」

七咲さんの宣言と共に、昼休みあと5分のチャイムが鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ