一
二学期が始まってはや数日。実力テストも無事終わり、少しずつ変化していく平穏な日常を謳歌していた。
「そう言えば、もうすぐ体育祭だよな。」
いつもの四人でお昼を食べていると、武石が唐突に口を開いた。言われてみれば、午前中の体育の授業で先生がそんなことを話していた気がする。
「体育祭かぁ。気は進まないけど、真面目に取り組まないといけないよね。」
「雨天くん何弱気になってるのさ。体育祭が終われば文化祭、球技大会とイベント尽くめだよ。」
「確かうちの高校って、体育祭が終わってすぐに文化祭の準備があるんだよな。実行委員とか、そろそろ決めるんじゃないか?」
「先生に目を付けられないようにしないと。」
「私も、同感。」
「もー、二人ともなんでそんなにやる気がないのさ。」
後ろ向きな僕と永江さんに向かって、七咲さんは机を叩く。バンッというよりは、タンッという感じの音。力加減ができているのか、はたまた非力なだけなのか。
昼休みの教室は賑わっており、僕たちが多少大声を出したとて、誰も気に留めることはない。
「体育祭、どうせメインは運動部の奴らだ。同然だ、普段から汗流して部活に取り組んでいるんだからな。輝く機会があって然るべしだ。」
武石は腕を組み、分かったようなことを口にする。
「武石くんさ、さては朝から配られた体育祭の種目(仮)に目を通してないな。先生の話聞かずに後で友達に聞くマンだな。」
「当然、一行目から見てないぞ。」
「胸張ることじゃないでしょ。」
「それで、種目に何か問題があるのか?」
「これ、午後の始め。」
僕たちが話している間に取り出していてくれたのか、永江さんが一枚のプリントを武石に渡す。
「えーなになに、昼一番から部活動対抗リレーか。これって別に俺たち関係ないんじゃないか?ん、各学年から帰宅部を二人ずつ出してリレーに参加?」
「そういう事。生徒全員参加のためなのか、運動部の優位性を示したいのか知らないけどね。」
「まじかよ。」
「それで、わたしと武石くんは声かけられるんじゃないかって話なんだよ。」
「七咲はともかく、俺もなのか?」
「武石、中学の頃水泳部で良いところまで行ったんでしょ。何か話が来てもおかしくないんじゃない?」
「それを言うなら、お前だって野球部だったろ?」
「僕はほら、ベンチ要員だったから。」
「そうか、すまん。」
気まずそうな顔で、武石は謝ってくる。別に、他の部員との関係も悪くなかったし、体力作りになったから後悔もないのだが。
武石が押し黙ってしまったが、七咲さんがすぐに口を開いたおかげで会話が途切れない。
「永江ちゃんは、確か美術部だったよね?高校に上がってからも、やろうとは思わなかったの?」
「絵描くのは好きだけど、部活に参加してまで、やろうとは、思わなかった、から。」
「七咲も、陸上続けなかったのか?」
「えっとねぇ……。」
七咲さんは少し考える仕草をして、自身の足首を僕たちに見せてた。
「実ねぇ、練習中に少しやっちゃっててね。ずっと全力で走ったりしてないんだ。」
彼女の足首には生々しい傷跡があった。
「七咲、すまん。配慮が足りなかったな。」
「別にいいよぉ。走るのは好きだったけど、タイムタイムの練習には嫌気がさしてたし。良いきっかけだったよ。」
七咲さんは陽気に笑う。
「それじゃ、七咲さんは部活動対抗リレーは参加しないの?」
「うん、そのつもり。だから武石くん、頑張ってね。」
「俺もやりたくないんだがな。まぁ、もし声をかけられたら考えるわ。」
武石は面倒くさそうな顔をしながら、あんぱんを口に含む。
話は変わり、文化祭の話。
「ところで、文化祭の実行委員っていつ頃に決めるのかな?」
体育祭が終わってすぐなら、話が出てきてもおかしくないと思う。
「うーん、どうなんだろうね。」
「体育祭が終わってからじゃないか?俺の芸術的な感性がそう言っているぜ。」
日程のあれこれに芸術も何もないだろうと思ったが、言わないでおく。
「文化祭、何やるんだろうね。体育祭も、できるだけ軽い種目が良いな。」
「それは負担か?点数か?」
武石の問いかけに答えつつ、弁当箱を片付ける。
「理想は両方だね。」
「俺も同感だな。なんならサボりたい。」
「サボるのはダメだよ。体育祭を友達と応援するのも、青春の一ページだよ。」
「青春は、ともかく、サボるのはよくない。」
欲を口に出した親友は、女の子二人から糾弾された。
体育祭、正直言って面倒なのだが、参加することに意義があるのだろう。とは言え、種目は控えめなものに選出されるよう、祈っておこう。




