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三十四

 八月二十五日のこと。午前八時頃に、僕のスマホに着信が来た。画面を見ると、武石から。

「はいはい、雨天ですよ。」

「お、出た出た。俺俺。」

武石は朝から陽気な声で話してくる。今日は、僕の方からふざけてみることにした。

「詐欺の電話ならお断りなんだけど。」

「詐欺じゃねぇよ。俺だよ、武石大志だよ。」

スマホから困惑した親友の声が聞こえてくる。

「本当に武石かどうかは、電話越しだと分かりかねるよね。本物だと証明する為に、いくつか質問をさせて貰うよ。」

「おう、かかって来い。」

「武石は『健康で文化的な最低限度のパンダ』というアニメ作品が好きなのですが……。」

「正確にはマンガ原作だけどな。」

「ゲームセンターのクレーンゲームで、パンダを取るために使用したお金はいくらでしょう?」

「簡単だな。四千六百円だ。そのうち千三百円はお前が出してくれたんだけどな。」

「それで結局取れなかったんだから、悲惨だよね。」

「予約の時間が来たんだから仕方ないさ。それに、あれ以上浪費してたらヤバかった。」

不幸中の幸いだと、彼は笑っていた。

「もう俺だという確証は持てただろう。」

「最初から分かってたけど、そうだね。それで、朝から電話して来たのは、何の用事?」

「あぁ、そのことなんだがな。実は積み上がっている課題の量が中々ヤバくてな。手伝ってくれとは言わないから、俺がサボらないよう見張ってて欲しいんだよ。」

「そういう事なら、いいよ。また学校に集合する?」

「そうだな。七咲と永江にも連絡しておくから、九時くらいに図書室に集合ってことで。」

「了解。それじゃ、また後で。」

そう言って電話を切る。僕の課題は、京香に教えてもらったこともあって、八月半ばには終わっていた。

 新学期の始めには実力テストがあるので、武石の課題ついでに、テスト勉強をしようと思う。僕は勉強道具を鞄に入れて、制服に着替える。夏休みとは言え校舎に入るなら制服を着ていなければならない。面倒だが、ルールなので仕方がないだろう。

 この日、空には雲が覆い被さっており、普段よりは過ごしやすい日だった。額の汗をハンカチで抑えつつ校舎に入ると、ご無沙汰だった親友が迎え入れてくれた。

「おはよう、雨天くん。」

「永江さん、おはよう。みんなはもう来るかな。」

「うん、たぶん、雨天くんが、最後。」

「そっか。」

珍しく、僕が最後だったようだ。

図書室に入ると、武石と七咲さんが手招きする。

「おぉ、こっちだ。」

「雨天くんおはよう。今日は少し涼しいよね。」

 四人集合したところで、僕は切り出す。

「さて武石、課題が積み上がってるって言ってたけど、実際どれくらい残っているの?」

「それがな。」

武石は鞄から問題集を次々に机の上に積み上げる。

「えっと古典に英語、現代文と数学ってかなり残ってるじゃない?武石くん初日以降やってなかったの?」

「いや、最初の二日三日は少しやってたんだがな。どんどんダレてきたんだよな。」

「まぁでも、頑張ってやるしかないよね。僕はテスト勉強してるから。」

「じゃあわたしもそうしよっかな。」

「私は、武石くんの、課題、教えるよ。」

「な、永江が教えてくれるのか。」

「不満でも?」

「無いです。よろしくお願いします。」

しょんぼりした顔で武石は頭を下げる。テスト勉強をして以来、永江さんには頭が上がらないらしい。

「ところで、お前たちは課題終わったのか?」

「僕はつい先週終わったよ。今日はテスト勉強も兼ねてきたんだ。」

「私も、八月半ばに終わった。」

「わたしも七月のうちに終わらせたよ。」

「七咲さん、話は聞いてたけど凄いね。」

「いやぁそれ程でもないよ。」

「それに比べて、武石くん。」

「はい、反省しています。来年からは計画性を持って取り組みます。」

武石はまず、英語の課題から取り組むようだ。

「英語は少しだけ進めてたんだ。他はまっさらだけどな。」

武石にならい、僕も英語の勉強をしようか。教科書を開き、一学期の範囲を確認する。慌てて夏休みの課題をするのも、いわゆる青春の一ページだと、そう思った。

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