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三十

 夏休み初日。僕は暇を持て余し、ベッドに寝そべり自室の天井を眺めていた。結局、前日は幼馴染の家で夕食までご馳走になり、遅い時間まで課題に取り組んだ。その結果、英語と物理の問題集を解き終えてしまい、盛大に燃え尽きてしまっていた。

 大きな欠伸をして、何をしようか考える。時刻は午前八時半。いつもより遅く目覚めたが、時間はまだまだある。何もしないという選択肢もあるが、勿体無い気もする。

 何かしたいが、予定もない。課題をやろうにもやる気が出ない。目を瞑り、どうしようかなと思考を巡らせる。ふと思い立ち、顔を洗う。制服に着替えて、鞄を持って家を出た。

 鞄の中には手を付けていない課題をいくつか入っている。家だと課題に集中できないなら、学校で課題をすればいい。捗るかどうかはともかく、何もしないよりはマシだろう。

 午前九時頃。校舎は運動部の声が校門まで響いている。時間を考えずに校舎に着くのは、なんと気楽なことだろう。

「あれ?雨天くん、どうしたの?」

背後から声がしたので振り返ると、七咲さんが立っていた。

「七咲さん。僕は図書室で課題でもと思ってきたんだけど……。

「おぉ、奇遇だねぇ。わたしも、家だと怠けそうだったから来てみたんだぁ。せっかくだし、一緒に課題しよ。あ、そうだ。永江ちゃんたちも呼んでみようか。」

僕の返答を待たずに、彼女はスマホでメッセージを送る。

「二人ともすぐ来るってさ。先に図書室に入っとこうよ。外だと暑いしね。」

「賛成。もう、汗かいてきちゃったよ。」

僕たちは図書室に入り、てきとうな席に座る。夏休みということで、図書室はがらんとしていた。僕たち以外に生徒はおらず、用務員ひとりカウンターに座っているのみだった。

 図書室について十数分、武石と永江さんが合流した。

「おぅ、お待たせ。誘ってくれてありがたいぜ。」

「お、おはよう。」

「二人とも、待ってたよ。」

七咲さんは笑顔で二人を迎え入れる。

「急に七咲から連絡が来たから驚いたよ。学校に来て課題をやろってんだから。」

「でも、武石くん、誘われないと、やらない。」

「いやぁ、それはどうだろう。」

永江さんに図星を突かれたのか、武石は顔を逸らして頭を掻いている。

「まぁ、四人揃ったことだし、課題やろうよ。みんな今日の予定は?」

「わたしは何にもないよ。」

「同じく、暇人だ。」

「私も、予定は、ない。」

「なら、いい時間まで課題やって、その後どこか遊びに行かない?夏休み初日だしさ、どうかな?」

「いいんじゃないか、俺も付き合うぜ。お二人さんは?」

「私も、行こうかな。」

「いいねぇ、わたしも行く。あ、これってもしかしてダブルデートってやつ?」

「だとしたら誰と誰が恋人なのさ。」

「そりゃあわたしと、永江ちゃん?」

「するとなにか?俺とコイツでカップリングか?」

「ごめん、武石。きみとは、友達同士でいたいかな。」

「おい待て、俺がフラれたようにするんじゃない。俺だって野郎はゴメンだぜ。」

武石がそう言って立ち上がると、用務員がわざとらしく咳払いをした。

「おっと、危ない。」

七咲さんは人差し指を口の前に立てて、しーっというジェスチャーをする。

「元はと言えばお前が始めたんだけどな。」

「気にしなーい気にしない。それより、三人ともなんの課題を持ってきたの?」

「何をいうかと思えば、学校の課題に決まってるぜ。」

「そういう、話じゃない。私、現代文の問題集。」

「僕も現代文の問題集。」

「そういう話か。俺は物理の問題集を持ってきたぞ。」

「武石くんはおバカさんだねぇ。わたしは英語の問題集を持ってきたよ。昨日少しやってたから、今日で終わらせるつもり。」

「七咲は真面目だな。」

「これでも優等生ですから。」

七咲さんが得意げに胸を張る。永江さんはどうしたものかとキョロキョロして、七咲さんの頭を撫でる。

「よしよし。」

「えへへ。」

顔を緩める七咲さんの姿が、京くんと重なった。前にも思ったが、似たもの同士なのかもしれない。

 機会があれば紹介してみたいと思う。

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