二十五
幼馴染三人で大富豪をし、最下位になった僕は罰ゲームで幼馴染の制服に袖を通すことになってしまった。僕と京香の間に気まずい空気が流れる中、京香の後ろから京くんが口を開いた。
「おぉ、樹さん似合ってるじゃない。」
「いや、恥ずかしいんだけど。もう脱いでもいいかな?」
スカートを初めて履いてみたのだが、足元からスースーしてどうも落ち着かない。
「だめ。脱いじゃだめ。」
京香が凄い勢いで僕の肩を掴み、顔を詰めてくる。心なしか息遣いが荒い。
「あ、あの、京香さん?」
「樹、一回その格好でくるっと回ってもらっていい?」
「こう、かな?」
言われるがまま、その場で一回転してみる。スカートが少し浮いて、くすぐったくなった。あと、やってみるとかなり恥ずかしい。
「これでいい?もう脱ぐよ。」
「だめ。絶対だめ。何ならボクが樹の制服を着るから。きみはずっとそれを着てていいから。というかボクのお嫁さんにならない?苦労はさせないから。」
「なんで僕がお嫁さんなのさ。一般的には京香が嫁になるべきでしょ。」
「あ、うん。そうだね。ボクが樹のお嫁さんだね。」
僕の言葉に俯く姉を他所に、京くんが近づいてきた。
「ねぇねぇ、オレは?お嫁さんになってくれないの?」
「はいはい、大きくなったらね。」
彼の頭を撫でながらてきとうに言葉を返す。だいたい、男同士だからお嫁さんも何もないだろう。
実は京くんはアホの子なんじゃないかと、素朴な疑問を抱えながら二人を部屋から追い出す。
「それじゃあ、僕はもう着替えるから。髪飾りも取るからね。出て行って。」
「あーんもう少しぃ。」
「言質、言質とったからね。」
まだ何か言っていたが、無視して扉を閉める。制服を脱ぎ、自分の上着に袖を通す。脱いだ後のスカートを見て、再び恥ずかしさが込み上げた。
数分して、二人は部屋に入ってきた。京香は僕が脱いだ制服を見て、残念そうな顔をしている。
「この大量の髪飾りってどこにしまうのかな。」
「あぁ、そこの小物入れだね。オレがしまうよ。ついでにほら、姉さんの制服も。」
「京くんありがとう。」
僕はお礼を言いつつ京くんに髪飾りと制服を渡す。彼は髪飾りを小物入れに仕舞い込み、制服を顔に近づける。
「スゥーハァーって痛いっ。」
制服を顔に押し当てていた京くんの頭に、京香の手刀が下ろされる。
「何するのさ姉さん。可愛い弟の頭を何度も叩いて。」
「自分のことを可愛いと言っている中学生なんざ、未来永劫可愛くないぜ。」
京香の日本語がおかしくなっている。
「そんなことより、なにひとりで樹フレーバー堪能してるんだよ。」
「姉さんの制服なのに、ほのかに樹さんの香りがするよ。学校で勘違いされないように消臭しとくね。」
「ありがとう、京くんは気が利くね。」
「ストップ。ストーップ。」
彼女は慌てた様子で京くんから制服を奪い取る。
「これは、ボクのだからっ。ボクが管理して然るべき。」
また日本語がおかしくなりながら、制服をタンスに入れる。香りに関して、何か拘りでもあるのだろうか。
三人とも暴走気味になってしまったので、お茶でも飲んで一息つこう。
「それでさ、樹が制服脱いじゃったから大富豪はいったん終わりかな。」
「一度も勝てなかったことが釈然としないけど、まぁいいや。トランプで別のゲームでもやる?」
「それならさ、三人でお昼食べに行かない?もう正午だし、オレお腹空いちゃった。」
京くんはそう言ってペロリと舌を出す。こういう仕草が、良くも悪くも男の子っぽくないんだ。頭を撫でてやろう。
「よーしよしよし。」
「うへへへへ。」
「なにしてるんだか。ほら、ご飯食べに行くんでしょ。何か食べたい物とかある?」
「僕はハンバーガー。」
「オレは人間で食べたい物はハンバーグ。」
「ボクも人間で、今食べたい物はパスタかな。」
まるで打ち合わせをしたかのようなコンビネーションにより、ハンバーガーにされてしまった僕。流石は姉弟と言ったところか。
「とりあえず、ファミレスにでも行こうか。」
こうして美男美女の姉弟と、ひとつのハンバーガーは昼食のため家を出た。




