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二十四

 幼馴染三人で、大富豪を始めてはや数戦。僕は見事なまでの大敗を喫していた。一位は京香と京くんの間で常に入れ替わっていたが、僕は一人最下位をひた走っている。そして、最下位になる度にリボンから始まったファンシーなアクセサリーが僕の体に付けられていた。

 一位を取らないにしても、今回こそ最下位を回避しなければならないのだが。

「よし。今回はボクが一位だね。」

「うーん、二位か。惜しかったな。」

「ま、また最下位。」

手札を三枚残したまま、僕は崩れ落ちる。頭に付けられた鈴の髪飾りがチリンと音を鳴らす。

「さて、最下位になった樹には罰ゲームを受けてもらおうかな。次は何にしようか。」

京香は心底楽しそうに、アクセサリーを漁る。

「あのう、京香さん。」

「何かな?大貧民くん。」

「できればですね、できればなんですけども、アクセサリーはもう頭に付けれないかなと。」

「そうかな。京はどう思う?」

彼女は一応僕の言葉に耳を傾けてくれ、弟に判断を煽る。

「そうだね。オレからすれば、まだまだいけると思うんだけど。樹さんがそう言うんなら他の物を探してもいいかも。」

「それなら、これはやめとこうか。」

京香はそう言って、花のヘアピンやら口紅やらをしまう。危ないところだった。

「それなら、どれがいいかなぁ。」

「まってまって、オレも探す。」

姉弟揃って京香の部屋のタンスやらを漁っている。下心なんかは一切ないが、女の子の部屋なんだから下着など放るのはやめて欲しい。どこを見ていていいのか分からなくなる。

 暫くガサガサと部屋を漁っていた二人だが、何か見つけたのか、顔を見合わせてボソボソと何か話している。

「これなんかどうかな。」

「さっきから姉さんの物ばっかり付けてない?」

「なら京の制服でも持ってくる?」

「それは……ちょっと。」

「でしょ。それに、今回の一位はボクなんだから。」

「う、仕方がない。」

「よし。それじゃあ、樹にはこれを着てもらおうか。」

振り返った京香が手に持っていたのは、僕たちが通っている高校の制服だった。

 その制服は確かに僕が通っている高校のものだが、彼女の物。つまるところ女子用の制服だということだ。

「待て夏妃。それはマズイと思うんだ。」

「なまえ。」

「き、京香。それを僕が着るのは良くないと思うんだ。」

「なんで?ボクの制服を誰に着せようが自由じゃない?」

「いや、しかしだねぇ……。」

異性の制服、それも幼馴染の物となると、色々と憚られる。そしてなにより、ごく一般的な感性の持ち主である僕にとって、なんの理由もなく人前でスカートを履くのは恥ずかしさを感じてしまう。

「樹、負けたよね。大富豪。」

「うぐっ。」

「罰ゲームも了承してたよね?」

「うぐぐ。」

「着てくれるよね?」

「うぐぐぐ。」

「樹さん、観念した方がいいよ。姉さんからは逃げられないし、オレも逃がさない。」

僕の周りは敵ばかり。逃げ出すことはできないということ。そして、ここまで話が進んでしまった以上、罰ゲームを別のものにすり替えることも難しいだろう。

 僕は観念して、京香から制服を受け取る。手に取った制服からはフワリと良い香りがする。

「それじゃあ、着替えるから少し席を外してくれないか?」

「そうだね。ボクたちは一旦部屋を出るよ。」

「うん。見てちゃ、悪いもんね。」

二人はそう言って部屋を出て行った。扉が閉まったことを確認して、僕は上着を脱ぐ。そして目の前にある幼馴染の制服を見て、ため息をつく。一度は観念したものの、いざ着るとなるとやはり気が引けてしまう。

 五分後。扉がノックされて、京香たちが戻ってきた。

「どう、着れたか、な?」

京香は扉の前で立ち止まり、呆然と僕を見ている。

 彼女の前に立っていたのは、いくつもの髪飾りをつけて、異性の制服を身にまとった幼馴染。つまり、彼女の制服を着た僕だった。


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