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二十三

 前回のあらすじ。幼馴染を名前で呼ぶことを強要された僕は、屈することしかできなかったのである。

「それじゃあ、何しようか。」

京香は満足げに言う。もう目的は果たしたとでも言いたげな表情だ。

「どうしよう。今日は、期末テストを無事乗り切ったのと、勉強を見てくれたなつ……京香に感謝を伝えるために来たんだけど。」

「それじゃあもうお疲れ様で良いんじゃない?樹さん、オレの部屋でゲームしようよ。」

「アンタはひとりでゲームしてなさい。樹はボクに会いに来てるんだから。それでどうしようか。テストも終わったから勉強するのもねぇ。トランプタワーでも作る?」

京くんに冷たい視線を向けつつ、京香は本棚に置いてあったトランプを手に取る。

「せっかくだし、京くんも混ぜて三人でできる遊びにしようよ。ババ抜きだって大富豪だってあるんだから。」

「それじゃあ、大富豪しようよ。姉さんも良いでしょ。」

「ローカルルールはどうする?ボクたち何回も一緒にやってたから、知らないルールはないだろうけど。」

「七渡し、十捨て、十一バック、革命ありで階段革命はなし。ジョーカーあがりは最下位でどう?」

「いいんじゃない?」

僕は京くんの提案に頷く。

「京香はどう?」

「うーん、そうねぇ。京、色とマークの縛りは?」

「マーク縛りはありにしようか。色縛りはなし。」

「良いよ、やろうか。せっかくだし、罰ゲーム込みでね。」

そう提案する京香は、明らかに悪い顔をしていた。京くんに想像もつかないようなことをさせるつもりだろうか。一抹の不安を抱えながら、手の中でカードを混ぜる。

「罰ゲームはどうやって決めようか。僕はどんなものでも構わないけど。」

「そうだねぇ。」

京香と京くんは顔を見合わせて、姉弟で通じたのか頷きあっている。

「ありがちだけど、一位の人が最下位に命令ってことにしようか。京もそれで良いよね?」

「うん。オレは構わないよ。樹さんも良い?」

「いいよ。それじゃ、カード配るね。」

こうして、罰ゲームありの大富豪勝負が始まった。理想としては、僕が一位を取って当たり障りのない命令をすること。この姉弟は、何を命令するのかわかったものじゃない。

 大富豪を始めて数分。

「はいあがり。ボクが一位だね。」

「じゃあオレの番。階段からの、ペアであがり。樹さんが最下位だね。」

考え方か戦略か、僕の手札を四枚も残したまま二人ともあがってしまった。僕の手札は決して悪くなかったのだが、どうしてか手も足も出ずに負けてしまった。

「それじゃあ、罰ゲームを決めよっか。」

京香がニヤリと笑う。悪い顔、何かを企んでいる顔だ。

「何がいいかな、何がいいかな。」

どこかで聞いたリズムで口ずさんでいる。いったい何をやらされるのか。

「ねぇねぇ、姉さん。これなんか良いんじゃないかな。」

そう言って京くんが見せてきたのは、水色のリボン。京香が小学生の頃、髪に結んでいたものだ。

「いいねぇ。我が弟ながら素晴らしいよ。」

京香は京くんからリボンを受け取ると、視線をこちらに向ける。嫌な予感。

「あのぅ、京香さん?そのリボンで何する気ですかね。」

「大丈夫だよ樹。何か起こっても、ボクたちだけの秘密だから、ね。罰ゲームなんだから、抵抗したらダメだよ。」

罰ゲームを了承したのは僕なので、何も言い返せない。

 僕はされるがまま、後頭部にリボンを結び付けられた。

「可愛いよ樹。似合ってるよ、輝いてるよ。」

京香は含み笑いを浮かべながら、スマホのカメラを向ける。

「そう気を落とさないでください。」

「京くん……。」

「今の樹さん、すっごく可愛いから。」

「うるさいやい。」

鏡も見てないので、今の自分がどれだけヘンテコな有様なのかを確認する事ができない。

「二回目やろう、二回目。次は僕が一位になって二人に辱めを受けさせてやる。」

僕は立ち上がり、高らかに宣言する。そんな僕に対する、二人の視線は冷静だった。

「言っとくけど、勝ったからってリボンは外させないからね。」

「分かってるとも。だからこそ、リボンが霞むほどの罰ゲームを受けさせてやるんだよ。」

そう言いつつ、三人分のカードを配る。第二ラウンド、僕の復讐はここから始まる。

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