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二十一

 土曜日の朝。僕は小学校の頃からの幼馴染の家の前に来ていた。時刻は午前九時。早過ぎるような気もするが、夏妃に、

『朝九時くらいから来てね。』

というメッセージが送られて来たので、言われるがままに彼女の家の前に来ていた。

 夏妃の家は、僕の家からあまり離れていない所にある。家が近かったこともあり、中学生の頃は互いの家によく出入りしていた。高校に入ってからは、すっかりご無沙汰になってしまっていたが。

 それにしても、何度も来たことがあるとは言え、異性の家は緊張するものだ。

「あれ?樹さん。どうしたんですか?」

緊張を和らげるために深呼吸をしていると、家からひとりの男の子が出てきた。

「あ、けいくん、久しぶりだね。」

「お久しぶりです。」

京くんは丁寧に頭を下げる。幼さが残る端正な顔立ちの彼は僕の幼馴染、夏妃なつき京香きょうかの二つ歳下の弟。僕も小さい頃から交流があり、昔はよくゲームなんかして遊んでいた。

「今日はどうしたんですか?樹さんがウチに来るなんて久々ですけど。」

「先週、きみの姉さんに勉強を見てもらってね。そのお礼をしたいって言ったら、こうしてお呼ばれしたわけなんだ。」

「なるほど。だから姉さん、朝から僕を追い出そうとしてたんだ。ズルいなぁ。」

「うん?どうしたの?」

京くんは何かボソボソと呟いたかと思うと、パァッと笑顔を見せて僕の腕にしがみついてきた。

「なんでもないです。それより、今日はオレと遊びません?前みたいに一緒にゲームしましょうよ。」

「いや、今日は京香の方に呼ばれてるから。」

「良いじゃないですか。ね、樹お兄ちゃん。」

お兄ちゃん呼びは京くんが僕に何かをねだる時、よく使っていた手法だ。端正な顔立ちに甘えん坊だが素直な性格、こんな弟がいればと常々思っていた。

「姉さんにはオレから言っておくからさ、ね。」

「ううむ。あ、前みたいにさ、三人で遊ぼうよ。」

僕の提案に、京くんは頬を膨らませる。

「イヤだなぁ。オレは二人で遊びたいんだけどなぁ。」

僕の耳元でそう囁き、ふっと息を吹きかけてくる。僕だからいいが、どこでこんなものを覚えてきたのだろうか、この中学生は。容姿が良いせいで、同性なのに妙に色っぽい。

 どう落とし所をつけようかと途方に暮れていると、背後から聴き覚えのある声が聞こえた。

「ちょっと京?ボクのお客さんを困らせないで。」

刺々しい声色。振り向くと声の主は、険しい表情で仁王立ちしていた。

「あ、夏妃。おはよう。」

「うん。おはよう樹。京、樹はボクに会いに来てるんだから、どこか行ってなさい。」

「ふんだ。姉さんは学校でも会ってるじゃない。オレはこういう時にしか会えないの。」

「学校じゃあクラスが違うからあんまり喋れないんだよ。それに、いつまで腕を組んでるつもりさ。」

夏妃は僕の腕にくっついている京くんを指差す。腕を組んでいるつもりは無かったが、側から見たらそう見えてしまうのだろうか。

「待ってくれ、夏妃。ほら、僕たち男同士だからさ。ちょっと戯れあっていただけで……。」

僕の言葉に、どういうわけか京くんがピクリと体を震わせる。

「男同士ねぇ。ふうん。」

夏妃は鋭い視線で京くんを睨みつける。

「まぁいいよ。樹、遠慮せずに上がって。京はお客様に飲み物を出してあげて。」

「はぁい。」

京くんは意外にも素直に返事をし、僕の腕から離れて行った。身軽になった右腕をさすり、二人の後について行く。

「ほら、樹も早く入って。外は暑いでしょ。」

夏妃に急かされるまま、僕は彼女の家にお邪魔する。

 久々にお邪魔した幼馴染の家は昔の記憶のままで、懐かしさが込み上げてくる。

「樹さん、こっちだよ。」

お兄ちゃん呼びをやめた京くんに案内され、夏妃の部屋に入る。夏妃の部屋は、ぬいぐるみなどが増えて中学生の頃とは少し変わっていた。

「ほら、樹も座りなよ。」

 変わった部屋に過去の面影を感じつつ、僕は幼馴染と向かい合うようにして座った。

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