もうどうでもいいか
「にゃーん?」
イワーヌシュカの心が揺れる。
(だ、ダメだ……騙されるな……!!)
猫は純粋に甘えているだけなのだろう。しかし、イワーヌシュカの心の傷は深かった。
包帯が巻かれたちんちんの痛みが、今日一日の苦難を思い出させる。
イワーヌシュカは布団をかぶり、現実から目を背けた。
猫はその上で丸まり、再びゴロゴロと喉を鳴らす。
ねこかわいい。
でも、ねこは怖い。
・・・・・・
イワーヌシュカは覚悟を決めた。
肉球ぷにぷに、最高か。
今までの苦しみと恥ずかしさがすべて薄れていくような感覚。
「……もうどうでもいいか」
猫の可愛さに心を奪われた彼は、布団の中でふと手を伸ばして猫をもう一度引き寄せた。
猫は甘えたように体を丸め、イワーヌシュカの腕の中でくつろぐ。
「……なんだか、やっぱり、落ち着くな」
イワーヌシュカは、再び猫を包み込むように抱きしめた。
そして、腹をくくると、猫にふみふみをさせる決断をした。
猫は何も知らずに、再びイワーヌシュカの下腹部に足を乗せ、軽くふみふみと始めた。
「ああ、ぷにぷに、最高だ……」
その感触に酔いしれながら、イワーヌシュカは完全に心の中で開放されていた。
もう、何も怖くない。
ねこかわいい。ねこ無罪。
猫のぬくもりと、肉球のぷにぷに感に包まれながら、イワーヌシュカは穏やかな眠りへと導かれた。
・・・・・・
「ぎゃあああああああ!!!!!!!」
夜中、兵舎に絶叫が響き渡った。
まただ。
またやられた。
イワーヌシュカは飛び起き、自らの尊厳を押さえながら悶絶する。
「おまえええええ!! なんで噛むんだあああ!!??」
猫はケロッとした顔で、ちょこんと布団の上に座っていた。
そして、無邪気な顔で——
「にゃーん♪」
「無罪じゃねえぇぇぇぇぇ!!!!!!」
イワーヌシュカの悲痛な叫びが響き渡る。
***
「お前は何度同じことを繰り返せば気が済むんだァァァ!!!!!」
上官にこっぴどく怒られる。
イワーヌシュカは敬礼しながら、ぼろぼろになって涙目で立っていた。
「す、すみません……」
「猫は軍規で飼育禁止だと言っているだろうが!!!」
「……でも……でも……」
「言い訳するな!! そもそも何でまた噛まれてるんだ!!! ていうかお前、またドクターに診てもらうつもりか!!??」
「ううう……」
イワーヌシュカは震えながら、再び軍医の医務室へ向かう。
***
「……またか」
ニニアンは冷めた目でイワーヌシュカを見下ろした。
イワーヌシュカは涙目だった。
「……頼む、また診てくれ……俺の……大事な……」
「はいはい、ズボン下ろせ」
「うう……お婿に行けない……」
「お前、前回もそれ言ってたな」
ニニアンはため息をつき、また手袋をはめる。
そして、またしても軟膏と包帯の時間が始まるのだった。