痛てぇんだよぉ……!!!
「痛てぇ……マジで痛てぇ……」
イワーヌシュカは布団の上で丸まりながら、じんじんと痛む下半身を押さえた。夢とまったく同じことが現実におこり、しかも上官には怒られ、兵舎の仲間たちには爆笑されるという散々な結果になってしまった。
だが問題はそこではない。
「……これ、ヤバくね?」
猫に噛まれた場所にそっと触れると、鋭い痛みが走った。もし傷が悪化したらどうする? もし腫れ上がってしまったら? もし感染症にでもなったら……!?
考えれば考えるほど恐怖が募る。イワーヌシュカは青ざめ、震えながら決意した。
「……ドクターに診てもらうしかねぇ……!」
だが、その瞬間、新たな問題がイワーヌシュカの脳内に浮かび上がる。
「いや待て、それってつまり……俺はドクターにちんちんを見せなきゃならねぇってことか……?」
この現実に気づいた途端、イワーヌシュカは激しく動揺した。
「ヤバい、無理だ、そんなの死んでも無理だ!! いや、でも、このまま放っておいてヤバいことになったらもっと無理だ!!」
悶絶しながら布団の上でのたうち回る。猫はそんなイワーヌシュカを冷めた目で見つめながら、しれっと丸くなって寝ようとしていた。
イワーヌシュカは布団を頭からかぶり、うめき声を上げた。
「……恥ずかしすぎる……でも……でも……!」
最終的に、彼はゆっくりと布団から這い出し、顔を真っ赤にしながら医務室へ向かうことを決意したのだった。
***
イワーヌシュカは軍の医務室の前で立ち止まった。扉の向こうからは、ニニアンが書類をめくる音がかすかに聞こえる。
「……どうする、俺?」
彼は拳を握りしめた。
自分のちんちんは、将来の嫁さんにだけ見せると決めていた。それは男としての誇りであり、信念であり、何よりも大事な約束だ。
だが——
「痛てぇんだよぉ……!!!」
ズキズキと響く痛みが、彼の決意を揺るがせる。
このまま放っておいて悪化したらどうする? 一生取り返しのつかないことになったら? そんなことになったら、嫁さんどころの話じゃない。むしろ、未来永劫「見せるもの」そのものが失われる可能性だってある。
「……ダメだ、行くしかねぇ!」
覚悟を決めたイワーヌシュカは、意を決して扉を開けた。
——ギィィィ。
室内では、ニニアンが机に向かって書類を整理していた。彼は顔を上げ、イワーヌシュカを一瞥する。
「どうしたんです? こんな時間に」
「……あー……」
イワーヌシュカは言葉を詰まらせた。冷静なニニアンの視線が妙に鋭く感じられる。
「具合が悪いのですか?」
「……ま、まあ」
「どこが?」
「えっと……その……」
イワーヌシュカはもじもじしながら視線を泳がせた。いざとなると、やはり言葉に詰まる。
「……言いづらい場所ですか?」
「……」
ニニアンは一瞬、考え込むように顎に手を当てた。
「となると、股か。下腹部か……?」
「!!」
イワーヌシュカはビクッと肩を震わせた。
「……あ、あぁ……」
「なるほど。」
ニニアンは特に驚く様子もなく、椅子から立ち上がった。
「ズボンを下ろしてください」
「うわああああああああ!!!」
イワーヌシュカは思わず頭を抱え、床を転げ回った。
「無理無理無理無理!! 俺のちんちんは嫁さんにしか見せねぇんだ!!!」
「……は?」
ニニアンがあからさまに訝しげな顔をする。
「いや、でも痛い! でも恥ずかしい!! でも痛い!!!」
イワーヌシュカは苦悶の表情で自らの葛藤にのたうち回る。ニニアンは呆れたように腕を組んだ。
「何があったか知りませんが、患部を見ないことには診察もできませんよ」
「うわああああ!! でも!! でも!!!」
イワーヌシュカは叫びながら、床に突っ伏した。
ニニアンはため息をつき、腕を組んで冷静に言った。
「選んでください。私に診てもらうか、それとも、このまま放置して将来のお嫁さんに『どうしてこんなことに!?』と泣かれるか。」
「ぐっ……!!」
その言葉はイワーヌシュカの心を深く抉った。彼は苦しげに呻きながら、震える手でズボンのベルトに手をかける。
「……くそっ……!! ……頼む……」
こうして、イワーヌシュカは己の誇りと引き換えに、医務室の診察台へと座ることになったのだった。