にゃん?
イワーヌシュカはニニアンの話を頭の中で整理しながら医務室を後にした。何か大きなものを掴んだ気がするのに、心の中にはまだ霧がかかったような疑問が残り、どうしてもすっきりとしない。彼は廊下を歩きながら、足元に浮かんだ不安を振り払おうと必死に思考を巡らせた。
そのとき、突然、静かな廊下に響くかすかな音が聞こえた。
「にゃーん」
その音が、確かに猫の鳴き声だったことに気づくと、彼の体は瞬時に硬直した。
「うわ!」
イワーヌシュカは足を止め、すぐに目を凝らした。音のする方向に視線を向けると、そこには…小さな黒猫が丸まって座っていた。まるでその場に突如として現れたように、猫はじっとイワーヌシュカを見つめていた。
その瞬間、イワーヌシュカの胸に冷たい恐怖が走った。夢の中で見たあの猫が、現実に現れたのだ。猫の瞳が彼をじっと見つめる。まるで何かを期待しているかのような、鋭い視線がイワーヌシュカを貫いた。
「う・・・・・・、うわぁぁっ!」
イワーヌシュカは驚きと恐怖で声を上げ、反射的に両手で下半身をかばうように後ろに飛び退いた。
しかし、猫はそこに座っているだけで、何もしてこない。ただ静かにイワーヌシュカを見つめていた。あの夢の続きを思い出すたびに、イワーヌシュカの顔は真っ赤に染まっていく。
「や、やめろ!何を…何を見てるんだ…!」
イワーヌシュカは叫びながらも、猫から目を離せなかった。夢の中で猫が自分にしたことが頭をよぎり、その恐怖感が体の奥底に広がっていった。
猫はしばらくイワーヌシュカを見つめてから、ゆっくりと立ち上がり、姿勢を整えた。
「にゃん?」
黒猫は小さな声で鳴きながら、つぶらな瞳で彼を見上げてきた。その仕草があまりにも可愛く、イワーヌシュカはためらうことなく猫をひょいっと抱き上げた。
「うおおおおおおおお!!かわいい!!」
両手でしっかりと抱きしめると、猫の体温が心地よく伝わってくる。柔らかい毛並み、ぬくもり、小さく鼓動する心臓の音。イワーヌシュカは夢中になって猫を顔に近づけ、思いきり吸い込んだ。
「ふおおおおおお……これが……これが愛の神の祝福か……!!」
猫の毛の香りが鼻腔を満たし、イワーヌシュカは完全に幸福の境地へと到達した。
最高だ。
夢のこと?ちんちんを噛まれたこと?そんなものはどうでもいい。今、彼の腕の中には神の使いがいるのだ。むしろ、この猫こそが真実の愛の象徴ではないのか?
猫は嫌がる様子もなく、むしろ気持ちよさそうに喉を鳴らしている。イワーヌシュカの胸の中で丸くなり、前足をふみふみし始めた。
「……よし、決めた。」
イワーヌシュカはキリッとした表情で猫を見つめた。軍の規則で動物を部屋に連れ込むのは禁止されている。それは知っている。でも、この猫のかわいさに逆らうことなどできるはずがない。
「お前、今日から俺の部屋で寝るぞ。」
猫は「にゃーん」と鳴いた。まるで同意したかのように。
こうしてイワーヌシュカは、軍の規則を破ってでも猫を部屋に連れ込むことを決意したのだった。