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『不適切な内容』  作者: 鯉壁副草


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13/13

ふぐりと共に生きる者

軍営の夜は、静かであった。

遠くに響く夜警の声、焚火のかすかな爆ぜる音。

そして、その静寂を突如として切り裂いたのは──


「いいかげんにしろおおおおおおお!!!」


怒声であった。


医務室に、怒り狂うニニアンの姿があった。

その前には、またしても治療を受ける羽目になった哀れな男、イワーヌシュカ。

そして、床の上では、猫がふぐりを堂々と掲げながら伸びをしていた。


ニニアンは深いため息をついた。

「……お前、もう自分が何をしでかしているのかわかっているのか?」

イワーヌシュカは震えながら頷く。

「いや、本当に違うんだ、ドクター……。もう二度と、絶対に猫を部屋に入れまいと誓ったんだ。誓ったんだが……」

「……だが?」

「ふぐりがあまりにも尊くて……」


沈黙。


ニニアンは、こめかみを押さえながら呟く。

「……私は貴様のその愚行を何度許せばいいのだ?」

「許してくれとは言ってない!」

「許すかどうかの話をしてるんじゃない! なぜ噛まれる! どうして学習しない!」

「それが……気がついたら、猫が俺の顔の上に乗っていて……その、ふぐりを……」

「もういい!!!!」


ニニアンは立ち上がり、鋭い眼差しでイワーヌシュカを見下ろした。

「これは……呪いだな」

「……え?」

「お前は、何者かに『ふぐりの審判』を受けているのかもしれない」

「そ、そんなバカな……!」

「バカなことばかり繰り返しておいて、今さらバカなと言うな!」

ニニアンは険しい顔で腕を組んだ。


「何者かが、お前に試練を与えているのかもしれない。愛の神の使いである猫に、こうも執拗に狙われるとは……ただの偶然とは思えん」


「……俺はどうすればいい……?」

「この呪いを解くには、神の導きを仰ぐしかあるまい」

「神の導き……?」

ニニアンは厳かに頷いた。


「ローシュランドに『ふぐりの巫女』と呼ばれる者がいる。彼女は愛の神の神託を受ける存在だ。お前のこの呪われた運命が、彼女によって解明されるかもしれない」


「……ふぐりの巫女……!」


イワーヌシュカは震えた。

もしかしたら、この果てなきふぐり地獄から解放されるかもしれない……!


「行くよ、ドクター!」


「……は?」


「俺、ふぐりの巫女に会いに行く! この呪いを解くために!」

「……いや、今お前の意志の強さを問うているわけではなく、私は単に医学的見解を述べたにすぎないのだが」

「決めた! 俺、旅に出る!」

「ちょ、待てイワーヌシュカ、話を──」

「ありがとう、ドクター! お前がいなかったら、俺はきっとふぐりの沼から抜け出せなかった!」

「待て、違う、今の話はそういうことでは──」


イワーヌシュカは勢いよく医務室を飛び出した。


──こうして、猫とふぐりに翻弄された哀れな兵士の物語は、ローシュランドの「ふぐりの巫女」へと続くこととなる。



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