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第一章 ■同級生には興味なし

   第一章


 ■ 同級生には興味ナシ



  タイトル『オタク暴走族ってwww』 更新日時 四月十一日午前二時十五分

 

 ごきげんゆー! みんなぁ、今日もいいコで自宅自衛隊してたかなぁ? みこタンは今日も、西新宿で悪い人たちを全力で相手にしてました。もう、大都会だったからテレビ局が駆けつけるのが早くてちょータイヘンだったぁ。

 最近、暴走族がまたまた復活してますねぇ☆ レジェンド町だけじゃなく、新宿区や渋谷区、それから立川あたりでもその猛威をふるっているそうです。こわー☆

 なんだかねぇ、みこタン全力で思うんだけど、最近の暴走族って、よく漫画なんかで見かけるツッパリ全開な人たちとはちょっと違って、少し暗いんだよねー。ほら、みこタン登場シーンでいつもの決め台詞やるでしょ? 『摩装少女はかまミコ! ただいま見参! 墓まで持ってけはかまミコ!」ってさ。んで、もしも相手が普通の暴走族さんなら、

「なんだテメェよぉ! いま集会しテんだかっらヨ! ちっと引っ込んでてくれねーかな!」

 みたいなコト言うんだけど……いや、言うんだって。未だにいるんだよー? 茨城とか群馬とか神奈川あたりにこういう人たち。全力でナマってるし。

 でもね、最近の暴走族さんはなんて言い返してくると思う?

 じゃあみんなで考えてみよー☆ 三秒だけ時間をあ・げ・ゆ☆

 ワンっ、トゥースっ、リィッ☆ ぶっぶー。時間切れー。

 正解は、

「あ、みこタンだ! お、おいっ……誰かサインもらってこいよ」、「いや、お前がイケよ」、「無理だって、俺の話なんか聞いちゃくれねーよ。オタクだもん」、「俺だってオタクだよ! ちょ、おま、押すなって! 女の子と話なんてできねーって!」

 でしたーっ! きゃー☆ みこタン、悪い人たちの間でも人気者で困っちゃーう。

 …………

 …………って、誰か突っ込めってwwwww

 そうなの。いよいよ日本男児も末期って感じ。単車にもアニメのイラストとか描いちゃって、特攻服に『〇〇は俺の嫁』って刺繍がwwwwwオタク珍走団とか草!

 みなさんの応援のおかげで、今はいろんな所に引っ張りだこなみこタンだけど、このくらい警察の人で何とかしてくれっていうような悪者が多いって話ですのん(汗)

 町の皆さん! 摩装戦士を便利屋みたいに使わないでください!

 やっぱねー、摩装戦士の本当の敵はアレよ。邪装戦士。存在忘れんなっつーの。

 近頃じゃ少女や幼女の写真を撮ったり、「お兄ちゃん」と呼ばせることを強要したり、実害のある末端構成員もいるっていうから、いよいよアイツらも犯罪集団よね。昔はただ可愛いカッコをさせたり、衣装をプレゼントするだけの集団だったのに。って、それでも十分に実害あるかwww

 このブログを見てる皆の中にも、まだ十四歳未満のロリっ子がいるかもしれないから、この場を借りて言わせてもらうね。

 学校から帰る時、一人で道を歩く時は気をつけてほしいことがあるの。

 それは、怪しい人が近くにいたら胸のバッジを見ることよ。

 胸に青い鳥のバッジがついていたら、そいつらは邪装戦士。

 この人たちと出くわしたら、まあ慌てず冷静に、もらうもん貰っとくといいわ。

 でも、もしもそうじゃない人たちが近づいてきたら……ガチで危ない人たちだから全力で逃げるんだぞ。大声で叫びながらね。大丈夫。もしもみこタンが間に合えば、全力で助けてあげるから。

 さあ、そろそろママが全力で「お風呂入りなさい!」ってマジギレし出すから、ここらで日記は終了だお。みんな、明日も摩装少女・はかまミコをよろしくね!

 そんじゃ、全力でごきげんゆーっ☆

                          

                                      みこ


 ◆ ◆ ◆


 やっぱり、みこタンのブログはおもしろい。なにせ毎日更新なのにかかわらず結構なボリュームで、日替わりのコスプレ画像がついてくるのだから、こりゃ摩装戦士に興味がなくとも見てしまう。

 四月十一日。朝のホームルーム中、将志はこっそりと開いたスマホから、最近お気に入りのブログ『みこタンぶろぐ』をチェックしていた。

 みこタンというのは、最近人気急上昇中のネットアイドル兼コスプレイヤー兼……摩装戦士だ。

 摩装戦士。

 ってなんじゃそら。と突っ込みを入れたくなるも無理はない。将志だって、今現在この摩装戦士とはなんぞやと聞かれれば答えに迷うのだから。

 将志たち高校生が摩装戦士と聞いてすんなり話に入っていけるようになったのは、ここ一、二年のこと。

 ちなみに、摩装戦士や邪装戦士とはアニメや漫画のタイトルなどではない。将志も人から聞いた時はそう思ったものだが、どうやら東京近郊に出没する義賊――言い換えればちょっと変な人のことである。

 恥ずかしい格好で空を駆け、コンクリートをも砕く豪腕を振りかざし、時には武器でボコボコに殴りつけ、とにかく持っているステータスがいろんな意味で人間離れしている。

 こう、実際にその能力を口にしてみると、やはりにわかには信じがたいことであるが、驚くことにその摩装戦士が実際にテレビで人間離れした戦闘力を見せているのだから、少なくとも単なるうわさ話ではないことは確かだ。

 みこタンこと『はかまミコ』に関しては、メディアに顔を出してその人気を博している。インタビューにも応えるし、戦闘中の生中継も何度も放送されたことがあるのだ。ここまでやられると、存在自体は信じざるをえない。

 だが、今のところ、摩装戦士というものの正体は未だ分かっていない。特殊な衣装を身にまとい、人ならざる力を使って、この世の悪を討ち滅ぼすという正義の味方……としか公言されていない。さすがのみこタンも、自分の正体や摩装戦士やその敵勢力『邪装戦士』の詳細については一切を語らないのだ。

 ちなみに、この『みこタン』もとい、摩装少女はかまミコは、大きなキツネ耳に白とピンクの袴姿で、『木刀ブレード』という物騒な棍棒を振り回す。

 彼女が言うには、この世界にはまだまだたくさんの摩装戦士が存在するという。まあ、都市伝説よりは説得力のある話だが、人前に姿を現しているのがはかまミコ一人じゃ、摩装戦士と邪装戦士という設定まがいの事情を信用することは難しいだろう。

「って、摩装戦士と邪装戦士って……名前がどっちもすげぇ悪党じゃねーかよ……」

 パタム。将志はスマホを閉じて、黒板の上の時計を見上げた。ああ、ぼけーとしてたらもうすぐ一時間目が始まる時間だ。次の授業は初回の数学だから、先生の自己紹介やなんだでマトモな授業には移らないだろう。やったぜ。

 なんて呑気なことを言っていたら。

「こら、ホームルーム中だぞ。将志」

 見上げたとたん、腕組みをした結花先生が将志をキッと睨んでいた。

「げっ……結花先生」

 ヤバい。このレジェンド学園がいくら校則のユルい学校だからって、このご時世、スマホやゲーム機などのモバイル機器の使用には一昔前よりも厳しいのだ。

「没収」

「はい……」

 将志は姉に買って貰ったばかりのナウなスマホを結花先生に手渡した。結花先生は「放課後、音楽室に取りにきて」と告げて教壇に踵を返す。

「って、なんで音楽室?」

「ピアノ」

「とタバコ?」

「こら! 声がデカい!」

「またですか……じゃあ、奏子先生も一緒?」

「たぶんね。夜に彼氏とのデートとかなけりゃ来んじゃない? ああウザい。あの子、早く別れねーかな」

「親友なのにひどいこと言うんですね」

「親友だから過去も色々知ってるのよ」

 入学式のあの朝から、将志はこうして結花先生と仲良く話すようになった。「将志」と下の名前で呼んでもらえるようにもなって、なんだか同年代の友達が出来るよりも嬉しい気持ちになった。

 普通科と音楽科の違いこそあれ、昼休みや放課後はたいがい一緒にいる奏子先生ともお近づきになれて、将志は早くも羨望の眼差しで見られている。まあ、学園内で人気のある先生二人と親しくしているのだから、あの時音楽室で結花先生の木枯らしを聞けたのは幸運だったと言えるのだろう。あまり度が過ぎると、男子一同からイヤガラセを受ける可能性も否めないので、油断はできないが。

「ねえ、結花先生」

「んー?」

「先生は、摩装戦士って本当にいると思う?」

「あー、最近テレビ出てるあの可愛い子? さあどうかなぁ……でも、少なくとも警察や自衛隊が頼りにするくらい役に立つってことでしょ? なら、嘘だろうが別にいいんじゃない? いっそのこと公務員にしちゃうとか」

「公務員が何言ってんだよ」

 二人のやりとりにクラスの生徒が笑いをこぼした。まだ完全には打ち解けてない一年六組の生徒たちにとって、将志のように担任と仲の良い生徒が一人でもいると影響力が違うのだろう。

 レジェンド学園の高等部には、中等部からそのまま繰り上がりで進学した者もいれば、その数と同じくらいの外部入学生がいる。そんな高等部でのホームルームは、このくらいのおふざけがあったほうが良いのかもしれない。

「そうだ将志、あんたに、頼みたいことがあるんだけど」

「頼みたいこと?」

「そう。唐突だけど、今思いついた」

「唐突だな。で、何を頼まれるんだ? 俺は」

「うん、副委員長やってくんない?」

「え、なんでいきなり……」

 摩装戦士の話をしていたと思ったら、いきなりわけのわからない事を言い出す結花先生。ちょっと待て。クラス委員ならこの間決めたばかりじゃないか。どうして今更将志が新たな仕事を押しつけられなくてはならないのか。

 抗議の意を表した将志を一蹴する一言は、あまりにも結花先生の自己都合によるものだった。

「それがさ、委員長だけ決めればいいと思ってたら違うみたいで、クラス委員は二人必要なんだって。学年主任に叩かれた。でっかい三角定規で」

「うん。他のクラスも二人いるからおかしいとは思ってた」

「なら早く教えてよ。あたし叩かれ損かよ」

「いや、損じゃねーだろ。そこを俺のせいにすんなよ……で? その副委員長とやらを俺が引き受けなきゃいけない理由は?」

「委員長の隣だから」

 ズビシ。結花先生は、将志の隣の席で次の授業の準備をしているクラス委員長を指さした。人に指さしちゃいけないのに。

「……弥刀さんの、隣ってだけで?」

「うん。別にいーじゃん」

「強引だなオイ……」

 将志は、ちらりと隣の席を見やる。自分の名前を出されて顔を真っ赤に染めているお下げ髪の女子――弥刀麻美子が、ちょこんと頭を下げた。

 弥刀さんは、外部からの入学者だというのにいきなり学級委員に指名された哀れな編入生である。いつもモジモジしていて、これでもかというくらいに自己主張がない。だが存在感は人一倍ある。常にどよーんとした火の玉が頭の周りをくるくる回っていて、大きなメガネは常に異次元の光を反射していて表情を隠している。

 入学式のあと、三秒で過半数の生徒が彼女を学級委員長にと手を挙げた。よくあるパターンだが、弥刀さんはそのまま無言無表情で「やります」と推薦を快諾した。

 三日も隣の席にいる将志でも、未だ弥刀さんの性格についてまるで掴めていない。

(血圧低そうな子だよな……)

 じーっ。将志は立ち上がったまま弥刀さんを見る。

 おろした前髪とメガネで顔を隠している彼女だが、立った状態から見下ろすと、案外可愛い顔をしている事に気がつく。そして、意外と胸が大きいことにも。

「あ、あの……」

「え?」

 将志が弥刀さんの顔と胸。主に胸ををまじまじと見ていると、弥刀さんがこの距離でギリギリ聞こえるか聞こえないかというような小さな声でつぶやいた。

「須賀くん……その……えっと……」

「え……うん……」

 ヤバい。おそらくDカップはカタいだろうと思われるその高尾山をガン見していたことがバレたのだろうか。将志が慌てて視線を上に戻すと、目と目が合ったのか、弥刀さんはきゅーっと、更に顔を紅潮させてうつむいた。いや、こっちはそのメガネのせいで目が合ってるかどうかも分からないんだけど……。

「須賀くんに……お願いが……」

「え? ああ、俺にお願い?」

 弥刀さんは将志に何か言いたいことがあるようだが、元々ウィスパーな声を更に口元にとどめているため、呪いの童謡か何かを口ずさんでいるようにしか聞こえない。ぶっちゃけイラついた。

「あの……イヤだったらいいんだけど……」

 その前にまず声が小せぇよ! と思い切り言いたかったが、弥刀さんにそんな事を言ったら明日から学校に来なくなりそうだからやめておいた。クラスの注目を浴びるだけで泣き出しそうになってるのに、ここで将志が迫ったら絶対に泣く。そしてありもしないことを言いふらされる。そんな感じがした。いや、本能的に。

「副委員長のお仕事として……その……」

「うん……何……カナ?」

 早く言えよ早く言えよ早く言えよ用件をよ! 

 将志は、年上女性以外に興味がない。

 だけでなく、こういうモジモジしている子が正直苦手であった。

「須賀くんに、ご、号令係をお願いしたいのッ!」

「え? 号令……?」

「キャっ、言っちゃったッ!」

 起立! 礼! 着席! ドゴォッ! デァンッ!

「ギャッッ!?」

 将志は吹き飛んだ。

 顔を真っ赤にした弥刀さんはいきなりデカい声で叫んで、しかも将志に頼んだばかりの号令を自ら率先して行って、勢いよく立ち上がり椅子を後ろの座席にぶつけて、「きゃー」と両手で顔を覆いながら将志の顎に頭突きを食らわせて教室を飛び出していった。

 キーンコーンカーンコーン……

「あ、チャイムなってら……」

 あまりに最高のタイミングで鳴り響いたチャイムが、その場に居合わせたピカピカの一年生たちの笑いを誘う。しかも、かなり地味な笑いだった。シュールすぎる。ダメージは大きいのに、どこか腑に落ちない空気だった。

「将志……面白いけど、とりあえず血ィ拭きなよ」

「え? マジ? こんなことで流血? 俺」

「うん。舌噛んだんじゃん?」

「ありがと。センセ……」

 仰向けに倒れる将志。教壇の上から余ったプリント(上質紙)を将志の口に当てる結花先生。それを見守る一年六組の生徒たち。

「あのさ、俺バカだから分からないんだよ」

「何が?」

「弥刀さんに、命を狙われる理由だよ。教えて先生。国担だろ?」

 外部入学生の弥刀さんとは、席が隣という以外に何も接点はない。

 将志にしてみれば、ただモジモジされて頭突きを食らわされただけである。あまりに理不尽な委員長命令だ。

「バカだなぁ将志」

 結花先生は止血のためのプリント(上質紙)を将志の口にも詰め込んで、「ふう」と額をぬぐいながら立ち上がった。

「あれはな……恋だよ。恋」

 そういうもんかな。と言いたかった将志だが、ありえないほどに口の中へ詰め込まれた上質紙のせいで何も言えない。

「何も言えねーってか。いいな、若いって」

 ケラケラと笑う結花先生の生足を床から眺めていた将志は、一言もの申したかったが、視界に入った薄い青色のパンティのせいで追加流血しそうになったため、このときはおとなしく床に這いつくばっていたのであった。

 何が言いたかったのかというと、副委員長に任命されたせで、変な委員長に目を付けられたということ。

 この、委員長との接触が吉と出るか凶と出るか、その結果はこのあとすぐ分かることになる。



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