元聖女たちの思想
フランシスカとホウオウは、シュクレのエスコートの元、シュクレ率いる中立軍のアジトへ向かった。フランシスカとホウオウは、一旦どんな景色が広がっているのだろう、と思いながら。行く道は荒野だったし、争いを連想させるようだった。ちなみに、シュクレは馬から降りて歩いていた。フランシスカが馬に乗るように促されたが、フランシスカはそれを断った。
フランシスカとホウオウに、緊張の色が無かったわけではない。むしろ、緊張しているといっていいだろう。シュクレは害の無さそうな人間に見えたが、行く先がアジトだと言うのだから、衝突があるかもしれない。そう思っていた。
二人はとにかく、周りの様子を観察していた。正直に言えば、ひどい風景。木々は折れているし、地面は砂利まみれの灰色。空は暗雲立ち込めている。地平は続いているものの、その先にあるのは、闇しかなさそうだった。
「お二人とも、どうかしましたか?」
シュクレがフランシスカとホウオウの様子に気が付き、話しかけた。
フランシスカが応じる。
「いえ、なんでも。風景が、少し殺風景だと感じまして。むしろ、酷い」
「ああ、そういうことですか。ここでは少し前に、元聖女たちが、戦いをしていましてね。その名残ですよ。おそらく、アクドラの歴史書にも乗るような戦いだったと思います」
「戦いで、こんな……元聖女たちは、そんなに強いのですか?」
「強いです。私など、造作もなく殺されるでしょう。特に厄介なのが、第一聖女のクリアラです。この荒地は、ほぼクリアラが作ったといっても過言ではありません。クリアラさえいなければ、もう少し、皆の気持ちも落ち着くと思うのですが……戦う思想はあるようですがね」
「どのような」
「クリアラがアクドラを制すれば、国王はその力を認め、再び聖女に戻してくれる、そういう考えです」
「陳腐」
フランシスカは言い放った。シュクレはクスっと笑った。
「そう。しかし、そういう陳腐さが、厄介になることもあるのです」
その会話に、ホウオウ割り込んだ。
「クリアラってやつが悪い事はわかったが、誰が、その聖女と戦っていたんだ?戦いというからには、二勢力いないと、成立しない」
「その通りです。クリアラと戦っていたのは、第二聖女ナイムです。ナイムは、好き嫌いの別れる人種の人間だと思います。私は好きですがね。思想が」
「ナイムは、どんな思想を?」
「自分が正しいと思ったことをやる。この一点張りです」
「お会いしたいですね」
フランシスカは微笑んだ。正しいと思っていることが間違っている場合、大きな問題だが、それでも、正直で普通な人間に思えたからだ。
元聖女たちの話をしながら、三人はアジトへと向かった。