お前を殺そう
フランシスカとミリアムは、急ぎナイム領に辿り着いた。
そこにいたのは、他でもないナイム。ミリアムと目が合った瞬間、お互いに火花が走っていた。周りには殺気が漂う。仲介するのはフランシスカ。
「ミリアム、ナイム。いざこざがあったのは認めます。しかし、今は国王を倒すことに尽力すべきです。私情を捨てることは、貴女たちには出来るはずです」
「何もしらない貴女に言われたくはありませんね」
嫌味を吐くミリアム。ねっとりと。
「こういう性格だから、こいつ嫌いなんだよね」
ナイムも乗っかる。もはや喧嘩寸前。
戦力は揃っている。この喧嘩さえ乗り切れば。
「喧嘩と人生、どちらを取るか」
ホウオウが呟いた。深い赤の瞳で。
「人生でしょ。ありがと、ホウオウちゃん。わかった。私情は捨てる。で、国王ぶっ殺す準備は整ってるけど、そっちは準備出来てるの?」
ナイムが返した。ホウオウには心を開いている。
「まだ準備は終わっていません。情報の共有が必要です。ナイム、状況を教えてください」
「ほいさ。えーとね……」
ナイムが語りだした。周りにいる者はみな、その言葉を聞いていた。
そして、その後。
フランシスカが指示を出す。全員の中枢はフランシスカであり、指揮官である。戦場での指揮官はマリアンヌ。
「行きましょう。洞穴へ。国王をすぐにでも断罪すべきです。あの国の未来と、我々を救う。今こそ勇気を出して、飛び込みましょう。未来を掴み取るために」
「早い方がいいよね。国王に動きバレるから」
ナイムが賛同した。
ここに六つの聖女が立った。後は、国王と戦い、勝つか、死ぬか。
フランシスカ連合部隊は、洞穴へと歩みを進めていた。絶対にバレていないはずの洞穴。
ここさえ抜ければ、国王に見つからずに、国へ侵入できるはずの洞穴。
緊張が走っている。なにせ、見つかったら先制を許して終わりである。
先頭はナイム。最後尾がホウオウである。
バレてない。聖女達はそう確信していた。主にミリアムの魔力である。
慎重に、先へと歩みを進めた。洞穴の中は薄暗く、まるで暗闇が、こっちにおいで、こっちにおいで、と手招きしているようだった。
その招きにも応じよう。そう言わんばかりに。
戦いに身を投じる。そう決めた聖女達に揺るぎは無い。
一方、国王。
「くだらぬ酒だ」
酒をあおっている。不愉快そうな表情だ。それが完全に染みついている。
彼は気づいていない。聖女達の接近に。来る戦いの幕開けに。
「聖女共は無能だな。どの聖女を選んでも、役立たずばかりで。話にならぬ」
ゴクリ、ともう一口。
「そもそもが女如きが、偉そうにするなどと。笑わせてくれる。所詮は手駒に過ぎない者どもが」
フッと笑う国王。
それを遠くから窓ガラス越しに盗み見ていた者も、フッと笑った。
「じゃあ手駒にぶっ殺されてもしょうがないよね」
ナイムだった。先陣を切るのは彼女。
勿論、ナイムを先頭に立たせる不安は聖女達にあった。水晶玉で未来が見えていたからである。だが、ナイムが譲らなかった。戦いの鍵を握るのはホウオウであると。ホウオウだけは死んではいけないと。その要求を聖女達は飲んだ。ホウオウも。
聖女達は城の一階正門前。国王は三階の自室。
国王も流石に気づいた。国王は雑魚ではない。
「反乱か?」
すぐに意図に気づく。国王は近衛兵を呼ぼうとした。
瞬間、ミリアムが跳躍。魔法である。三階と同じ高さまで。
「私次第なんだから、やることやらなきゃね」
ミリアムが呟いた。そして、光の矢を空中に放ち、三階を狙い撃ち。
国王は反撃に転じる。
ミリアムと国王の、壮絶な打ち合い。
この戦いは、ほぼミリアムにかかっている。国王に接近できるだけの時間を稼げるかどうか。ミリアムがそれまで持つかどうか。
マリアンヌは一階正門前で待機。指揮官。イグドラシルも隣にいる。さらにオルエン。
ナイムとフランシスカ、ディークとホウオウは中へ。ディークは部下と共に、二階を鎮圧させる役割。残念ながらディークに国王と戦うだけの力はない。
渾身の力で祈るしかない。四天王の指輪をつけているのは、ナイム、ホウオウ、ミリアム、マリアンヌである。この際重要なのがマリアンヌ。
『2階左手に近衛兵』
マリアンヌのテレパス。しかも対象は全体。かかる負荷は半端ではない。
それでもやるしかない。状況を見なければ勝つことは出来ない。
ミリアムは敗色濃厚を感じている。やはり国王は強い。全力を出しているのに、相殺で手一杯。国王は本気を出していない。甘く見られてこの状況。
「フリーズ」
氷の壁を作り出すミリアム。そして魔力を貯める。国王は遠慮なく魔法を撃ってくる。
「早くしろよなナイム」
チッ、と舌打ちしながらミリアム。
ナイムの位置。俊足の彼女は三階に到着していた。隣にホウオウ。他はまだ二階である。
要するに、ナイムとホウオウだけが国王と対峙できる。ミリアムの時間切れもあと少し。
「ホウオウちゃん、絶対落ちちゃダメだよ。私は見捨てること。忘れるな」
「はい」
ナイムが先陣を切って、国王の部屋の扉をぶっ壊した。
俊足。地面を滑り、国王の懐へ。
「死ね」
ナイムの俊足の一撃。
だが、国王はそれを懐刀で受け止めた。
ナイムは悟った。ああ、やっぱり駄目だったか、と。
反撃の一撃。ナイムはそれを読み切れない。
直撃。ナイムが切られ、血が染み出る。
それを目視していたホウオウ。だが、向いているのは国王の方。
約束したから。絶対にナイムより国王の撃破を優先すると。
悟ってもいた。自分しか国王には勝ち得ないのだと。
「巻き起こすごと風の如く」
突風を巻き起こすホウオウ。ナイムの血も宙に舞う。
「殺す」
「聖女以外の曲者か」
上から見下すような国王。ミリアムはもうほとんど魔力切れである。
フランシスカが三階へ。治療。治療。最優先。
ホウオウは一撃で決める気でいた。
「閃光」
踏み出す。国王を貫通して、国王の背後に。
背中から横一閃。取った。
国王の体が。上半身と下半身。真っ二つに割れた。
勝った。そう安堵したホウオウ。
だが、次の瞬間、分離した国王の体は、引き寄せ合いくっついた。
「は?」
ホウオウ。
「曲者にしてはやるではないか。命の宝珠を使うことになるとは……私はね、一回死ねるのだよ。さて、種切れかな」
国王の太刀がホウオウに降りかかる。
ナイムとの訓練を思い出すホウオウ。今自分が耐えて、ナイムをフランシスカが起こすしかない。それしかない。
それしかない!!
ホウオウが国王相手に防戦に回る。
強い。国王は圧倒的に強い。
だが防ぐ。防ぎきるしかない。だが、体が軋む。
持たない。
外からミリアムが光の矢を放つ。時間稼ぎにしかならない。
フランシスカがナイムを治療している。俊足。俊足で。ナイムが立ち上がる。
同時に、ホウオウの剣が折れた。名刀が。
もう戦えるのはナイムしか残っていない。
「ナイムか。さて、お前たちの敗北のわけだが、何か言いたい事はあるかね?」
「言いたい事?」
にっこり笑うナイム。
「そうだ。なんでも言ってみろ」
「じゃあ……」
ナイムは剣を仕舞った。
「さようなら」
直後、国王の体がバラバラになった。
国王の最後の一言。
「な……何故、貴様の能力が……効かない……はず」
床に飛び散る国王。フランシスカはホウオウの元へ。
「ホウオウちゃんがね、風の剣技を使ったんだよ。だから、私の血が飛び散った。私は、あんたを殺したんじゃない。あんたに付着した私の血を殺したんだ。隣接してるからアウトっわけ……さて……」
ナイムは倒れこんだ。
「後はフランシスカ、あんたに全部任せるわ」




